名曲“ローリングストーンズは来なかった”で始まるハードコア・テル・ワールド

西郷輝彦 『モダーン・ラヴァーズ~西郷輝彦のポップス・クロニクル』 クラウン(2022)

 まさかラテン・ロック歌謡の極北“ローリングストーンズは来なかった”で始まる西郷輝彦のベスト盤が編まれるなんて。ありえない、と言いつつ、そういうものが現われるのをずっと待っていた気もする。コンピ〈幻の名盤解放歌集〉の〈クラウン編〉で存在を知って30年。いまだオリジナル・シングルと遭遇できていないけれど、ここまで捜索をやめられないのは、中途半端な考えに打ち勝て!という大切な教えを授けてくれたのがほかでもないこの曲だった事情もあって。とにかく藤本卓也の全盛期の才気煥発ぶりが伝わるこの名曲には恩義があるのだ。個人的な話はこの辺にして。空前絶後の1枚『モダーン・ラヴァーズ~西郷輝彦のポップス・クロニクル』を構成するのは主に70 年代楽曲で、それもポップス&ロック系がメイン。よって〈太陽の王子〉の顔をした彼が姿を見せることはゼロ。また“掠奪”といったシングル曲は入っているものの、「江戸を斬る」シリーズの主題歌“ねがい”などは除外、どこまでもマニアックな目線で彼の足跡を辿ってみせる。そもそも2014年に蔵出しされ、ムーンライダーズ・ファンの度肝を抜いたカヴァー“モダーン・ラヴァーズ”を表題に掲げている時点でコンセプトは容易に理解できるが、なるべく雑多な曲調を取り揃えて好奇心旺盛な性格や柔軟性の高さを証明し、このシンガーならではの濃さや野太さをアピールしようという試みは確かな成果を上げていると言っていい。そんな〈ハードコア・テル〉な本作には、小杉仁三が作・編曲を務めたファンキー歌謡な未発表曲“シンギングマシーン”のような贈り物も。終盤の伊勢正三提供曲3連発も素敵で、特に林哲司の編曲、ムーンライダーズの演奏による“ペテン師”が与える極上の清涼感にはシティーポップ愛好家も食らいつかずにいられないはず。

 聞くところによると、和モノ・ディガー垂涎の“ローリングストーンズは来なかった”の7インチ・シングルが同時リリースされるとのこと(“モダーン・ラヴァーズ/ペテン師”の初アナログ化も実現)。なんとしてもゲットせねばならないが、ただオリジナル・シングルの探索に関してはこの先もやめるつもりはない。意地でも。

 


INFORMATION
収録内容
1. ローリング・ストーンズは来なかった
2. 俺たちの明日
3. かもめ
4. 愛は燃えているか
5. 自由の鐘
6. この胸のときめきを
7. 夜のストレンジャー
8. 哀しみの終わるとき
9. 狂ったハート(LIVE)
10. ピエロ
11.すてきな雨の日
12. 掠奪
13. 愛したいなら今
14. 気まぐれな日曜日
15. ジグザグブルース
16. 告白
17. シンギングマシーン
18. モダーン・ラヴァーズ
19. 夕陽より遠く
20. ペテン師
21. ロード・ショウ
22. SILVER SUN
23. 試練