1995年に発売されたゲーム「クロノ・トリガー(Chrono Trigger)」。当初のハードはスーパーファミコンだったが、現在に至るまで移植され続け、今でもスマホやPCで遊べる伝説的作品だ。同作が30周年を迎え、開発・発売元であるスクウェア・エニックス(当時はスクウェア)をはじめ、各所で名作を振り返る機運が高まっている。

そんな「クロノ・トリガー」は、海外を含め作品自体の人気・評価が非常に高いことは言うまでもないが、光田康典が中心になって制作した音楽が名作を名作たらしめている側面も確実にある。そこで今回は、同作における光田サウンドの魅力に迫ろう。 *Mikiki編集部

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『クロノ・トリガー オリジナル・サウンドトラック』 スクウェア・エニックス(2005)

 

伝説的ゲームに叙情性を与えた光田康典の音楽

第1作目の登場以来、40年近くにわたって日本のRPGの代名詞であり続けている「ドラゴンクエスト」と「FINAL FANTASY」シリーズ。もはや2大巨頭と言っても過言ではない2作品だが、かつて、両陣営の主力クリエイターによるドリームプロジェクトとして世に送り出されたRPGがある。それが、2025年の3月11日をもって発売から30周年を迎えた名作「クロノ・トリガー」だ。

エグゼクティブプロデューサーに坂口博信、シナリオ監修に堀井雄二、キャラクターデザインに鳥山明と、「FF」「ドラクエ」の根幹を支える面々が作り上げた同作は、当時としては珍しかったマルチエンディングを採用。クリア時のレベルを引き継いだまま2周目をプレイできるシステムに〈つよくてニューゲーム〉という呼称が付いたのもこの作品からだったように思うが、そんな幾度もプレイしたくなる仕掛けもさることながら、行動やキャラクターの選択によって変化する丁寧なシナリオに心惹かれたプレイヤーも多くいたはずだ。そして、さまざまな伏線を回収しながらドラマティックに展開していく物語にさらなる叙情性を与えたのが、本作で作曲家としてのデビューを果たした光田康典による音楽だ。

 

無国籍なサウンドと壮麗で詩的なオーケストラの融合

「クロノ・トリガー」の続編となる「クロノ・クロス」や「ゼノギアス」「ゼノブレイド」シリーズなどの人気RPG群や、「黒執事」「ダンジョン飯」といったTVアニメをはじめ、光田サウンドの特徴としてまず思い浮かぶのが、どこの国ともつかない無国籍な旋律とリズム、交響楽的なオーケストレーションとの美しき融合。架空のワールドミュージックの参考として、当人はさまざまな国を実際に訪れて現地の風土や民族音楽/楽器についての知識を吸収しているそうだが、そうした〈自身の体験を音に込める〉というリアリティーの追求は、たとえばストーリーの鍵となった篠笛自体の制作から始めた「ゼノブレイド3」や、舞台設定に合わせて中世古楽の楽器を採り入れた「ダンジョン飯」など、彼が関わったさまざまな作品に通底しているように思う。

その片鱗は、過去・現在・未来──原始、古代、中世、現代、世界崩壊、未来、時の最果てと、時を渡りながら幾つもの国々を巡る「クロノ・トリガー」の時点から大いに表出。発売当初のハードはスーパーファミコンなだけに、メロディアスなフレーズの数々は時代を感じさせるアナログなシンセサイザーの音色で彩られているが、どの楽曲を取っても非常にシンフォニック。のちに発表されたオーケストラアレンジのサントラと比較しても遜色ないほどの壮麗さと詩情がある。