Rumi Nagasawa(ヴォーカル/ギター)とEmi Sakuma(ベース/コーラス)に、サポート・ドラマーを加えた3ピース・バンド、LIGHTERSがファースト・フル・アルバム『swim in the milk』をリリースした。
ドラムスにHAPPYのSota Hayashida、エンジニアにhmc studioの池田洋、サウンド・プロダクションにDYGLのKohei Kamotoを迎えた同作。テーマは〈架空の映画のサウンドトラック〉とのことだが聴いて納得。メロディーと歌詞はキャッチーでありながら、掘り下げるほどにさまざまなレイヤーが見えてくる。そして、ペイヴメントのような90年代オルタナティヴ・ロック/ローファイを起点に、2000年代や現行のインディー・シーン、60~70年代のポップ・ミュージックやカントリー/フォークなどにもアクセスした、シンプルながらも豊かなサウンド。それらが紡ぐ〈流れ〉にみるみると引き込まれていく。2人はどのような物語を思い浮かべ、どのような意志を持って『swim in the milk』を制作していったのだろうか。
目標はペイヴメント
――まずはLIGHTERSを結成した経緯から教えていただけますか?
Rumi Nagasawa「結成は2018年の秋頃です。出会いはバイト先。2人とも楽器は初心者レベルで、それまでバンドを組んだこともなかったんですけど、そろそろ一歩踏み出したいと思っていたタイミングだったので、一緒にやってみようって」
――意気投合した理由は、音楽の趣味が近かったからですか?
Rumi「お互いにAge Factoryが好きでライブをよく観に行っていたことは大きかったですね。ほかに好きなバンドはそんなに被ってなかったんですけど」
――お2人それぞれ、Age Factory以外ではどのような音楽を聴いていたのでしょうか。
Emi Sakuma「私は大きく言うとハード・ロックとかヘヴィメタルの流れにあるバンドが好きでした。友達に教えてもらったスリップノットが入口で、その後はブリング・ミー・ザ・ホライズンにもめちゃくちゃはまっていました」
Rumi「もともとはアメリカのパンク・バンド、メンジンガーズがすごく好きで、そこから掘り下げてパンクを聴くようになりました。一言でパンクと言っても、各バンドの出自や姿勢はさまざまですけど、私は70年代のパンクからフガジのような80年代のUSハードコア、その延長線上に位置するDIYバンドも好きです。ブリンク182やサム41のような90~2000年代のポップ・パンクもよく聴いていました」
――LIGHTERSのサウンド自体には、今話してくださったパンクやラウド・ロックからの影響はそこまで出ていませんよね?
Rumi「そうですね。私は日本の青春パンクも好きで、LIGHTERSを結成して最初に出したシングルの“blue”(2019年)は私たちなりにそういうバンドをめざした曲でした。
でも、感情をむき出しにして叫ぶような歌い方は私の声質とは合わないように感じたんです。また、当時歌っていた感情を10年後も20年後も歌い続けられるのかと考えたときに、同じ感情で歌えるかはわからないし、〈これは私にはできないな〉と。ちょうどその頃、なんやかんやで音楽の趣味がオルタナとかインディーに落ち着いてきたので〈だったらこっちでいこう!〉って」
――そんなRumiさんの心境の変化に、Emiさんはどう反応したのでしょうか。
Emi「私がオルタナやインディーを好きになったのはLIGHTERSの結成と同時くらいだったんです。音楽好きな先輩の影響でピクシーズやダイナソーJr.のことが気になりはじめていたんですけど、Rumiが作ったプレイリストにも両バンドの曲が入っていて。だから、オルタナ/インディーの路線で行こうという話になったときも、素直に〈楽しそうだな〉って思えました」
――Rumiさんがオルタナ/インディーに惹かれた理由は?
Rumi「私たちはペイヴメントに大きく影響を受けているんですけど、彼らの音楽はローファイと呼ばれるように、ちょっと変てこな音が鳴っているじゃないですか。音数が少なくてシンプルなんだけど、いざ真似して弾いてみても真似できない、ロジックだけでは追えないオリジナリティーもある。加えて、エッジやポップさや温かみもあるし、聴いた人たちがいろんなことを想像できる余白もある。
それってイコール、ずっと付き合っていける替えのきかない魅力があるということだと思うんです。私たちも、私たちなりのそういう作品をめざしたいと思ったときに、性格的にもその方向性はすごく合っている気がした。実際、やり続けていたら、どんどん楽しくなってきたんです」
――ペイヴメントのような90年代の音楽からの影響を感じさせつつ、LIGHTERSは女性アーティストの活躍がめざましい現行のインディー・シーンとも共鳴しているバンドだと思います。LIGHTERSとビーバドゥービーやクレイロとの共演が観てみたいです。
Rumi「まさに、クレイロやガール・イン・レッド、ビーバドゥービーといった女性アーティストにはすごく注目しています。最近はクレイロが今年出したアルバム『Sling』ばかり聴いていますね。すごく愛情が深くて、60年代や70年代の要素もありつつ今っぽさもある。これもペイヴメントと同じで、彼女にしかできないからこそ、ずっと聴いていられる作品。だから来日したときには、共演できるようになっていたいですね」
Emi「私も、Rumiがいま言った3アーティストにはどんぴしゃではまっていて。あとはプリンセス・ノキアとか女性のラッパーも好きで。大きなことを言わせてもらうと、〈フジロック〉で同じ並びに名前が載るようになりたいです」
――期待しています。ローファイなサウンドはもちろんキャッチーなメロディーも、LIGHTERSの大きな魅力。そこは60年代や70年代のポップ・ミュージックからの影響が強いと思ったのですが、いかがですか?
Rumi「60~70年代の音楽はそこまで詳しくわからないのですが、いいメロディーについて考えたときに、やっぱりビートルズは外せないですね。今回のアルバム制作中にもよく聴いていました。あとアルバムの4曲目“you and me”は、70年代のソウル・バンド、ペニー・アンド・ザ・クォーターズの同名曲がアイデアのもとになっています。私は映画『ブルーバレンタイン』(2010年)で知ったんです」