
(左から)ジェイムス・ハリソン、ルイス・フォスター、ライリー・ジョーンズ
ルイス・フォスター(Louis Forster)、ジェイムス・ハリソン(James Harrison)、ライリー・ジョーンズ(Riley Jones)からなるオーストラリア出身のローファイ・インディー・ポップ・トリオ、グーン・サックス。彼らが、ニュー・アルバム『Mirror II』をリリースした。
ネオアコからチルウェイヴまで多彩なリファレンスを反映させたサウンドと楽曲、トリオならではのミニマルなバンド・アンサンブル、ルイス&ライリーのツイン・ヴォーカルなど、チャームにあふれたグーン・サックスは、ここ日本でも着実にファンを増やしている。米マタドールへの移籍作となる本作でブレイク必至だろう。
今回は、そんな3人に最近オーストラリアのインディー・ロックが気になっているという清水祐也(Monchicon!)がインタビューを行った。メンバーのキャラクターが立った個性的な回答をもとに、清水がグーン・サックスの魅力を4つのポイントから解説する。これからバンドを知る方にも、彼らのことをもっと知りたいという方にもベストな記事になったと思う。 *Mikiki編集部

1. 父はあのゴー・ビトウィーンズ。オーストラリアのインディー・エリート
オーストラリアでは〈グーン〉と呼ばれる手頃なワインを、ナップサックならぬ〈グーン・サック〉という銀色の真空パックに詰めて売っているらしい。というわけで、高校の友人だったルイス・フォスターとジェイムス・ハリソンがドラマーのライリー・ジョーンズを加えて結成したグーン・サックスも、その名の通りオーストラリアのクイーンズランド州、ブリスベン出身のバンドである。
と、ここまで読んでピンと来た勘の鋭い人もいるかもしれないが、何を隠そうルイスの父親はブリスベン出身のバンド、ゴー・ビトウィーンズのメンバーだったロバート・フォスター。2015年にリリースされたロバートのソロ・アルバム『Songs To Play』には、まだデビュー前だったルイスが、ギターとヴォーカルで参加している。
「たった2曲くらいであっという間だったから、全然覚えてなかったよ(笑)。今振り返ってみると楽しかった」(ルイス)。
そんなグーン・サックスは2016年、ディック・ダイバーやトゥワープスといったバンドを輩出したメルボルンの名門チャプター・ミュージックからファースト・アルバムの『Up To Anything』をリリースすると、2018年にはイギリスのウィチタと契約。〈アーケイド・ファイアへのオーストラリアからの回答〉と呼ばれたアーキテクチャー・イン・ヘルシンキのメンバーをプロデューサーに招いたセカンド・アルバム『We’re Not Talking』をリリースするなど、オージー・インディー・ロックのエリート街道を一直線に歩んできた。
「オーストラリアっぽいとは何かっていう定義も難しいよね。でも、何か確実にオーストラリアらしいものは私たちの音楽に含まれていると思う」(ライリー)。
「AC/DCのボン・スコットとINXSのマイケル・ハッチェンスのエナジーからはすごく影響を受けていると思うね。自分もオーストラリア人だからかもしれないけど、そのエナジーにすごく惹かれたし、自分にも目指せるような気がした。
あとは、俺たちはオーストラリアのアクセントで歌うから、それもオーストラリアらしさのひとつかも。ミュージシャンの中には歌う時にアメリカやイギリスのアクセントに切り替える人たちもいるけど、それは俺たちにとっては不自然だし、誠実な感じがしないんだよね」(ルイス)。
その後ルイスがしばらく母親の故郷であるドイツのベルリンで暮らし、その間にライリーとジェイムスはスート(Soot)というノイズ・パンク・バンドで活動、来日してNON BANDと対バンするなどしていたが、ルイスがブリスベンに戻ると、クイーンズランダー様式と呼ばれるオーストラリア伝統の高床式建築の一軒家を〈ファンタジー・プラネット〉と名付け、メンバー全員で共同生活をしながらの曲作りを開始。新たにアメリカのマタドールと契約し、新作『Mirror II』で、いよいよ本格的な全米進出を果たすことになる。
2. 新作『Mirror II』はジェフ・バーロウのスタジオでジョン・パリッシュと録音
