山下和仁が聴く者の度肝を抜いた“新世界より”全楽章版。日本ではファイアバードから、海外ではRCAから出された、あの1987年盤をしのぐとさえ言える鬼気迫るドキュメント、1989年1月カザルスホール・ライヴがついに顕れた。当時27歳、それまでの音楽的展開を凝縮したリサイタル・シリーズの初回メインがこの“新世界”。破天荒極まりない技術と設計の怜悧なコントロール、一瞬一刻に憑依し閃かせる音が聴き手を没入に引き込む。疾走する第1楽章、極大の振幅で天地を往還するラルゴ、後半楽章では隔絶した超絶技巧が開陳される中、大詰めに向かって音がどんどん澄み切っていく稀有の瞬間が刻まれている。