台湾の伝統音楽、北管を取り入れた独自のロックサウンドから、唯一無二の存在感を放っている百合花(Lilium)。作詞作曲を担う林奕碩(リン・イーシュオ)、ベースの林威佐(リン・ウェイズオ)、ドラムスの陳奕欣(ディー・チェン)という3ピース編成で活動し、台湾を代表するR&B歌手、9m88もラブコールを送るなど、アーティストからのリスペクトも厚い。2019年にリリースしたデビューアルバム『燒金蕉(Burnana)』が〈金音創作獎〉で最優秀新人賞を含む2部門を受賞、2020年にリリースされたセカンドアルバム『不是路(Road to...)』は今年の〈金曲奨〉で〈台湾語アルバム賞〉〈アルバムデザイン賞〉のW受賞を果たしており、台湾はもちろん、インターナショナルな活躍も期待される。
リン・イーシュオはファインアーツで学士・修士を取得し、台湾伝統音楽の音楽理論とボーカリゼーションを学んできたというアカデミックなバックグランドも持つ。そんなイーシュオが創作におけるテーマとして掲げているのが〈反グローバリズム〉。台湾における音楽環境そのものが西洋化されていると捉え、自身の直感をも疑い、台湾伝統音楽の理論・作法を極力尊重したロジカルなアプローチで作曲を行なっているのが大きな特徴だ。
今回はそんな百合花にインタビューを行い、最新アルバムのコンセプトや制作プロセス、直感を信じないことの大切さについて語ってもらった。
なお、このインタビュー記事は、Taiwan Beatsとのタイアップとなっている。Taiwan Beatsの日本語サイトでも百合花の記事を同時掲載しているので、ぜひチェックしてほしい。
台湾語に多彩な視点をもたらしたい
――セカンドアルバム『不是路(Road to...)』のリリース、そして同作の金曲奨でのW受賞おめでとうございます。ボサノバやディスコファンクなど、さまざまな音楽スタイルを取り入れたカラフルな作品だと感じました。デビューアルバムとはまた違った印象を受けるリスナーも多いと思うのですが、その意図について教えてください。
リン・イーシュオ「実は『不是路(Road to...)』に収録されているほとんどの楽曲は、デビューアルバム『燒金蕉』の収録曲と同じ頃に書かれているんです。なので、変わったのは主にアレンジなのですが、これは私の音楽嗜好が変わったのではなく、楽曲のコンテクストに合わせてアレンジした結果です。
例えば、2曲目の“拜六(Saturday)”はディスコファンク調の楽曲になっていますが、実際、ディスコファンクをかけるのが好きなDJについての歌なので、そうなっているんです。そして、台湾の伝統音楽にさまざまな音楽的要素を取り入れることで、その可能性を広げてみたいという気持ちもあります」
――本作は〈台湾語アルバム賞〉を受賞している訳ですが、台湾語で歌う理由について教えてください。
イーシュオ「台湾では1930年代以降、マンダリンが主要言語となっています。以前は日常的に使用されていた言語だったのですが、今ではその話者のほとんどが高齢者、あるいは台湾のアイデンティティーを主張する政治家など特定の職業に就いている人たちです。私は台湾語で、自分が興味を持っていることや、アーティストとしてのビジョンについて語り、台湾語に多彩な視点をもたらしたいんです」
――〈アルバムデザイン賞〉も受賞していますが、CDのパッケージデザインもとても凝っていてかっこいいですよね。
イーシュオ「これは、台湾の伝統的な葬儀での祭壇をモチーフにしてるんです。ブックレットを実際に取り出してみると分かると思いますが、遺影の部分が切り抜かれていて、CDの盤面が鏡のように見えるんです。そしてその鏡を覗き込んだ人に、〈あなたの葬式です〉と語りかけるようなデザインになっています」
――アルバムのタイトルも印象的です。その意図について教えてください。
イーシュオ「表題曲となっている9曲目は台湾の葬儀で演奏される伝統楽曲に現代的なアレンジを加えたものです。〈曲牌〉(チューパイ)と呼ばれるもので、決まったメロディーに対して色々な人が自由に歌詞を載せることができるので、正当な歌詞も存在しません。私が今回参照したのはとあるドラマのために書かれた歌詞を載せたバージョン。ちなみに葬儀で演奏される時はインストゥルメンタルです。
また、〈不是路〉は〈ブーシールー〉と発音しますが、実は存在しているのはこの発音だけで、どんな漢字を当てはめればいいのか専門家ですら分かっていないんです。私は〈不是路〉(これは路ではない)や〈佛寺路〉(仏教の寺への道)、〈不識路〉(道が分からない)といった解釈をしていて、そういった掴みどころのなさに惹かれてタイトルにしました」