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佐藤直紀 『大河ドラマ 青天を衝け オリジナル・サウンドトラックI』 avex-CLASSICS(2021)

 「約1年にわたりドラマを見て頂く視聴者に向けて、渋沢栄一という人はこういう想いを抱いて生きていたのだよ、ということが音楽を通してだんだん染み渡って行けば良いのかなと思います。そういう意味では〈即効性〉のない曲かもしれません。最初に『ジャ、ジャ、ジャーン』と圧倒して、惹き付けるというタイプの音楽ではありません。ひょっとしたら物足りない方もいらっしゃるのかもしれませんが(笑)、長く見続けて下さる方に染み渡って来る曲になってくれたら、と思って書きました」

 そのテーマ曲だが、尾高忠明指揮によるNHK交響楽団が演奏している。実は指揮の尾高忠明は渋沢栄一の曾孫にあたる(栄一の娘・文子が尾高次郎に嫁ぎ、ふたりの四男・尚忠が作曲家・指揮者となった。その尚忠の息子が尾高忠明である)。子沢山の栄一だからこそ繋がった不思議な縁と言えるかもしれない。

「テーマ曲は渋沢栄一の思う日本の未来とか、希望がキーコンセプトになっているのですが、尾高さんは本当にその意図をよく理解して下さって、演奏の中にそうした想いを込めて下さったと感謝しています。北風と太陽の喩えで言えば、太陽のような、優しく照らすイメージの音楽にしたいとプロデューサー、監督、音響デザイナーの方と話していたのですが、まさにそういう演奏です」

 テーマ曲の長さは2分50秒ほどだと言うが、その中に実にたくさんの想いが込められていることを知って聴くと、音楽がさらに広がりを持って聴こえるだろう。

 大河ドラマでは、テーマ曲だけでなく、番組の最後にドラマゆかりの地を紹介する〈紀行〉の部分の音楽もよく話題となる。今回の『サウンドトラック1』にはバンドネオン奏者の三浦一馬が演奏する〈紀行1〉の音楽が収録されている。2021年はアルゼンチンタンゴの巨匠アストル・ピアソラの生誕100年でもあり、まさにバンドネオンの音色は今年を象徴するとも言える。

 「実は、僕は民族音楽の楽器を使うのがとても好きで、サウンドトラックの中にも様々な民族音楽の楽器を使っています。それらの中でもバンドネオンという楽器はとても不思議な音色を持っていると思います。あえて言うならば、バンドネオンは完成していない楽器で、その未完成な音色が魅力だと思うのですが、それがドラマの最初の舞台となる血洗島の風景にフィットするような気がしました。これから前に進もうとする若き栄一の姿にバンドネオンの音色を重ねて聴いて頂ければ嬉しいです」

 今回のドラマ制作、音楽制作は新型コロナウイルスの流行下での作業となって、これまでとは違う部分も多いようだ。テーマ曲の収録もいつもより大きなスタジオで、演奏家のディスタンスを確保しながら行われたと言う。

 「確かに新型コロナの影響はあるものの、ドラマ制作も音楽制作もそれを言い訳にせずに、より高いクォリティーを目指しています。こういう時代だからこそできるドラマ作り。それはテレビ画面を通してご覧になる視聴者の方に伝わると信じています」

 と、佐藤は語る。必ずしも順風満帆ではなかったけれど、それでも希望を失わずに進んだ渋沢栄一の姿は、まさにこの時代にふさわしいヒーロー像なのかもしれない。

 


佐藤直紀 (Naoki Satou)
89年東京音楽大学作曲科に入学し、93年同大学を卒業後、映画、ドラマ、CM、イベント等、さまざまな音楽分野で幅広く活躍する。2006年「ALWAYS 三丁目の夕日」が、日本アカデミー賞の最優秀音楽賞を受賞。

 


TV INFORMATION

2021年 大河ドラマ 青天を衝け
NHK 総合 日曜日 20:00~
NHK BSP・BS4K 日曜日 18:00~
〈再放送〉NHK 総合 土曜日 13:05~
www.nhk.or.jp/seiten/

 


EXHIBITION INFORMATION

NHK大河ドラマ特別展
青天を衝け 渋沢栄一のまなざし

埼玉県立歴史と民俗の博物館(さいたま市大宮区高鼻町4-219)
開催中~5月16日(日)9:00~16:30(観覧受付は16時まで)
休館日:月曜日
saitama-rekimin.spec.ed.jp/