LÜCYは台北を拠点に活動する、2000年生まれのシンガーソングライター。2021年の〈GIMA(金音創作奨 Golden Indie Music Awards)〉楽曲“Heaven.zip”が〈ベストフォークソング賞〉にノミネートされ、2022年の〈プリマヴェーラ・サウンド〉(スペイン・バルセロナで行われる音楽フェスティバル)への出演も果たすなど、台湾インディーシーン期待の新鋭だ。

また、ドローイングと写真を嗜み、ファッションやタトゥーにも大きな関心を寄せるなど、ビジュアルアーツへの並々ならぬこだわりも彼女の魅力。そのファッションやMV、アートワークにも注目が集まる。今回は、そんな次世代のカルチャーアイコン、LÜCYにインタビューを行い、これまでのキャリアやデビューアルバム『LÜCY』、羊文学とのコラボレーションなど、〈今知りたいLÜCYの全て〉について語ってもらった。

なお、このインタビュー記事は、Taiwan Beatsとのタイアップとなっている。Taiwan Beatsの日本語サイトでもLÜCYの記事を同時掲載しているので、ぜひチェックしてほしい。

★Taiwan Beatsとのタイアップ記事一覧はこちら


 

ピアノレッスン嫌いの子供がミュージシャンを志すまで

――音楽に興味を持つきっかけは何でしたか?

「小学2年生の頃からピアノのレッスンを受けていましたが、母親に強制的にやらされていたので、あまり好きではありませんでした。

それでも弾き続けているうちに、決してピアノ自体が嫌いなのではなく、先生が決めた曲を譜面通りに弾くのが嫌なのだということに気づきました。それから曲を自分でアレンジするようになったのですが、先生からは怒られていましたね。けど、これが作曲に目覚めたきっかけだと思います」

――学校でも音楽を学びましたか?

「はい、高校でポップミュージックを専攻し、音楽理論など、作曲に必要なスキルを学びました。当時の先生にはとても感謝しています」

――その頃から作曲を始めたんですか?

「はい、自分で曲を書いては部屋や浴室で歌っていました。ギターを弾き始めたのもこの頃です」

――ミュージシャンになる決心がついたきっかけはありますか?

「デモ音源がプロデューサーのDéjà FuとWang Weiの手に渡り、2人とも可能性を感じてくれたんです。ミュージシャンになりたいかと訊かれ、〈もちろん〉と答えました。既に曲は作っていましたし、ミュージシャンになってもならなくても私の生活は変わらないんです。なので、失うものはない、と考えていました」

――影響を受けたアーティストはいますか?

「シンガーソングライターのビーバドゥービー(Beabadoobee)とガール・イン・レッド(girl in red)の音楽にとてもインスパイアされました。ギターとボーカルだけであの透明感を表現できるのがすごいと思います」

――いつからLÜCYと名乗るようになったんですか?

「小さい頃から名乗っていましたが、〈LUCY〉というつづりは大勢いるので、目が2つ付いた〈Ü〉に差し替えたんです。中学生だった頃、DJ名を考えていた時に思いついたアイデアです」

 

デビューアルバム『LÜCY』のコンセプトは〈旅〉

――デビューアルバム『LÜCY』がリリースされました。アルバムのコンセプトについて教えてください。

LÜCY 『LÜCY』 晚安島記 99island(2022)

「コンセプトは旅です。私が今年から乗り出した、曲がりくねる音楽の旅路が表現されています。例えるなら、収録曲は道路で見かける標識のようなものですね。家族や友人、恋愛などについて、自分との対話を通して考えたことを曲にしています。大きなことから、ちょっとしたことまで、全て自分の身に起こったことです。

1曲目の“2021”では、荷造りをして部屋の扉を開けるような〈旅立ち〉が表現されていて、アルバムの後半から家に帰りたい気持ちを歌っています。デリケートで没入感のあるサウンドメイクを目指しました。リスナーには、長い旅に出て、また家に帰ってくるかのような気分を味わって欲しいですね」

――アートワークもとても印象的ですよね。ここでもアルバムのコンセプトが反映されているのでしょうか?

「ここでは私とバンドメンバーがまだ見ぬ土地へと向かう様が描かれています。例えば、“CACTUS”を象徴するサボテンが描かれているように、各収録曲を象徴する要素で構成されています」

――個人的に特に思い入れのある楽曲はありますか?

「“2021”ですね。私が本格的にミュージシャンとしてのキャリアを歩み始めた年を表しています。自分でも不思議なくらい、心が動かされるんです。

『LÜCY』収録曲“2021”

ホームシックで泣いていた頃に書いた曲で、後に家に帰り、部屋に母親や兄弟を招いて、彼らの話し声とともにレコーディングしました。なので、私の家族の声も聞こえるはずです。

今後は“2021”のような、環境音や電子音を織り交ぜたアンビエントな楽曲を制作していきたいです」

――収録曲の“CACTUS”は2020年の終わりにリリースされています。以降、音楽性や心境において、現在までにどのような変化がありましたか?

「さまざまな側面で大きな変化があったと思います。以前は部屋にこもって、一人で音楽を作っていましたが、今はバンドメンバーやプロデューサーたちとの共同作業です。なので、自分の音楽的な考えを正確に伝えるためのコミュニケーション能力や協調性が求められます。慣れるのに時間がかかりましたが、成長したと思いますし、自信も付きました」

『LÜCY』収録曲“CACTUS”