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クリエイターの遊び心

 また、このアルバムの醍醐味は、第一線で活躍するさまざまなクリエイターが華を添えているところ。もともと初期HARCOは、デザイナーなどクリエティヴ志向のリスナーが多かったが、彼ら/彼女らがアルバムに奥行きや深みを与えている。

 例えば、1~4曲目までのエレクトロニックな歌ものは、電子音楽家で作曲家の安田寿之(元 Fantastic Plastic Machine)のカラーが強く出ている。「僕のもともとのトラックの上に、もうこれでこのままリリースしてもOKというくらい、緻密に組んでくれた」と青木も言う。

 HARCO時代から青木を支え続けているギタリスト・石本大介の存在も重要だ。かれこれ10年以上に渡って青木の作品に関わってきた彼は、今回も重責を担っている。

 「彼は日頃から新しい音楽や機材に鋭いアンテナを張っていて、そのギター・プレイは常にアイデアに溢れてますね。例えばティコの最近のサウンドのような、打ち込みに重ねるバッキングが巧い。引き出しがいくらでもあるんですよ」。

 そして、2曲の作詞を手掛けるのは歌人の伊波真人。青木との偶発的な出会いをきっかけに、“秋を待たずに”“水のなかの手紙”で作詞を手掛けている。

 「彼の本を普通に本屋で買って、その日のうちに彼のTwitterにハートマークを押したら、すぐにコンタクトをくれて。僕のリスナーだって言ってくれたんですよ。そこから何度かお茶するようになって、EPに引き続いて歌詞を2曲書いてもらいました。詞が先の時は、5・7・5ではないけど、例えば8・5・6とか、A・B・サビごとにパターンを分けながら、適度なリズムで綴ってくれるので曲が描きやすいですね」。

 HARCO時代からこだわってきたデザインは今回も鮮烈。CDの内容はもちろん、ひとつのアート作品として突出したセンスを感じさせる。ロゴひとつとっても、抜群の仕上がりだ。

 「それは嬉しい! 最近は〈SKG〉という助川誠くん率いるデザイン会社にお世話になっていて。特にタイポグラフィーに定評があって、いつも凄まじいものが出来上がるので信頼してます。僕はアナログよりもむしろCDに愛着があるほうで。サブスクリプション・サーヴィスに音源を上げつつも、濃いジャケを作りたい。助川くんたちと毎回、命を削り合うようにして創っていますね」。

 ジャケットのアートワークは、NY在住のアーティスト・菊地麻衣子が担当している。1曲ごとにイメージを膨らませ、CDのブックレットに曲数のぶんだけ作り下ろした作品を提供。アルバム全体を、まるでひとつのストーリーのように仕立て上げている。

 「先ほどの伊波くんと似ていて、彼女もHARCO時代の97年から僕の音楽を聴いてくれていました。パフォーミング・アートもやる人で、2018年のはじめにNYへ行った時に劇場で見させてもらいました。作品のほうは、どれも彼女しか描けない独特の〈影〉がある。昔の海外のインディー・カルチャーを新たに解釈しているようなところも好きですね」。

 また、青木はTVCM・映画・演劇の音楽制作のほか、楽曲提供、ギャラリーでのサウンド・インスタレーションも積極的に行ってきた。そんな可動域の広い青木による今回の新作は、歌人、美術アーティスト、グラフィックデザイナー、音楽クリエイターといった創作ジャンルの境目を越えて統合させた、〈チーム青木〉による渾身の一枚と言えるのではないか。アーティスティックな内容でありながら、明快なJ-Popとも同列に聴ける。クリエイターの遊び心を刺激しつつも、オープンで間口が広い。そんなアルバムだ。稀に見る傑作の誕生を、静かに祝いたい。

左から、コスモズ・ミッドナイトの2018年作 『What Comes Next』(Nite High)、ラプスリーの2020年作『Through Water』 (XL)、クレイロの2019年作『Immunity』(Caroline)、アーロ・パークスの2021年 作『Collapsed In Sunbeams』(Transgressive)

 

青木慶則の作品。
左から、2018年作『青木慶則』、2019年作『冬の大六角形』(共にSymphony Blue Label)