高知県四万十出身のガールズ・バンド、アカネサスが初のEP『今、私は19歳』を発表した。19歳という年齢を中途半端に感じながら、リアルな心情をストレートなロックで表現する3人が集まった理由は、音楽以上にシンプルだ。

 「全校生徒が60人ぐらいの高校に入学して、この3人しか軽音部に入りませんでした(笑)」(百華)。

 「運命でしかない(笑)」(愛)。

 歌うことが好きで歌手を志していたというヴォーカル&ギターの愛と、彼女に誘われて入部したドラムスの百華は、〈ドラムのことをバンドと呼んでいた〉というほどにバンドとは縁がなく、一方でベースの梨代菜は小学生のときに地元の学生たちの演奏を観たのを機に、音楽に興味を持ち、軽音楽が盛んな高校へ入学した。現在、作詞作曲を担当している愛がギターを始めたのもそこからで、百華と梨代菜はパートを交換するなど紆余曲折を経ていまに至るが、この3人だからこそ鳴らせる音がある。

 「3人で作る音楽が好きで、このメンバーで演奏するのが楽しい。ここで出来上がったものがいちばんしっくりきます」(愛)。

 「もう1人メンバーがいる状況とか想像がつかない。テクニカルなものよりも、まっすぐでシンプルなロックが全員好きなので、それもこのバンドらしさになっているのかもしれないですね」(百華)。

 高校在学時からコンテストで入賞し、地元のメディアに取り上げられるなど注目を集め、卒業を機に上京。それから一年、東京に出てきてから作られた楽曲で構成される『今、私は19歳』には、いまの彼女たちのリアルが詰まっている。

 「東京と地元の違いを語れるほど東京のことをまだ知らないし、〈18歳で成人だ〉って言われてもまだ子ども。高校を卒業するまでは学校の中ですべてが済んでいた面もあったけど、最近は〈もう子どもじゃいられないから〉って言われるし、ちゃんとやっていかなきゃって思うんです。ただ、19歳はお酒が飲めるわけでも、タバコが吸えるわけでもない。中途半端な歳だと感じているなかで、全国にいる19歳も年齢に対して考えることがあるんじゃないかと思って。そこを意識しながら書いた部分が多いです」(愛)。

 「気持ちが落ちていたときに“孤独”のデモが送られてきて、すごくいいと思いました。このEPのなかでいちばん好きです」(梨代菜)。

 「どれも好きだけど、“最愛”と“バイト行きたくない!”が特に最高。“最愛”には共感しかなかった。どの曲にも愛がそのまま入ってる」(百華)。

 「大人になりたくないというか、子どもでいたいんです。歌詞に嘘はないですね」(愛)。

アカネサス 『今、私は19歳』 Akanesas(2023)

 

 

 難しい言葉を使わずに描く愛の世界。それが真っ直ぐに届くのは、このメンバーで作る音があるからだ。3ピースならではの力強いロック・ナンバーが並ぶなか、あえて弾き語りにした“午前0時終電”もあり、アカネサスだから表現できる〈今〉を存分に感じさせる仕上がりとなっている。最後に、少し先の未来について尋ねると「全国どこへ行っても、ライヴハウスがほぼ満員だという状態になりたい」(梨代菜)、「〈アカネサスといえばこれ〉みたいな曲をいくつか作りたい。ヒットが出せたらいいですね」(愛)といった話が出るなか、さらに先の目標として愛と百華が挙げたのは〈武道館〉。愛が敬愛するOfficial髭男dismや、百華がバンドとして憧れているMy Hair is Badのステージを観て、「自分たちもここに立ちたい」と感じたという。

 「10年ぐらいかかっても、武道館が似合うアーティストになったうえで立ちたい」という百華に対し、「もっと早く立てると思う。かっこいいと思うよ、私ら」と話した愛の言葉がとても印象的だった。等身大の音楽を届ける彼女たちが、憧れの場所でその音を鳴らす日がとても楽しみだ。

 


アカネサス
愛(ヴォーカル/ギター)、梨代菜(ベース)、百華(ドラムス)から成るロック・バンド。高知県四万十町にある窪川高校の軽音楽部で2019年に結成され、翌年に〈TOKYO MUSIC RISE〉で奨励賞を受賞する。2021年に初音源集『アカネサス』を発表。2022年3月に初のワンマンを地元で開催して話題となり、高校卒業後の4月に上京して活動を本格化する。『スタートライン』『夕暮れに歌う』などの音源集を経て、このたびファーストEP『今、私は19歳』(Akanesas)をリリースしたばかり。