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ジェンダーを限定しない青春映画

――映画で言うと、今回のファースト・アルバム『swim in the milk』は〈架空の映画のサウンドトラック〉がテーマだそうですが、制作のプロセスを教えていただけますか?

Emi「基本的にLIGHTERSの曲作りは、Rumiが全パートを仕上げたデモをもとに、私とサポート・ドラマーの方のアイデアを加えていく感じです。プラス今回は、Rumiが架空の映画の脚本自体を書いてきてくれて、それを読ませてもらったうえで制作を進めていきました」

――実際に脚本まであったんですね! それはどのような物語なのですか?

Rumi「私はティーン・ムーヴィーが大好きなんです。今回の脚本は、10代の頃に抱いていた誰かに対しての憧れとか、そのとき抱えていた劣等感などをモティーフに描いていきました」

『swim in the milk』収録曲“Little me”
 

――私がアルバムを聴いて背景に感じた映画は「mid90s ミッドナインティーズ」(2018年)でした。あの映画は、まさにおっしゃったようなティーンならではの劣等感や周囲に対する憧れを描いた物語なので。かつ「mid90s」は青春の記録のなかに、差別や格差社会、ホモソーシャル的な集団などに対してのメッセージが込められている。今回のアルバムもそういったレイヤーを持っているような気がしたんです。

Rumi「私も『mid90s』は大好きな映画で、2回観ました。今回の脚本やアルバムの内容とも間違いなく重なる部分はあります。ただ、歌っているキャラクターはNetflixのドラマ『セックス・エデュケーション』(2019年~)や『このサイテーな世界の終わり』(2017年~)をイメージしました。2作品とも、強くて行動力のある女の子に対して〈ちょっと待ってよ~〉みたいな男の子が出てくる。内容的には、映画『ウォールフラワー』(2012年)のように、観た人がその奥を想像したくなるちょっと曖昧なエンディングを迎えるストーリーを意識しました」

『mid90s ミッドナインティーズ』の予告編
 

――〈強い女の子〉と〈弱い男の子〉という設定には、キャラクターをジェンダーロールから解放させたい、という気持ちもあるんじゃないですか?

Rumi「ジェンダーの問題については最初から強く意識していたわけではないんです。私自身は、あまり気の強くないタイプなので、強い女の子への憧れはあって。そういう気持ちから今回の設定を思いついたんですけど、脚本や曲を書いていくときに〈そんなことはどうでもいいな〉とも思えた。だから、自然とそういう方向に向かっていった感じです」

――LIGHTERSは英語詞ですから、歌詞のうえでは1人称と2人称は〈I〉と〈You〉なんですけど、日本語訳の一人称は〈僕〉、〈ぼく〉、〈私〉、〈わたし〉、2人称は〈きみ〉と〈あなた〉を使い分けています。ここにも、こだわりを感じました

Rumi「人称代名詞を使い分けることで、キャラクター2人の距離感を表現したかったんです。〈わたし〉と〈あなた〉だとちょっと遠いけれど、〈ぼく〉と〈きみ〉を使うと、2人の距離を縮めたいという気持ちが含まれているような気がしません?」

――自分は男性なので、日本語の訳では〈ぼく〉に自己を投影してしまいますが、英語の〈I〉は性別に関係なく誰もが自分のこととして読めますよね。

Rumi「男でも女でも、誰がどの立場に立ってもいい。物語の筋道はありながらも、音楽だったらそういう余白を持たせることができるし、そのほうがおもしろいと思ったから、あえてキャラクターに名前は付けなかったんですよね。今作はジャケットに関しても、写っている人が女性とも男性とも取れるようなイメージを強く意識しました。モデルさんの持つ魅力があってのことですけど、アイデア自体も、手前味噌ですがよく思いついたなと(笑)」

『swim in the milk』のジャケット
 

――なるほど。歌詞でもジャケットでも性別を限定されないようにしたわけですね。クールです。

Rumi「今回のアルバムは、最初のほうにもともとパンクが好きだったと言いましたけど、私たちなりの精神的なパンクを詰め込むことができたと思います」