新作のレコーディングにあたって、集中できる閉鎖的な環境を求めていたというバンドが選んだのは、ポーティスヘッドのジェフ・バーロウが所有するブリストルのインヴェイダ・スタジオ。共同プロデューサーにはジョン・パリッシュを迎えているが、それはメンバーの好きな作品を数多く手掛けていたのが理由だったという。
「選ぶのは難しいけど、俺はオルダス・ハーディングのアルバムが大好きで、最近よく聴いてる。昔だったらPJ・ハーヴェイの『To Bring You My Love』(95年)とかが好きだった。あれも大好きで聴きまくってたな。あのレコードは驚異的だと思う。ジェニー・ヴァルの『Innocence Is Kinky』(2013年)のプロデュースも最高」(ルイス)。
「彼って、複雑なソングライティングをするアーティスト達とよく仕事をしていると思うんだけど、今回はそれもすごく良い結果をもたらしてくれた。俺たち3人ともソングライターだし、3人が書く曲はそれぞれ違っているんだけど、彼はそこに統一感を出すことを助けてくれたと思う。俺たちに限らず、曲の全てにそのアーティストらしさをもたらすことが出来るプロデューサーが彼なんだと思うね」(ジェイムス)。
ところで、前作のレコーディング時、メンバーは大林宣彦監督の映画「HOUSE ハウス」(77年)の登場人物に倣ってお互いをニックネームで呼んでいたそうだが、ジョンにニックネームをつけるとしたら?
「そういえば一時期そうしてた! すごく短い期間、あの映画からインスパイアされてお互いをニックネームで呼び合っていた時はあったね。ライリーはビジーで、ジェイムスはレイジーで、俺はベンディーだった(笑)」(ルイス)。
「登場人物の名前がすごく素敵なの。〈オシャレ〉とか〈メロディー〉とか(笑)。ジョンは何かな。彼は〈オシャレ〉だと思う(笑)」(ライリー)
3. 影響源は裸のラリーズ × ジャスティン・ビーバー × シド・バレット?
ジェイムスが語る通り、グーン・サックスの特徴のひとつは、メンバー3人全員が曲を書いて歌えるということ。前2作では主にルイスとジェイムスがソングライティングを分け合っていたが、新作ではドラマーのライリーが本格的に曲作りに参加し、“Tag”と“Desire”の2曲ではリード・ヴォーカルも担当している。
母親が日本に留学していたこともあり、小さい頃には新浦安に住んでいたというライリー。新作では母国のポップ・スターであるカイリー・ミノーグの他に、意外な日本のミュージシャンからも影響を受け、自分でもギターを弾くようになったという。
「友達の一人がノイズ・ミュージックが大好きだったから、私もノイズ・バンドでドラムをプレイし始めたんだけど、その友達が灰野敬二の大ファンだったんだよね。それでまず灰野敬二を知って、その流れで裸のラリーズも好きになった。そして、彼らのようにギターを弾いてみたくなってギターを弾き始めたというわけ。
彼らの音楽を聴いて、ノイズ・ミュージックとポップ・ミュージックって交わることが出来るんだって思ったし、ニュー・アルバムではあまり目立たないかもしれないけど、ギターは確実に水谷孝に影響を受けてる。灰野敬二だったら、私は彼の不失者の作品が好き。特に好きなのはアルバム『悲愴』(94年)。裸のラリーズで好きなのは、“Blind Baby Has Its Mother’s Eyes”」(ライリー)。
対照的に、ベルリンに滞在していたルイスは現地のエレクトロニック・ミュージックに影響を受ける一方で、ジャスティン・ビーバーやThe 1975といったポップ・ミュージックからもヒントを得たそうだ。
「“In The Stone”はタクシーの中とか、クラブとか、パーティーとか、色々な場所で聞く会話についての曲。ジャスティン・ビーバーのレコード、特に“Sorry”(2015年)ではダンスホールのレゲトンのリズムがフィーチャーされていて、それがあの曲のインスピレーションの一部なんだ。あの曲は俺にとって逃避ができる曲で、聴いているとダンスホールに連れていってくれる。
それからツアーに出ていた時、イギリスのスーパーでThe 1975の“TOOTIMETOOTIMETOOTIME”(2018年)が流れてきた。あの曲のダンスホールのリズムが頭に残ったんだ。あとはメロディー。あのコード進行からは結構影響されたね」(ルイス)。
