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子育てや暮らしの中から生まれた曲

――今回の新作では、ちょうど半数のレパートリーが大塚さんのオリジナル曲です。いつ頃から作曲を始めたのでしょうか?

「関西で活動すると決めた10年前ほどから、自分の曲を作りたいなと思って書いてはいました。最初はアイデアのかけらみたいな感じで、それを形にしはじめたのは数年前です。ミュージシャンの前にそれを持っていって〈自分の曲やってほしいんだけど〉と言い出したのは、もっと最近になってからですね」

――どういった時にメロディや曲の断片が浮かんでくるのでしょうか?

「1曲目の“曖昧な藍”は、本当に暮らしの中で出てきた曲です。子供3人を寝かしつけて、片付けをして、一息ついた時にようやく自分の練習時間が始まって、というのが今の私の生活なんですね。曲を作りたいと思ってピアノの前に向かったら夜中の12時ぐらいになっていて、〈真夜中に私1人〉みたいな、なんともいえない気持ちで曲を作りました。家の中で自分だけが起きていて、なんだかすごく怖くなってきて、窓の外を見たら本当に濃いインディゴ色の空で……。明日なのか今日なのかわからないような、曖昧な時間の色だったんですよ。

“Leaves”は、京都の山の方まで子供を送り迎えしている時に、ふと出てきた鼻歌がモチーフになっています。本当に、そういう瞬間瞬間に出てくる鼻歌が曲になっていますね」

――“曖昧な藍”は大塚さんのベースから始まります。リーダーの独奏から始まるベーシストのバンドのアルバムは意外と多くない気がするので、新鮮でした。

「曲順に関しては、朗さんがいくつも案を用意してくださっていて、それをベースにしつつ、私の意見を反映させました。私のベースから始まる曲が1曲目なのも、〈最初はやっぱ恵さんの曲からやらなあかんやろ!〉みたいな感じで決まっていきましたね」

――“ゆずり葉”も、実に抒情的なナンバーです。大塚さんはこの曲をピアニストの清水武志さんとも演奏なさっていましたね。

「しめ縄につけられる緑色の分厚い葉のことを〈ゆずり葉〉というのですが、この曲は河井酔茗(明治7年生まれの詩人)の詩『ゆづり葉』からつけました。教科書にも載っているぐらい有名な詩なのですが、産後に読んで、〈この美しい世界を子供たちに残していくのが親の役目だ〉という内容に共感して作ったのがこの曲です」

 

コロナ禍を経て熱さを増す関西ジャズ

――このアルバムや先ほどおっしゃっていたジャズカラバッシュの話をうかがうと、関西のジャズシーンがますます熱いんじゃないかと思えてくるのですが、今の関西のジャズシーンに関する大塚さんの意見をいただけますか?

「若手と言いますか、30代ぐらいの本当に実力あるミュージシャンが多いですね。ピアノの加納新吾くん、トランペットの広瀬未来くんなどは指導者としても活躍していて。もちろんジャズカラバッシュを主催しているピアニストの永田有吾くんも。

きっかけは、多分コロナ禍だったと思うんです。コロナ禍の中でも音楽をやっていくという経験を経た、ミュージシャンによるイベントが増えている印象を受けますね。もちろん関西のミュージシャンは東京のミュージシャンとも交流がありますし、そこもかなり大きいかなとは思います」

――ピアニストの西山瞳さんがアルバムに寄せたコメント〈このリアルタイムで感じる心の深部の繋がりこそがジャズ・アンサンブルの悦びであり、デビュー作でこのアンサンブルの根本をしなやかに提示した彼女の志の高さに、同じミュージシャンとして敬意を表したい〉も印象的でした。

「私は西山さんと何度か演奏をご一緒させていただいていますが、西山さんを介していろいろな方に繋げていただくことが多くて、ハブになっている方だなと思いますね。私は今後もいろんなミュージシャンと交流して、刺激を受けていきたいなと思っています」

 


RELEASE INFORMATION

大塚恵 『Spontaneously』 メザニンミュージック(2024)

リリース日:2024年5月8日(水)
品番:MM00200
価格:3,300円(税込)

TRACKLIST
1. 曖昧な藍 Aimai na Ai (Otsuka Megumi)
2. After (Otsuka Megumi)
3. Untitled (Kano Shingo)
4. Leaves (Otsuka Megumi)
5. Summer Delight (Sobajima Mayumi)
6. The forecaster (Hasegawa Ro)
7. ゆずり葉 Yuzuri Ha (Otsuka Megumi)
8. Lullaby for two (Nakamura Yujiro)

■メンバー 
大塚恵 ベース/Otsuka Megumi: bass
長谷川朗 テナーサックス、ソプラノサックス/Hasegawa Ro: tenor sax, soprano sax
加納新吾 ピアノ/Kano Shingo: piano
中村雄二郎 ドラムス/Nakamura Yujiro: drums

2024年1月5日 奈良県大和郡山 N.M.G.スタジオにて録音
録音、ミックス、マスタリング:三輪卓也

 

