音楽への道は、突然、外からの力で扉が開くことがある。現在、福岡を中心に活動するtaiyoが初めて曲を作ったのは、今から3年前の大学1年生のとき。同じダンス・サークルに所属するラッパー志願の友達に「この曲のサビを作ってくれないか?」と頼まれたことがきっかけだった。

 「最初はiPhoneのGarageBandでメロディーとリリックを録ったレヴェルなんですけど、めっちゃおもしろい遊びを見つけたなっていう感じでした。その後、すぐにマイクと機材を買って独学で曲を作りはじめたんです」。

 taiyoがファースト・シングル“Drama”をリリースしたのは、それから約1年半後の2020年7月。曲調はポップなファンクだが、歌詞は自身が体験した人間関係の悩みがテーマ。その葛藤を互いに事情を抱えた恋と重ね合わせて綴った。

 「当時、〈信じていたものって簡単に崩れるんだな〉っていうことを経験したんです。物事の善し悪しは一概に決められないと思ったし、自分の常識の狭さにも気付いた。ただ、自分に見えてる世界が思うようなものじゃなくても楽しむことを忘れちゃいけないよね、みたいなことを伝えられたらいいなと思ったんです」。

taiyo 『RE:RUN』 taiyo(2021)

 同曲も収録した今回のファースト・アルバム『RE:RUN』では、シティ・ポップ風のナンバーからフューチャー・ベース、トラップやチル系R&Bなど、ヴァラエティーに富んだサウンドを展開。そのうえでtaiyoは、歌に軸足を置きつつ、ラップ寄りのフロウもこなせるスキルを披露している。そんなアルバムのタイトルには、〈ここからもう一度気を引き締めてやっていこう〉という気合いが込められている。

 「〈再スタート〉とか〈再起動〉という思いで付けたんですけど、〈rerun〉という英単語には〈再上映〉とか〈再放送〉という意味もあって。“Drama”を作ったときに音楽をガチでやっていきたいと思ったし、僕の原点的な曲でもあるので、関連付けたタイトルにしたんです」。

 アルバムの幕開けを飾る“RE:RUN”は、周囲とのヴァイブスにズレが生じてきたことから制作。思うように進めないもどかしさを抱えながら、ここから走り出していこうというtaiyoの決意を表明した曲だ。MVに登場する、全身をトイレットペーパーでグルグル巻きにした男たちには、taiyo自身の姿も投影されている。

 「トイレットペーパーマンは、長いものに巻かれて身動きが取れない人たちを表現してるんです。常識に囚われたり、周りの目を気にしてる人たち。やりたいことがあるのに、やれない理由をつけて一歩を踏み出せない人たち。僕はそこから抜け出そうと思ってこの曲を書きました」。

 本作には、茨城出身の同世代シンガー・Chazzyや、2020年春に行われたオンライン・マイクリレー〈Red Bull Our Bars〉で優勝を果たしたラッパーのFionn Millyが客演で参加。“snow jam”でのブレイク前から交流があったというRin音を迎えた“Sun”は、当初、自分たちの世代観によるブラック・ミュージックの消化をめざしたそうで、途中に出てくる女性のゴスペル風コーラスはその名残。リリックは、音楽がもたらす救いやピースをテーマにしている。

 「人の心には浮き沈みがあるけど、明けない夜はないし、それって沈んでは昇る太陽に重なるなと。あと、太陽は人々を照らすものでもあるから、自分たちの音楽がそういう存在にもなってほしいという願いも込めました」。

 Rin音を筆頭に、クボタカイやMANON、ICARUS、RAKURA、さらに本作にも参加している10代女性シンガーのI'mなど、新進気鋭アーティストが次々に現れ、ユース・カルチャーが花開いている福岡。その状況について、taiyoは「本当に刺激になってます。自分のモチベーションを保つにはマジで十分すぎる(笑)」とコメント。早くも次作への意気込みを示してくれた。

 「今回のアルバムでは僕の幅を見せられたと思うので、次は自分のスタイルを確立したい。めざしているのは、玄人向けの曲調をポップス寄りに変換すること。福岡で音楽をやってる人間は本当に多いし、彼らに負けないように、これからもっとアーティストとして成熟していかなくちゃな、と思ってます」。

 


taiyo
99年生まれ、長崎県佐世保市出身の現役大学生シンガー。2019年頃より音楽活動を開始し、現在は福岡を拠点に活動中。2020年7月にファースト・シングル“Drama”を発表。タワーレコードと〈Shimokitazawa SOUND CRUISING〉による連動企画〈タワクル福岡〉で3週連続1位を獲得するなど注目を集める。同年8月にはChazzy をフィーチャーしたセカンド・シングル“Let me”を、10月にはラッパーのFixとのコラボ曲“lover”をそれぞれ配信リリース。2021年には1月に3枚目のシングル“melt kiss”を、2月にはアルバムからの先行カットとなる“RE:RUN”を送り出し、このたび、初のフィジカル作となるファースト・アルバム『RE:RUN』(taiyo)をリリースしたばかり。