そんな2人の間で異彩を放っているのが、ジェイムスの書くアシッド・フォーク的な楽曲だ。シド・バレットの大ファンだという彼が歌う“Temples”では、シド在籍時のピンク・フロイドのアルバム『夜明けの口笛吹き(The Piper At The Gates Of Dawn)』(67年)のタイトルの由来にもなったケネス・グレアムの児童小説、「たのしい川べ」について言及されている。
「シド・バレットは大好き。素晴らしいアーティストだと思う。『たのしい川べ』を読んだのもシドの影響。すごく刺激的な作品だったし、この世界から遠く離れたどこかに連れていってくれるのが魅力的に感じた。あの小説の登場人物はみんな人間なのに、動物みたいな暮らしをしている。それがすごくクールだと思ったし、自分の生活に関しても考え直させられたんだ。すごく素敵な小説だと僕は思うね」(ジェイムス)。

4. 三面鏡のような3つの個性がもたらした変化
ジェイムスだけでなく、ベルリン滞在中に映画館でアルバイトをし、帰宅中の深夜バスでアイデアを練っていたというルイスの書く歌詞もまた、初期の一人称的な内容から離れ、空想的なものへと変化している。冒頭で触れた一軒家、〈ファンタジー・プラネット〉での共同生活から受けたインスピレーションも大きかったのだろうか。
「確かにそう。前の俺たちの歌詞は、もっと一人称寄りだった。自分たち自身の経験と直接結びつくものが多かったから。でも今回のアルバムでは、少なくとも俺自身は、もっと他の視点や世界観について書くようになった。
今回俺がやりたかったのは、自分の観点を人に伝えることではなく、様々なシチュエーションにおいて生まれるであろうフィーリングを表現すること。ある意味、あの家はそれが形になったような空間だったと思う。自分が経験していること以外に、常に何かが起こり、それについて誰かが何かを感じていたからね。
今回は、自分がどうした、ではなく、色々なタイプの人々がフィットしうるような瞬間や空間について曲を書きたかったんだ。例えば、歌詞の1行目が誰かの言葉で、2行目はまた違う誰かの言葉で、3行目は彼らの言葉に関して自分がどう思うかだったりするけど、それを区別する必要はない。その全てのセリフが生み出すフィーリングを音で作り出したかったんだ。
ファースト・アルバムが超一人称だったのに比べると、今回のアルバムは映画のような世界になっていると思う。これからも世界観や美意識はそうやって変化してくと思うね。それがどういう変化なのかは今の俺たちにもわからないけど、だからこそエキサイティングだし」(ルイス)。
「リスナーのみんなもその変化を気に入ってくれるといいな。セカンド・アルバムもファースト・アルバムとは違っていたけど、今回のアルバムほど2枚の作品に差はなかったと思う。だから、もしかしたら、〈あのバンドはもうダメだな。ファースト・アルバム級の作品はもう作れないんだ〉って思われるかもしれない(笑)。どう受け取ってもらえるかが楽しみ」(ライリー)。
メンバーがそう語る新作『Mirror II』のタイトルは、アンディ・ウォーホルの著書の中の、こんな一節が由来になっている。
私は鏡を覗いても何も見えないと確信している。人はいつも私を鏡と呼ぶけれど、鏡が鏡を覗いたら何が見えるのか?
3つの異なる個性が、お互いを映し合ったグーン・サックス。その扉を開いて覗いてみれば、まるで三面鏡のように、無限の世界が広がっている。
RELEASE INFORMATION

リリース日:2021年7月9日
配信リンク:https://thegoonsax.ffm.to/mirrorii
■国内盤CD
品番:OLE1623CDJP
価格:2,420円(税込)
ボーナス・トラック追加収録/解説書・歌詞対訳封入
■輸入盤CD
品番:OLE1623CD
価格:2,490円(税込)
■輸入盤LP
品番:OLE1623LP
価格:2,790円(税込)
■限定盤LP(ホワイト・ヴァイナル)
品番:OLE1623LPE
価格:2,790円 (税込)
TRACKLISTING
1. In The Stone
2. Psychic
3. Tag
4. Temples
5. The Chance
6. Bathwater
7. Desire
8. Carpetry
9. Til Dawn
10. Caterpillars
11. We’re Just Talking *Bonus Track for Japan