松本千夏は本日8月25日にメジャー・デビューをした、23歳のシンガー・ソングライターだ。放課後の教室や校舎裏で密かに歌い始めた17歳の夏から6年、ついに彼女が夢見た舞台の幕が上がる。名刺代わりとなる本作は、不器用ながらもこそばゆいほど愚直に〈感謝〉と〈決意〉を歌い上げた作品になっている。

〈“これしかないんです” “選択肢はないんです” 誰かのために いや 自分のために〉と口にした想いは紛れもなく、彼女の身体から溢れ出る強く眩い意志そのものであり、新たな一歩を踏み出す自分を奮い立たせるための言葉のようにも聴こえてくる。動画配信アプリでカヴァー曲を歌い、同世代の心を掴んだ彼女は、次第に池袋や新宿、溝の口などでの路上ライブを行うようになった。

その変遷は彼女にとって、音楽が自分だけのものではなく、〈いま、ここにいるあなたに届けたいんだ〉という意味を持った大きな出来事のように思える。〈自分のために〉と歌う彼女が描く未来にはもう、自身の笑顔だけでなく、音の届く先で輝きを放つ無数の笑顔が存在しているのではないだろうか。だからこそ本作の歌詞の〈歌っていれば〉の言葉1つに込められた、〈歌い続ける、歌で届ける、歌と生きていく〉という彼女の真っすぐで折れることのない眼差しが私たちの胸を突き刺すのだろう。

その一方で、新しい物語のはじまりは、これまで続いてきた生活の終わりも意味している。松本千夏のはじまりの作品である本作からは、揺るぎ無い決意に加え、過去の自分を認めて背負うことで、生活を共にした仲間や家族への感謝を伝えているようにも感じられる。〈駅前のCDショップ〉で聴いた〈あの子〉の新曲は、嫉妬の対象ではなく自分の現在地を指し示す大切なきっかけとなり、〈あの日先生に 強気で言った 少し笑われた〉ことで生まれたのは悔しさではなく夢であろう。〈駅前のロータリー〉で歌に祈りを込めた時間も、〈お母さんに本気で話し〉少し笑っていた時間も、これから先、松本千夏の立つ舞台がどんなに大きくなろうとも忘れることのない原風景であるはずだ。そんな飾り気のない言葉選びからも、彼女の愚直なまでに真っすぐな人柄を垣間見ることができる。〈ひとりじゃないって 気付かせてくれた〉のは、配信を見届けた人や路上で足を止めた人はもちろん、同じ舞台で歌い合った仲間や、見届けてくれた家族や先生、そして隣で歌い続けた友のような後輩の存在があったからこそではないだろうか。この曲を聴くと、彼女は音楽が産み出した人とのつながりや出来事に対して、彼女なりの感謝と挨拶をしているような感覚を受けた。

メジャー・デビューの1作目という記念すべき作品で〈感謝〉と〈決意〉を表現した松本千夏。歌の力を信じ、歌と生きることを選んだ彼女が観る世界を、これからも見届けていきたい。