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動物をテーマにしたコンセプチュアルな新作

――このタイミングでのアルバムのリリースになったのは、現体制が安定したということでもあるのかなと思うのですが、いかがでしょうか。

大嶋「それが、延びに延びて今という感じなんです。曲自体は2020年11月のワンマンの時点で全部あったので。コロナの影響もあって、年内は難しいな、じゃあ翌年の2月かな、それも難しいから4月かな……となっていって、流通と相談して、最終的に連休明けのこのタイミングになりました」

――そうだったんですね。そうなった結果、5人で歌う曲も増えたという。

大嶋「それもありますし、延びたから入った曲もあります」

小嶋「結果オーライですね(笑)」

――昨年7月リリースのシングル“フェニキスの涙”は3人体制でしたよね。ということは、真城さんの歌が音源に収録されるのも初になりますよね。

真城「初参加です。とっても嬉しいです! これまでは3人の声が入った音源や芽瑠さんがいらっしゃったときの音源で練習してきて。私はライブでは歌ってるけど、音源には入ってないしな、という寂しい思いをしていたんです。もちろん新メンバーなのでしょうがないことなんですけど。今回、ようやく音源に入れていただけるので、私がメンバーだよというのが形として残るのがすごく嬉しいです」

――浅水さんもそういう時期ありましたもんね。自分が歌ってない音源にサインしたり。

浅水「入ってすぐの頃に“Nucleus”のリリース・イベントがあったので、声も入ってないのにサインしていいのかなという気持ちはたしかにありました(笑)。曖昧な立ち位置だなという気持ちはあって、初めて自分の声が音源に入ったときは嬉しかったのを覚えているので、奈央子ちゃんの気持ちはすごく共感できます」

――といったあたりでアルバム『Le carnaval des animaux -動物学的大幻想曲-』の話に入っていきたいのですが、今回もコンプチュアルで、すごいことになっていて。

一色「前回のアルバム『The Both Sides Of The Bloom』が〈アイドルの一生〉というテーマだったんですけど、今回は〈動物〉がテーマで。私は今まで色んなアイドルのアルバムを収集してきましたけど、テーマを決めてアルバムを作るというのは……プログレの世界ではよくあるみたいですけど、アイドルではそんなにないので面白いなと思います」

真城「全体でひとつの作品になっている感じが素敵だなと思います」

 

全編英語詞の挑戦的な“Altair(孤高の荒鷲)”

――すべてが動物にちなんだ曲になっているんですよね。まず1曲目の“Altair(孤高の荒鷲)”ですが、いきなり全編英語詞のチャレンジングな曲です。

一色「私たちも大パニックでした。歌詞が届いたのがレコーディングの数日前で、〈全部英語だな?〉って(笑)。でも、奈央子ちゃんが帰国子女なんですよ。心強いなと思いました」

真城「一応、得意分野です」

小嶋「奈央子ちゃんはイギリスにいたので、イギリス英語とアメリカ英語の違いもあったんだよね」

真城「たしかに発音をどうすればいいかなというのはありました」

――とはいえ真城さんの存在はかなり心強いですよね。

一色「どうにもならないときに〈これ1回言ってみて〉ってお願いしてました」

真城「レコーディングの順番は私が最後だったので、そこまで指摘したりはできなかったんですけどね。でも、こういう発音だとかっこよくは響かないから、その場で変えたりということもありました」

一色「この曲は元Fear, and Loathing in Las VegasのSxunさんに作ってもらっているというのもポイントです」

 

キャッチーなサビに感情が乗った“Hungry like the Wolf (ver.3.5)”

Silent Of Nose Mischiefとコラボした、“Hungry like the Wolf”のライブ映像
 

――という感じで1曲ずつ触れていければと思います。続いて“Hungry like the Wolf (ver.3.5)”。ヴァージョンが3.5もあるんですね。

一色「“フェニキスの涙”のカップリング曲なんですけど、あれが最初で。そのときの店舗特典音源が〈ver.2〉?」

大嶋「そう。オルガンの音色を変えて、浅水が歌っているところを小嶋が歌ってるヴァージョンがあって」

小嶋「え? そうなんだ。ちゃんと聴いたことないや(笑)」

大嶋「〈ver.3〉はこの5人が歌ったもので、なりすレコードの『NARISU RECORDS SPECIAL SAMPLER 2021』に入ってます。今回の〈ver.3.5〉はそこから細かいアレンジを変えたものです」

一色「……メンバーも把握できてなかった(笑)」

真城「この曲は私が加入するときに3人でよくやられていて。それを見て、涙が出そうなくらいめちゃめちゃかっこいいなと思ってました。キスエクは曲が長かったり難しかったりする印象があったんですけど、“Hungry like the Wolf”は取っ付きやすい部類に入るのかなと思ってます。拡声器を持ってラップっぽい口調で歌うのも印象に残りやすいし、サビもキャッチーで感情も乗せやすい感じなので、私もずっと参加したいと思っていた曲です。最初にレコーディングしたのもこの曲です」

――“フェニキスの涙”のシングルを作っている時点で動物をコンセプトにする構想はあったのでしょうか?

