期待の次世代トラックメイカーが自分自身に問い直した音楽をやる意味とは——その答えは多彩な才能とリンクして作り上げた『星空少年』の中に瞬いている!

伝えるための楽曲作り

 中学2年のとき、DJ FreshNess-Cutに誘われてレゲエ・サウンドマンとして始動。17歳でジャマイカに渡り、帰国後はDJ/トラックメイカーとしての活動をスタートしたiCE KiD。2019年11月にはOZworldや¥ELLOW BUCKS、SANTAWORLDVIEW、Merry Deloら若手ラッパーをフィーチャーしたファースト・アルバム『Aquarius』を発表し、〈次代のレゲエ/ヒップホップを担う気鋭のクリエイター〉という評価を手に入れた。そのように20代前半にして、アーティストとしての豊富な経験とキャリアを得た彼は、しかし、コロナ禍の2020年に大きな壁にぶつかったという。それは〈音楽をやる意味〉を自身に問い直す契機になった。

 「『Aquarius』までは、音楽が好き、ヒップホップが好き、レゲエが好き、というだけだったんです。言いづらいんですけど、音楽をやって、お金持ちになって、女の子と遊んで、みたいなイメージしか持てなかった。でも、だんだん何のために音楽をやってるのかわからなくなってきたんです。単に音楽が好きとか成功したいとかだけではリスナーに何も伝えられないし、やってる意味がないなと。1年間いろいろ悩んでるなかで、聴いてくれる人を少しでも幸せにしたい、世の中をもっと良くしたい、と思うようになって。例えば僕の曲がラジオから流れてきて、リリックを聴いた人が〈俺のやりたいことは何だろう?〉とか〈もう少しがんばってみよう〉と思えるような曲を作りたいな、と。その集大成が、この『星空少年』というアルバムですね」。

iCE KiD 『星空少年』 WESTa IN a music/Village Again(2021)

 音楽観のドラスティックな変化は、ビートメイク、サウンドメイクにも大きな影響を与えた。以前は「〈いいな〉と思う曲のビートの打ち方を参考にして作ることが多かった」そうだが、昨年以降は自分自身と向き合い、そのときの感情にフィットするリズムを模索するように。その結果、『星空少年』のサウンドは、ジャンルを大きく超越し、どこかスピリチュアルな雰囲気を感じさせるものに仕上がっている。

 「僕は奈良出身で、いまは大阪に住んでいるんですけど、森や山、海に出かけて、自然のなかでトラックを作ってたんですよ。たとえば1曲目の“Intro”(feat.Tio)のトラックは、和歌山の崖の端っこに座って、瞑想してときに浮かんだんです。チルな気分もあったし、ここから未来に向けてがんばろうという気持ちもあったので、キックは少し早くなってますね。その場でパソコンに打ち込んでいくので、寒いときは大変なんですけど(笑)」。

 また、フィーチャーするアーティストとの関係性、リリックの作り方にも変化が。トラックを作る際に感じたことを殴り書きし、それをラッパーやシンガーと共有しながら、〈伝えるべきこと〉を追求。強いメッセージとファンタジー的な世界観を共存させた、独自の歌の世界を作り上げている。

 「まずは自分が感じていること、考えていることをアーティストに伝えて、話し合いながら作っていきました。お互いを高め合うことで、リスナーにしっかり伝わるものになったと思います。Rin音くんとの“流星”もそう。Rin音くんとは今回の制作のなかで偶然繋がったんですけど、アルバム全体のテーマを共有することで、この作品で伝えたいことを集約できた」。