Page 2 / 3 1ページ目から読む

Instagramを通じて1万人ものリスナーに歌が届いた

――卒業後は就職も経験されているそうですね。会社員時代は、どんな感じだったんですか。

「普通の会社員でしたね。会社員としてやっていける自信もあったけど、本当にやりたいことは歌だし、常に迷っていたような気がします。土日休みだったので、平日の音楽のお仕事を受けられないのは悲しかったかな」

――順調だった仕事をやめて、音楽に絞ろうと決めたきっかけってあったんですか?

「一番近くにいた先輩が、〈有華ちゃん、音楽一本でやっていったら〉って提案してくれたことですね。一緒にランチをしているときの出来事だったんですけど、昼休みが終わったら、すぐ課長に〈会社をやめたいです!〉って伝えにいきましたもん(笑)。きっと誰かに背中を押してもらえる瞬間を、無意識に待っていたんでしょうね。先輩には今でもすごく感謝しています」

――知名度を一気に上げたInstagramでの弾き語りは2015年から始めていますね。なぜやろうと思ったのでしょうか?

「自分の歌を聴いてもらいたい一心でした。ファンを増やそうとか、ライブのお客さんを増やしたいとかも全く思っていなくて。Instagramに載せられる動画の尺が長くなったので始めてみたら、今のような状態に。あのとき始めて、本当によかったです」

2021年1月11日の投稿。宇多田ヒカルの“花束を君に”をカヴァーしている
 

――〈これは、すごいことになるかもしれない〉と思ったのは、どのタイミングでしたか。

「フォロワーが1万人を超えたときかな。増加していくスピードもどんどん速くなっていたし、2017年にワンマン・ライブのチケットを販売したら即完。いざライブで幕が開いたときも、お客さんがたくさんいてびっくりしました。こんなことってあるんだな、自分もアーティストなんだなって。

あのワンマン・ライブは、間違いなく自分のターニング・ポイントになりましたね。〈音楽で生きていくのは無理だろうな〉と諦めかけていた自分に、希望の光が差したというか。もっと音楽を頑張ってみようと思えました」

 

真っ直ぐな声で真っ直ぐな言葉を歌うのが有華

――1月13日には1年ぶりのアルバム『Cherish it』がリリースされました。どのような作品になっていますか?

「私が今伝えたいこと、歌いたいことを詰めこんだアルバムになっています。前作の『キミノサプリ』(2019年)は〈こういうシチュエーションで聴いてほしい〉という明確なイメージがあったんですけど、『Cherish it』はあまりそういうのがなくて。自分自身がずっとテーマにしている〈寄り添う〉に沿った1枚になりました。

サウンド面では“Only One”で初めて生のストリングスやグランドピアノの音を入れたり、“なんでなのかはわからないけど”ではピアニストとクリックなしの一発撮りに挑戦したりしています。以前のポップさに増して深みも出て、〈アーティスト有華〉になっているんじゃないかな」

『Cherish it』収録曲“Only One”
 

――〈今伝えたいことを詰めこんだアルバム〉というと、最近の曲ばかりなのですか?

「そんなことないですよ。“ピーターパンシンドローム”は、3年前に出来た曲ですし。コロナ禍のなかで作ったのは“ココロのおはなし”と“なんでなのかはわからないけど”、“Only One”。昨年は身近な人が亡くなったり、コロナの影響で音楽ができなくなったり、〈自分にとって大切なものってなんだろう〉と考えた1年だったので、その気持ちを経て届けたいと思った7曲を選んでいます」

――自粛期間は、何をされていましたか?

「実家に帰り、姪っ子のベビーシッターをしていました。子どもって本当にストレートなんですよね。泣きたいときに泣くし、思っていることがあったら口に出して伝えるし。その素直さに、すごく刺激を受けました。“ココロのおはなし”の〈出来ない理由を繋げる力より/胸を張って宣言する力が欲しい〉という歌詞は、姪っ子と過ごすなかで思ったことなんです」

『Cherish it』収録曲“ココロのおはなし”
 

――じゃあ、推し曲も“ココロのおはなし”ですか?

「それは“なんでなのかはわからないけど”やと思います。リアルタイムの自分を一番表しているし、コロナが流行らなかったら出来ひんかったやろうなって。

2020年4~5月頃の外出自粛期間には、寝ようと思い布団に入ると〈ひとりぼっちやねんな〉って強く感じることが多かったんですよ。実家にいたから人と触れあっていたし、物理的にはひとりじゃなかったのに」

――〈ひとりぼっち感〉といいますと。

「結局、自分の味方をできるのは自分しかおらんな……って実感したというか。思うように音楽活動ができなくて、立ち止まっている感覚がすごく強かったんです。〈こんな状況でも頑張るぞ〉と思っていたつもりなんですけど、今思えばもがいていたように感じますね」

『Cherish it』収録曲“なんでなのかはわからないけど”
 

――その率直な気持ちがこの曲に、強く反映されていると思います。有華さんの書く歌詞って、どれもストレートですよね。

「本当はめっちゃおしゃれな歌詞とか書きたいんですよ。でも、残念ながら語彙力がなくて (笑)。本を読むのも苦手で避けてきたし、言葉に特化せず生きてきたから、伝え方がシンプルになってしまうんです。

コンプレックスに感じている部分でもあったので、いろいろ工夫してみたんですけど、どうにも気取っていて私らしくない。最近になって、真っ直ぐな声で真っ直ぐな歌詞を歌うのが私だと受け入れられるようになりました」

――気にされていた時期もあるんですか。

「この1年は、びっくりするくらい自信がなくて。Instagramのフォロワー数の増減に一喜一憂するし、SNSと向き合うことが初めて嫌になりました。ファンの方とお会いする機会が減って、不安になっていたんでしょうね。ライブで直接みなさんの顔を見たら、〈これだけ強く繋がっている人がいれば大丈夫だ〉って思えたので」