LIVE INFORMATION
2024年7月6日(土)滋賀・草津 Coltrane
開場/開演:19:00/19:30

2024年7月12日(金)京都・三条 le club jazz
開場/開演:19:00/19:30

2024年8月21日(水)愛知・名古屋 栄 jazz inn LOVELY
開場/開演:18:00/19:30

 


PROFILE: 大塚 恵
兵庫県神戸市生まれ。高校で弦楽部に入部しコントラバスを始める。北海道大学ジャズ研究会への入部を機にジャズに出会い、学生の頃から札幌在住ミュージシャンとの活動を始め、在学中からピアニスト福居良のレギュラーベーシスト、ブラジリアンギタリスト飛澤良一のバンドの初代ベーシストを務めたほか、日本を代表するベーシスト斎藤徹、井野信義、秋田祐二、瀬尾高志を中心としたコントラバスユニット〈漢たちの低弦〉の初演メンバーとして釧路公演に参加。一度は就職するも音楽家を目指して退職。2012年、関西を中心に活動を開始。大阪SUBの2代目オーナーでありサックス奏者の長谷川朗に出会い、SUBのレギュラーベーシストとして長谷川をはじめ国内外のミュージシャンとセッションを重ねる。クリスチャン・ジェイコブ、坂井紅介、福居良、林栄一、小山彰太等、数々のミュージシャンと共演。坂井紅介、荒玉哲郎に師事。現在も大阪SUBのレギュラーベーシストを務め、滋賀、京都、大阪、神戸のライブハウスを中心に全国で活動中。
litlink:https://lit.link/otsukamegumipangaea

PROFILE: 長谷川 朗
73年、京都生まれ。関西大学在学中よりベーシスト西山満に多くを教わり音楽活動を始める。99年より7年間ニューヨークで過ごす。2005年、リーダー作『イン・ディス・ケース』を発表。帰国後、数年間東京で活動し、2010年に大坂昌彦のアルバム『ファンキー7』にアルトサックス奏者として参加するとともに数曲のアレンジを担当。2011年、西山の逝去を受け大阪谷町九丁目のジャズクラブSUBの経営を引き継ぐ。2015年、アルトサックス奏者の側島万友美とともにジャズレーベル〈メザニンミュージック〉を立ち上げ、側島のデビューアルバム『エニシング・エルス』に参加するとともにアルバム制作を開始。2021年、ジャズイベント〈メザニンジャズウィーク〉を開催、内外のミュージシャン多数を関西に招聘する。翌2022年も同イベントを成功させ、本拠地SUBのみならず他のイベント等のプロデュースも手掛ける。創業54年、自身のオペレーションになり12周年を迎えた老舗クラブSUBを本拠地としながら全国的に活躍中。
オフィシャルサイト:https://www.subjazzcafe.com/ro-hasegawa-and-the-music

PROFILE: 加納新吾
86年、大阪生まれ。6歳よりクラシックピアノを始める。中学、高校でポップスやロックに興味を持つ。大阪芸術大学音楽学科ポピュラー音楽コースに入学後、近秀樹に出会いジャズに傾倒。在学中より演奏活動を開始。2009年、ジュリアード音楽院での短期留学プログラムに参加。2012年、ファーストアルバム『PRECIOUS』をJAZZ LAB.よりリリース。2013年、第5回神戸ネクストジャズコンペティションにてグランプリを受賞。2014年、フレンチ・クォーター・ジャズ・フェスティバルに出演(アメリカ・ニューオーリンズ)。2016年より渡米、ニューヨークで3年ほど活動。2021年、NHK朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」のバンド演奏シーンに参加。2023年、NHK朝の連続テレビ小説「ブギウギ」のバンド演奏シーンに参加。2024年、大阪芸術大学演奏学科特任講師に就任。

PROFILE: 中村雄二郎
東京都出身。16歳の時に高校の軽音楽部でドラムを始める。米ボストンの名門バークリー音楽大学へ入学。大学在学中にジャズと出会い夢中になる。ジョン・ハジラ、ジョー・ハント、ケンウッド・デナード、ジョン・ラムジー等、数多くの名プレイヤーを育て上げてきた巨匠たちに師事し、さらに校外でも当時ボストンのジャズシーンを率いていたジョン・ラムキンにグルーヴの大切さを学ぶなど精力的に腕を磨く。大学3年の時にジョン・ラムキンの後任としてボストンの若手ミュージシャンの登竜門と言われるウォーリーズ・カフェのハウスドラマーを任されるようになる。卒業後、活動拠点をニューヨークに移す。その後、地元ハーレムのミュージシャンたちにとって伝説的なクラブであるセイント・ニックズ・パブをはじめ著名な若手プレイヤーを多数輩出してきたクレオパトラズ・ニードル等、数々のクラブにてハウスドラマーを務め、ブロンクスの教会のチャーチドラマーとなるなどさらに活躍の場を広げる。また長谷川朗、百々徹、野沢美穂のバンドの日本ツアーに参加、ジェイ・トーマスやパトリック・ウルフの全米ツアーにも参加した。2016年に帰国、活動拠点を大阪として大西順子トリオへ参加、また大林武司トリオツアーに参加しブルーノート東京への出演を果たすなど全国的に活躍中。