HARCOから青木慶則へ──その音楽性の変遷を辿ってみよう
青木慶則がHARCOとして初音源『POOL』をリリースしたのは97年のこと。その後、冨田ラボのプロデュースによる2枚のシングルを挿み、2000年にはメジャー・デビュー作となったミニ・アルバム『大気圏シャワー』と、初フル・アルバム『シンクロの世界』を発表。バンド・スタイルに寄った2002年作『HARCO』、2004年作『Ethology』に始まって『Night Hike』『Wish List』と続いたCoaからの3部作と、コンスタントにリリースを重ねていく。ドラムスのほかにギターやピアノ、マリンバなどを操るマルチ・プレイヤーぶりを駆使したアンサンブルと、エレクトロニクス、メロディアス&リズミカルな旋律、フレンドリーな歌心が重なるその作風は、エキセントリックでありながら人懐っこくポップ。当時はさまざまな音楽ジャンルを孕んでいた渋谷系の発展形とも評されていたが、現在の耳で聴けば、歌もの×ジャズ/ヒップホップ~ネオ・ソウル~ソウル・ポップ~シティー・ポップと、昨今の日本のインディー・シーンの潮流とも密に繋がるものだ。
そして、活動10周年にあたる2007年にはYUKIへ提供した“夏のヒーロー”のセルフ・カヴァーやadvantage lucyとのコラボ曲も収めたフル・アルバム『KI・CO・E・RU ?』を発表。浜野謙太ほか多彩なゲストも参加し、節目を飾る集大成的な一枚となった。以降は、2010年作『Lamp & Stool』、2015 年作『ゴマサバと夕顔と空心菜』、HARCO名義での最終作『あらたな方角へ』と、ジャズやAOR、ブラジル音楽などに時折エレクトロニックな意匠も織り交ぜ、洒脱さと親しみやすさが共存する日常使いのポップソングを表現。シンガー・ソングライター然とした佇まいが色濃くなると共に、本人名義の活動へ移行することに。
なお、青木は自身の作品以外にも多くの外部仕事に携わっているが、その最新の例となるのが全面プロデュースを担った乙川ともこの初アルバム『元気で過ごしてますか?』。HARCO~青木慶則作品の直系となるポップ・アルバムに仕上がっているので、そちらもぜひチェックを。 *土田真弓
左から、HARCOのベスト盤『PICNICS -BEST OF HARCO-〔1997-2006〕』(witz/ポリスター)、『Ethology』『Night Hike』『Wish List』をまとめたリイシュー盤 『E/NH/WL 2004-2006』(HARCOLATE)、2007年作『KI・CO・E・RU ?』、2010年作 『Lamp & Stool』、2015年作『ゴマサバと夕顔と空心菜』、2017年作『あらたな方角へ』(すべてwitz/ポリスター)、乙川ともこの2021年作『元気で過ごしてますか?』(Symphony Blue Label)