大嶋「はい。ファースト・アルバムを作ったあとに次は(ピンク・フロイドの)『Animals』(77年)のようにしようと思っていたんです」

一色「フェニキスは動物なのか?という説がありますけど(笑)、結構前から〈次は動物〉と聞いてました」

小嶋「〈次は牛かな〉とかよく話してたよね(笑)」

 

10分超えの大作“Do rats desert a sinking ship? 組曲「ねずみは沈む船を見捨てるか?」”

――3曲目は問題作“Do rats desert a sinking ship? 組曲「ねずみは沈む船を見捨てるか?」”。10分超えの大作です。

一色「アルバムは何曲入りですかと言われたら返事に困るんですよね。この曲が何トラックにも分かれているので」

――キスエクは長い曲がいくつかありますけど、この曲はこれまでのどの大曲とも違うアプローチですよね。壮大な雰囲気ともまた違って、かわいらしいところもあって。

小嶋「やってても楽しいです」

真城「歌詞に物語性があって。長い曲だけど曲調も変わるし物語もあるしで、聴いてて飽きないと思います。某テーマ・パークっぽい」

小嶋「ねずみの曲だから、きっとそういうことなんだろうね」

――こういう曲をもらうときに、なにかしらの説明はあるんですか?

一色「特に説明はなく、送られてきたファイルを開いたら〈おお、長い〉という感じです(笑)」

小嶋「何段階かあるんですよ。新曲のデモです、新曲の仮歌ですって」

一色「ちょっとずつ心の準備をしていく感じだよね。ただ、覚えるのは大変(笑)」

真城「難しすぎますよ」

一色「キスエクの曲は一見普通っぽくても、よくよく聴くと拍子とかが普通じゃない可能性が高いので、全部疑ってかからないといけないんです」

――新曲への取り組みかたが〈疑ってかかる〉となるのもすごい(笑)。

一色「今盛り上がってるけど2~3秒後にはめっちゃ静かになるかもしれない、とか思いながらデモを聴いてます(笑)。“ねずみ”はお芝居っぽい要素がかなり入っていて、お客さんもメンバーもそれぞれお気に入りのパートがバラバラだと思います。あと、ライブのときには前奏のあと一回ステージから捌けるんですよね」

真城「一旦、舞台上から誰もいなくなるんです(笑)。キスエクって本当にすごいなと思いました」

浅水「私は長い曲に慣れてしまっていて。“ねずみ”を初めて聴いたときに衝撃はあったんですけど、10分越えの曲は前にもあったので、またきたな、くらいの感じでした(笑)」

一色「最近は6分だと短いなと思っちゃうよね。7分前後がスタンダードみたいになってきてる。“ねずみ”を手に入れたことで、“悪魔の子守唄”と合わせて2曲で25分を埋められることになりました」

 

キング・クリムゾンの楽しいオマージュ“えれFUNと"女子"TALK ~笑う夜には象来る~(2021 Ver.)”

“えれFUNと"女子"TALK ~笑う夜には象来る~”のライブ映像
 

――ライブ・イベントで2曲だけやって帰る可能性も出てきた(笑)。続いてが“えれFUNと"女子"TALK ~笑う夜には象来る~(2021 Ver.)”。これはかなり前からあった曲ですが、動物の曲だから今回収録したという背景でしょうか。

大嶋「そうですね。入れられるじゃんと。曲調的には変わっているので入れづらいかなと思ったんですけど、このコンセプトなら大丈夫かなという」

小嶋「プログレが好きな人もわかりやすいし、サビもキャッチーなのでアイドルオタクの人にもウケが良い曲で」

――キング・クリムゾンのオマージュですもんね。星野さんはアルバムの初レコーディングはいかがでしたか。

星野「楽しかったです。でも、私はこんな声なんだと知って。自分が思ってたのと違うと思ってショックを受けました(笑)」

一色「めちゃめちゃ新鮮な感想!」

星野「あと、この曲はほかの曲に比べて明るいですよね。歌詞でも〈笑おう〉って言ってるし」

一色「たしかに明るいというのは大きいかも。りんりんとるりちゃんと私の3人編成の時期は、過去のどの曲をやるか見返してたときに、“えれFUNと”は明るすぎるから却下してたんですよ。奈央子ちゃんと瞳々ちゃんが入ってきてくれたことによって復活した感はあります。じつはそういう曲は結構あります」

キング・クリムゾンの81年作『Discipline』収録曲“Elephant Talk”。“えれFUNと"女子"TALK ~笑う夜には象来る~(2021 Ver.)”でオマージュされている

 

演奏をしっかりと聴かせる“十影”

――新メンバーはグループにとってギフトだったわけですね。続く“十影”もまたすごい曲で。7分のうち、歌っている時間は何%なんだというくらい演奏をがっつりと聴かせる構成で。

一色「バンド編成のワンマンで一度披露したきりなんですけど、そのときは椅子に座ってたんです。もう演奏を聴いてもらおうって(笑)」

真城「バンド・セットだから映えた演出だし、すごくよかったと思うんですけど、普段のライブでやるとなるとどういう見せかたをしていいのか。めちゃめちゃ長い間奏はどうすれば……。この曲、私は間奏明けに歌うんですけど、緊張感がすごいんです。メロディーラインも難しいですし」

一色「曲が静かなぶん、歌がよく聴こえるよね。すごく慎重に歌わないといけない曲ですね」