兵役時代、運命の出会いからミュージシャンへ

――そこからどのようにデビューのきっかけを掴んだんですか?

「最初は音楽でお金が稼げるなんて思ってもいなかったので、純粋に好きで作曲をしていたんです。

きっかけが訪れたのは兵役時代。上司が音楽業界の関係者だった繋がりで、旺福のメンバーらとともに、川島茉樹代のアルバム制作に参加したんです。その頃、未発表曲が20曲近くありましたから、その上司からプロのミュージシャンとしてのキャリアをすすめられ、自身のアルバム制作の準備を始めました」

※ワンフー(WONFU)。98年に結成された台湾のロックバンドで、THE COLLECTORSの加藤ひさしとの交流や来日公演の開催、日本盤CDのリリースなどで日本との関係も深い

川島茉樹代の2004年作『魔術代』収録曲“你到底”。作曲はダダド・ホアン

――大学時代と兵役時代、その2人のメンターに出会ったことが全てというか、ミュージシャンになる運命だったとすら感じられるエピソードですね。

「そうですね。逆にミュージシャンにならなければもっとお金持ちになっていたかも分かりませんが(笑)。大学時代は森林工学を学んでいたので、全く予期しないキャリアでした」

――プロデビューが他のアーティストへの楽曲提供だったわけですが、〈自分の楽曲は自分で歌いたい〉と思ったりはしませんか?

「最初の頃は他のアーティストが自分の楽曲を歌うことに対して違和感もありました。ただ、ワーウェイによる“香格里拉(Shangrila)”のカバーで考えが変わったと思います。彼女のアレンジは、いい意味で私の予想を裏切るもので、自身の音楽に対して新たな可能性を感じたんです」

ワーウェイの2021年のEP『在哪裡』収録曲“香格里拉(Shangrila)”

――楽曲を自分自身で歌うのか、あるいは他のアーティストが歌うのか、その前提によっても制作プロセスは異なると思います。

「そうですね。私としては、他のアーティストが歌うことを想定する方が書きやすいです。ワーウェイには“門”という楽曲を提供(書き下ろし)したことがあり、彼女とはカバーと楽曲提供の両方を経験しているので、その違いがよく分かるんです」

ワーウェイの2021年のEP『在哪裡』収録曲“門”

 

フォーク以外のアーティストとのコラボへの挑戦

――デビュー以降、アコースティックでシンプルな音楽性が特徴でしたが、2014年リリースのEP『大自然的力量』では電子音やヒップホップを取り入れ、よりカラフルなミクスチャーミュージックに様変わりしたというか、一気に方向性を変えた印象を受けました。これは何故でしょうか?

「これは所属していたレコード会社〈A Good Day Records〉による提案だったのですが、私自身フォーク以外にも色々な音楽を聴いていますし、ジャンルの異なる3組のアーティストとコラボレーションすることにしたんです」

2014年のEP『大自然的力量』収録曲“因為你”

――ダダドさんの多彩な音楽性が反映された作品、とも言えるのでしょうか?

「そうですね、当時の私の音楽的な好みが大きく反映されていると思います。当初のコンセプトが〈異なるジャンルのアーティストとのコラボレーション〉だったので、チャレンジが前提だったというか、逆に肩の力を抜いて制作に取り組めたと思います。

例えば、収録曲の“一路向東”はヒップホップですが、通常であれば収録をためらうでしょう。けど、このコンセプトがあったからこそ、世に出すことができました」

2014年のEP『大自然的力量』収録曲“一路向東”

――“一路向東”でフィーチャリングされているのが原住民出身のシンガーソングライター、スミン(舒米恩)だったり、参加アーティストも気になりますね。

「スミンは旧友ですね。ホアン・シャオチェン(黃小楨/berry j)は私の先輩で、ファーストアルバム『綠色的日子』(2007年)とセカンドアルバム『我的高中同學』(2010年)は彼女のプロデュースです」

――他の人にプロデュースされることに対してはどう考えてますか? インディーシーンが隆盛を極める台湾では、セルフプロデュースを行うアーティストも多いかと思います。

サードアルバム『下雨的晚上』(2013年)以降はセルフプロデュースです。ホアン・シャオチェンにプロデュースの依頼をしたところ、〈自分でできるはず〉と背中を押されました。実際やってみて、自分でプロデュースした方が羽を伸ばせるとは感じましたね」