藤井 風のカバーアルバム『HELP EVER HURT COVER』が、紙ジャケット仕様でリイシューされた。本作は1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』の初回盤CDに付属していた作品で、長らくフィジカルでの入手が困難となっていた作品だ。WBCの公式サントラへの参加など、今や世界を舞台に活躍する藤井の真の原点とも言えるカバー集について、ライターのノイ村にレビューしてもらった。 *Mikiki編集部
藤井 風とバート・バカラックの類似点
藤井 風にとってカバーアルバム第1弾となった『HELP EVER HURT COVER』は、次作『LOVE ALL COVER ALL』のバラエティに富んだ選曲と比較すると、より彼自身の原点を想起させるスタンダードな楽曲が並んでいる。
作品のタイトルも実に印象的だ。〈COVER〉の前に置かれたのは〈HURT(傷つける)〉という言葉。アルバム本編の名称(『HELP EVER HURT NEVER』)をもじっているとはいえ、そこには自らが名曲をカバーするという行為に対して、どこか俯瞰的なスタンスで臨んでいるようにも読み取れる。
本作はピアノによる弾き語りをベースに、あくまでコーラスを重ねる程度の最低限のアレンジのみが施されていて、そこには剥き出しの藤井 風の姿を見ることができる。
1曲目を飾るカーペンターズ“Close To You”は、デビューシングル“何なんw”を表題とした配信限定EPにも収録された楽曲で、デビュー前の2018年(当時21歳)にもYouTubeにカバー動画を投稿していた、まさに彼の原点とも言える選曲だ。
原曲もピアノの伴奏で始まるだけに、本作の中では比較的オーソドックスなアレンジとなっている。だからこそ、冒頭の絹のように美しい歌声が響く瞬間に圧倒される。また、曲後半の重厚なコーラスワークも素晴らしく、〈Close to you(あなたのそばに)〉という言葉をまるで祈りのように響かせている。
“Close To You”の作曲家でもあるバート・バカラックといえば、稀代のメロディメイカーとして数多くの名曲を書き上げ、人々を魅了し続けてきたアーティストだ。その楽曲群は洗練された気品を纏いながら、どこかチャーミングでユーモラス、何よりとびきりロマンティックな作品が多かった。それは様々な面において藤井 風との類似性を想起させる。
だからこそ、本作にバカラックの手掛けた楽曲がもう一つ収録されているのは、おそらく偶然ではないはず。1966年公開の映画「アルフィー」の主題歌として書き下ろされて以降、シェールのオリジナル版やシラ・ブラックによるバージョンを皮切りに、ディオンヌ・ワーウィック、スティーヴィー・ワンダー、ホイットニー・ヒューストン、最近ではシンシア・エリヴォなど数え切れないほどのスターが歌い続けてきた“Alfie”は、バカラックの魅力が凝縮された楽曲の一つだ。
藤井によるカバーでは、丁寧に紡ぐ歌声やボーカルのメロディを演奏に織り交ぜるチャーミングなアレンジに引き込まれるが、特に白眉なのが曲中盤における〈As sure as I believe there’s a heaven above, Alfie/I know there’s something much more(僕は確かに空に天国があるって信じているよ、アルフィー/ただ、それよりも大きな存在があるって僕は知っている)〉のパートでグッと歌声を強める瞬間だ。後に続くラインが示すように、その〈存在〉とはすなわち愛であるわけだが、その歌声の確かな力強さは、藤井自身もまた、そのことを心の底から信じていると鮮やかに示しているように思える。
エディ・ヴァン・ヘイレンを彷彿させる演奏、エイミー・ワインハウスのような危うさ
一方、藤井のユーモラスなセンスが光るのがマイケル・ジャクソン“Beat It”のカバーだ。エディ・ヴァン・ヘイレンが奏でる強烈なギターを筆頭に、マイケルのディスコグラフィーの中でもR&Bとハードロックの要素をブレンドしたナンバーだが、藤井はピアノ一つでそのエネルギーを表現してみせようと真っ向勝負なアレンジで挑んでいる。
ジェリー・リー・ルイスさながら激しく鍵盤を打ち鳴らす姿が目に浮かぶ打鍵音のデカさと、切れ味鋭いボーカルが呼応しながら躍進していく様は、まさにロック的という他ない。原曲のギターソロの部分についても、流麗な指捌きでエディのタッピングを彷彿とさせる演奏を披露するなど、その才能に圧倒されるばかりだ。
カバーというのは、オリジナル以上にそのミュージシャンの人となりや信条を浮かび上がらせる。本作のラスト2曲の並びは、まさに藤井自身のルーツというものを表しているように思えてならない。
