トリビュートアルバム参加の豪華ゲストが鈴木博文の古希を祝う夜

ムーンライダーズのメンバーであり、シンガーソングライターとしても異彩を放つ鈴木博文。今年(2024年)5月19日に70歳を迎えたことを祝う古希記念コンサート〈Wan-Gan King 70th Anniversary〉が6月1日に新代田・FEVERで開催された。鈴木はムーンライダーズの最年少メンバーでありながら、独自の文学性を発揮して作詞面でバンドに大きく貢献。さらに80年代にはインディレーベル、メトロトロン・レコードを立ち上げて、カーネーション、GRANDFATHERS、青山陽一など様々な才能を世に送り出した。

6月25日にはトリビュートカバーアルバム『16 SONGS OF HIROBUMI SUZUKI - DON’T TRUST OVER 70 -』がリリースされる予定で、コンサートでは鈴木の全キャリアから選ばれた曲に加えて、トリビュート盤に参加したゲストが収録曲を演奏するという盛り沢山な内容だ。

 

ayU tokiO率いる腕利きのバンドと奏でる

この日、鈴木のバックバンドを務めたのは、ayU tokiOこと猪爪東風(ギター/その他)、大田譲(ベース)、鳥羽修(ギター)、夏秋文尚(ドラム)、やなぎさわまちこ(キーボード)といった腕利きの5人。鈴木のアルバム『どう?』(2017年)のサウンドプロデュースを手掛けた猪爪がバンマスを担当した。

コンサートのオープニングナンバー“晴れた日に”はバンドでだけで演奏。メンバーが順番にマイクを回して歌い、それぞれが鈴木にお祝いを伝えているようでもあった。そして、鈴木が登場して歌ったのが、2014年に発表した“後がない”。「生きてる限り考え 生きてる限り恋して 生きてる限り死なない 走るよ」という歌詞が、今日はずしりと重い。続いてはムーンライダーズ“ボクハナク”。イントロのキーボードのフレーズだけで観客から歓声が上がる代表曲だ。

そして、最初のゲスト、シンガーソングライターのemma mizunoが登場。彼女のファーストアルバム『Amorphous 404』(2022年)をプロデュースしたのが鈴木で猪爪も参加していた。mizunoは「ムーンライダーズで一番好きな曲」という“僕は幸せだった”を鈴木とデュエットで歌い、セルジュ・ゲンスブール&ジェーン・バーキンを思わせる艶やかな雰囲気が漂う。続く“捨てたもんじゃない世界”では、mizunoはピアニカを担当。この2曲ではバンドメンバーは猪爪とやなぎさわの2人だけとなり、音を大胆に削ぎ落とした猪爪の斬新なアレンジと音作りが光っていた。

 

3776から青山陽一までゲストとのコラボで高まるお祭り感

バンドメンバーが戻って“突然の平凡”を演奏したところで、2人目のゲストとなる富士市のご当地アイドル、3776が登場。83年にアイドルのリサに鈴木が提供した“MR. SUNSHINE”をカバーした。鈴木は80年代に石川秀美や堀ちえみなどアイドルの曲に歌詞を提供していたが、この曲は作詞・作曲・編曲のすべてを手掛けた曲。3776は曲名にちなんで着たという輝くような白いドレスで可憐に歌う。コーラスを歌う鈴木はちょっと照れ臭そうだ。

3776が爽やかな風を運んでくれた後は、“Fence”“どん底人生”と80年代のソロアルバムに収録された曲を続けて演奏。「オリジナル曲の打ち込みサウンドを活かした」という猪爪の音作り、バンドの滋味深い演奏に支えられて、鈴木のフォーキーでソウルフルな歌の世界にどっぷりと浸ることができた。

そして、3人目のゲストの加藤千晶が登場。まず、鈴木が歌うことをイメージして作ったという“夏はどこに”をデュエット。そこで鈴木は一旦ステージを降りて、加藤ひとりで鈴木のカバー“今日も冷たい雨が”をラグタイム風のピアノを弾きながら歌った。

続いて登場した4人目のゲストはシンガーソングライターの青山陽一。青山は大田譲、西村哲也と80年代にGRANDFATHERSを結成。ファーストアルバム『Western-Charnande』(89年)は鈴木慶一、博文のプロデュースでメトロトロンからリリースされた。青山は大田とのデュエットで“Kucha-Kucha”、そして、単独で“ブルー”をカバー。歌声もさることながら情感豊かなギターも素晴らしく、ステージに戻ってきた鈴木は思わず「あんなギターを弾きたい!」と称賛。青山の演奏に触発されてか“プールサイド”をマイクを握りしめてソウルフルに熱唱した。

男臭い世界が深まったところで、女性5人のプログレアイドルグループ、XOXO EXTREMEが登場。ムーンライダーズ“駅は今、朝の中”を歌う。その横で聴いていた鈴木が途中からフロントに立ってコーラスで参加。ファンも唖然とする異色の共演にお祭り感が高まる。