Page 2 / 2 1ページ目から読む

やりたいことをやるためにやりたくないことも我慢してやる

黒川「音楽で食べていくことってなかなか大変だし稀有なことだと思いますけど、そこはどう思っていますか?」

PAKshin「さっきも言ったように、途中まで楽しいことに流されてきてたから、それまで楽しいことしかやってなかったのよね。でも、この仕事で食べていくと決めた時に、〈やりたいことをやるためにやりたくないことも我慢してやる〉というのを覚えたと思う。その覚悟は絶対に必要やと思ってる。

特に俺たちの時代は、音楽で食いたいとか詩で食っていきたいってなったら、親がいい顔しない人も多かったと思う。俺は国公立の大学出てるから、親は普通に就職すると思っていただろうし、そういうのを反対してやってたから風当たりも強かった。それでも、俺はたまたまやりたいことが見つかったのは運が良かったと思う。やりたいことが見つかった人っていうのは本当に幸運やから、多少しんどくても絶対やったほうがいい。そのしんどい期間も、後から振り返ったら楽しいと思うし」

黒川「好きなことでしんどい我慢と、好きじゃないことでのしんどい我慢だと、記憶の仕方が全然違うんですよね」

PAKshin「そう。悔しくて泣いた時とか、お金なさすぎて本当にご飯食べられへんかった時とかのことも、やっぱり思い出したらすごい楽しかったなってなる。ありがたいことに今はもうそういう時期は脱したけど」

黒川「分かります。特に代わりがいない身体一つの仕事じゃないですか。何かあったらとか考えますけど、〈幸せだな〉って感じることの方が圧倒的に多いと思うんですよね。そのリスクみたいなものを天秤にかけて動いていないというか。パクさんはモチヴェーションを保ち続けるポイントはどこにあるんですか?」

PAKshin「俺の場合、2~3年くらいのスパンで深く関わる人が変わることが多いから、その中で自分の目標もだんだん変わっていく。それが新鮮だから、そのスパンごとの新たな目標がモチヴェーションになってるかな。あとは、ここの敬介さんみたいに、出会ってきた人に絶対恩返ししたいとか、そういう気持ちかな」

黒川「僕も10年ちょっと前にたまたま入ったバーのマスターが敬介さんで。その日は誰もお客さんがいなくて、一対一で、たしか冬で自分用のまかないで鍋を作ってたんですよ。そしたら僕にも食べさせてくれて、しこたま食べて呑んで3時間ぐらいいて。で、お会計して下さいと言ったら、金いらないって言われて。缶ビール渡されて、〈いつかまた来な〉って言われたんですよ。そんなこと、あります(笑)?」

PAKshin「『深夜食堂』でもそんなんないで(笑)」

黒川「その時すでに詩を書いていて、その頃からいいじゃんって言ってくれてて。今こうして10年経って、自分が書く仕事をしていて、それでお店に返していけることに繋がるのは嬉しいですね」

PAKshin「俺も敬介さんにはたくさん音楽を教えてもらったし、愚痴も聞いてくれるし、悩みを話しても的確なアドバイスをくれるし、お前絶対頑張れよって言ってくれる感じがあるね」

 

カッコいい呑み方

――こうやって人と会って受けた刺激を、PAKshinさんなら音楽に、黒川さんなら詩にどう変換していますか?

PAKshin「それは様々ですけど、例えばお店でいろんな人と出会って、いつものメンツでわいわい楽しんでる感じって、映画やドラマや漫画では表現されるけど、音楽ではあまり表現されないですよね。そういうものを音楽で表現してみたり。あとはこの雑多な街で、それこそミュージシャン、詩人、いろんな人と知り合う中で、〈この人はどんな音楽が刺さるのかな〉とか〈この世代の人は今こんな曲を聴いてるんだ〉っていうのをリサーチして、新たな音楽を知れたり。そういうのは直接的に自分の仕事に役に立っていますね」

黒川「僕はいろんな物事の瞬間は、点と点でできていると思っていて、その瞬間瞬間を見逃さないように日々を過ごしていて。普通は人々が素通りしていくような、何でもない景色のなかにも、〈なにこれ〉っていうものがあって、それに気付けるようにするというのを重要に考えていますね。アンテナの感度を上げているというか。それが詩にも生きてくるし、その瞬間に命かけて酒呑んでますね」

PAKshin「さすがです(笑)。隆くんと呑んでて面白いのは、やっぱり命かけて呑んでるからやな。隆くんは呑み方の雰囲気がちょっと人と違うのよね。なんて言うんやろな。傲慢でもないし、かといって、ひっそり飲んで、じゃあ帰りますっていうわけでもなく。言葉で表現しづらいけど、毎回絶対に何かしら爪痕残して帰って、みんなの思い出に残る呑み方するよな。印象に残るというか」

黒川「酒呑みとしては嬉しいですね(笑)。パクさんの呑み方は、ミュージシャンはこうあるべきだなって呑み方ですよね。ミュージシャンの方ってみんなかっこいいし、普通じゃないし、ある種イカレてるなって思うからホッとするんですよね」

PAKshin「にいやん(DEPAPEPEの徳岡慶也)とか(笑)? ああいう呑み方はやっぱりいいなって思うんよね。後輩とか友達とかがいたらさりげなく一杯おごったり、自分の話とか自慢話を絶対せえへんかったり」

黒川「先輩にかっこいい呑み方をする人たちがいるってのは有り難いことですよね」

 