弱冠19歳の若さでデビューアルバム『Frank』を制作し、ジャズやR&Bを融合した独自の(だが伝統をしっかりと引き継いだ)音楽性と圧倒的なボーカルパフォーマンスで瞬く間に世界を魅了したエイミー・ワインハウス。本作では彼女のデビュー曲“Stronger Than Me”が選曲されており、原曲のどこか危ういムードや、何者にも縛られまいとする表情豊かなボーカルのニュアンスを的確に汲み取り、自身のものにしようとする藤井の姿が見て取れる(彼らしい歌唱を貫く本作において、この曲では明らかにエイミーの歌声に寄せているようにも感じられる)。“死ぬのがいいわ”に象徴されるように、藤井の楽曲には独特な危うさを纏ったものも少なくないが、このカバーは、まさにそのルーツがどこにあるのかを提示している。
そんな“Stronger Than Me”も収録された『Frank』のタイトルの由来は、エイミーが敬愛してやまないフランク・シナトラにある。本作の最後に置かれたダイナ・ワシントン“Time After Time”のカバ―も、元は1947年の映画「下町天国」の挿入歌としてシナトラが歌ったのが初出で、以降はジャズスタンダードとして愛されてきた楽曲だ(ダイナ版を選んでいるのは、藤井が幼い頃に父から子守唄として聴かせられていたからだそう)。
本作を締め括る2曲が音楽史と藤井自身の文脈の両面においてフランク・シナトラへと帰結する構造になっているのは、決して偶然ではないだろう。まるで映画のエンディングのようなムードを纏い、それこそ子守唄のように優しい歌声で紡がれる〈So lucky to be loving you(君を愛することができて本当に幸せだ)〉というフレーズは、きっと藤井からの、ファンと音楽に対する率直な思いの表れではないだろうか。
『HELP EVER HURT COVER』は、藤井の表現の核となるものが剥き出しとなって詰まっている作品である。世界的に活躍する今だからこそ、この作品を再訪するのはとても興味深く、新たな発見に満ちていると言えるだろう。
RELEASE INFORMATION
リリース日:2026年2月25日(水)
品番:UMCK-1820
価格:2,750円(税込)
仕様:1 CD/紙ジャケ二つ折りソフトパック/ブックレット
TRACKLIST
1. Close To You (Carpenters)
2. Shape Of You (Ed Sheeran)
3. Back Stabbers (The O’Jays)
4. Alfie (Burt Bacharach)
5. Be Alright (Ariana Grande)
6. Beat It (Michael Jackson)
7. Don’t Let Me Be Misunderstood (The Animals)
8. My Eyes Adored You (Frankie Valli)
9. Shake It Off (Taylor Swift)
10. Stronger Than Me (Amy Winehouse)
11. Time After Time (Dinah Washington)
リリース日:2026年2月25日(水)
品番:UMCK-1822
価格:2,750円(税込)
仕様:1 CD/紙ジャケ二つ折りソフトパック/ブックレット
TRACKLIST
1. Sunny (Bobby Hebb)
2. No Tears Left To Cry (Ariana Grande)
3. Hot Stuff (Donna Summer)
4. Sorry (Justin Bieber)
5. Good As Hell (Lizzo)
6. Just The Two Of Us (Grover Washington Jr.)
7. Weak (SWV)
8. Overprotected (Britney Spears)
9. Teenage Dream (Katy Perry)
10. Eh, Eh (Lady Gaga)
11. Circles (Post Malone)
リリース日:2026年2月25日(水)
品番:UMCK-1819
価格:3,520円(税込)
仕様:1 CD/紙ジャケ二つ折りソフトパック/ブックレット
TRACKLIST
1. 何なんw
2. もうええわ
3. 優しさ
4. キリがないから
5. 罪の香り
6. 調子のっちゃって
7. 特にない
8. 死ぬのがいいわ
9. 風よ
10. さよならべいべ
11. 帰ろう
リリース日:2026年2月25日(水)
品番:UMCK-1821
価格:3,520円(税込)
仕様:1 CD/紙ジャケ二つ折りソフトパック/ブックレット
TRACKLIST
1. きらり
2. まつり
3. へでもねーよ (LASA edit)
4. やば。
5. 燃えよ
6. ガーデン
7. damn
8. ロンリーラプソディ
9. それでは、
10. “青春病”
11. 旅路