15年間の集大成

黒川「パクさんにとって歌詞とはどういうものですか?」

PAKshin「今回のアルバムには歌入りの曲がいくつかあって、その中で大西ゆかりさんに歌ってもらった曲(“泣いてたまるかよ”)があって。Calmeraのオリジナル曲にクレイジーケンバンドの(横山)剣さんに書いていただき。その曲が仮歌で送られてきたときに聴いて、ほんまに良すぎて泣いて。特にその歌詞に対して、大西ゆかりさんが全力で入りきってくれていたのね。インストバンドやと、例えば国籍や言語関係なく聴いてもらえるみたいにメリットもたくさんあるんだけど、歌詞が乗っかることによって思いとかメッセージ性っていうのはギュッと凝縮されて、深くまで刺さるなっていうのは思うね」

『誰そ彼レゾナンス』収録曲“泣いてたまるかよ”
 

黒川「今回の作品についてもう少し詳しくお聞かせください」

PAKshin「Calmeraが結成15周年で、アルバムが12枚目なんやけど、今までずっとインストで音楽をやってきて、自分たちのことを〈エンタメジャズバンド〉と言っていて。ライブで楽しませられる音楽とか、24時間365日どんなシーンで、どんな気持ちで聴いてもテンションが上がったり、寄り添えたりできる音楽を作ろうと言いながら15年間やってきて、本当にその集大成でもある作品になったなと思ってて。毎回言ってるけど、今回は本気で最高傑作ができたなと。

一曲一曲にすごく思い入れがあって、特にコラボレーションしてる曲には全てにエピソードがあって、さっきも話に出たアスタラビスタもそうだし、大西ゆかりさんの曲は自分が大阪出身っていうのもあってとても感慨深いし。ジャズ・シンガーのakikoさんと一緒にやったボサノヴァの“Desafinado”っていう曲は、中学生の頃から聴いてた大好きな曲を、日本を代表するジャズ・シンガーの方に歌ってもらえたっていう思い入れもある。

それから、カンニング竹山さんに“ヘイ・ユウ・ブルース”を歌ってもらって。これは左とん平さんの曲をカンニングのお二人がもともとカヴァーしてたんだけど、何年か前に竹山さんがラジオ番組で〈“ヘイ・ユウ・ブルースを今の自分でまたやりたい。できればCalmeraと一緒にやりたい〉と言ってくれてたらしくて。それまで面識もなかったんだけど、俺たちのことを知ってくれていたのが嬉しかったし、それでリーダーが連絡をとって交流が始まって、この15周年というタイミングでようやくコラボレーションが実現した。竹山さんのメッセージというのは本当に強くて、あの人の叫びというかめちゃめちゃ通る声だからこそメッセージがズドンと伝わる。コロナ禍で窮屈な思いで過ごしている方が多い中で、みんながモヤモヤしているところにスッと刺してくれるように届けるメッセージで。それがめちゃくちゃカッコよくて。これも今までの人間関係とかが全て繋がってるし、竹山さんの人間性や今までやってきた物事があの曲にしっかり乗っかっているから、評価されているのかなって思うね」

カンニング竹山が参加した『誰そ彼レゾナンス』収録曲“ヘイ・ユウ・ブルース ~許せ、友よ~”のblackboardヴァージョン
 

黒川「ここでも人と人が掛け算になっている感じですね」

PAKshin「もちろんインスト曲も今までやってこなかったことに挑戦してる曲もあるし、これまでやってきたことでも新たに組み直してやってみたり、一曲一曲に出来上がるまでのエピソードがあるんだよ」

黒川「Calmeraはここからさらにどういう風に進んでいくんですか?」

PAKshin「今までのCalmeraだったらこうだったよね、みたいに、自分たちで言ってるエンタメジャズにもとらわれすぎずに、どんな要素のものを取り入れても最終的には自分たちのカラーになるから、遊び心を忘れずに進化していきたいね。一番大事なのは、応援してくれている人たちのことをずっと驚かせるような音源を作っていきたいなって思ってる」

黒川「本日は愉しい時間をありがとうございました」

 


RELEASE INFORMATION

Calmera 『誰そ彼レゾナンス』 B.T.C.(2021)

リリース日:2021年05月12日
品番:FABTC-7
価格:3,000円(税込)
配信リンク:https://calmera.lnk.to/Tasogare-resonance

TRACKLIST
1. 上にいきたくないデパート
2. Mato Pato
3. 炎のたからもの
4. Desafinado (ENGLISH ver.) / Calmera × akiko
5. Recado Bossa Nova -MAOH- / Calmera × アスタラビスタ
6. GARAGE
7. 333
8. 沖縄に雪が降る / カルメラ商店 (Calmera × きいやま商店)
9. Golden Hour
10. ヘイ・ユウ・ブルース~許せ、友よ~ / タケヤマカルメラ (カンニング竹山 × Calmera)
11. BELIEVE
12. 泣いてたまるかよ / Calmera × 大西ユカリ
13. Don't Stop the Melody (album version)
14. Smile
15. GET YOUR KICKS / Calmera × kiCk inc

 


PROFILE: 黒川隆介
神奈川県川崎市出身。16歳から詩を書き始め、国民文化祭にて京都府教育委員長賞受賞。「詩とファンタジー 寺山修司抒情詩篇」に山口はるみ氏とのコラボレーションで掲載。柏の葉T-SITEにて登壇、ファッションブランドとのコラボレーションなど、近年、詩と映像を軸に広く活動中。