藤井 風のカバーアルバム『HELP EVER HURT COVER』が、紙ジャケット仕様でリイシューされた。本作は1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』の初回盤CDに付属していた作品で、長らくフィジカルでの入手が困難となっていた作品だ。WBCの公式サントラへの参加など、今や世界を舞台に活躍する藤井の真の原点とも言えるカバー集について、ライターの林剛にレビューしてもらった。 *Mikiki編集部

藤井 風 『HELP EVER HURT COVER』 HEHN/ユニバーサルシグマ(2021)

 

藤井 風とバート・バカラックの類似点

藤井 風にとってカバーアルバム第1弾となった『HELP EVER HURT COVER』は、次作『LOVE ALL COVER ALL』のバラエティに富んだ選曲と比較すると、より彼自身の原点を想起させるスタンダードな楽曲が並んでいる。

作品のタイトルも実に印象的だ。〈COVER〉の前に置かれたのは〈HURT(傷つける)〉という言葉。アルバム本編の名称(『HELP EVER HURT NEVER』)をもじっているとはいえ、そこには自らが名曲をカバーするという行為に対して、どこか俯瞰的なスタンスで臨んでいるようにも読み取れる。

本作はピアノによる弾き語りをベースに、あくまでコーラスを重ねる程度の最低限のアレンジのみが施されていて、そこには剥き出しの藤井 風の姿を見ることができる。

1曲目を飾るカーペンターズ“Close To You”は、デビューシングル“何なんw”を表題とした配信限定EPにも収録された楽曲で、デビュー前の2018年(当時21歳)にもYouTubeにカバー動画を投稿していた、まさに彼の原点とも言える選曲だ。

原曲もピアノの伴奏で始まるだけに、本作の中では比較的オーソドックスなアレンジとなっている。だからこそ、冒頭の絹のように美しい歌声が響く瞬間に圧倒される。また、曲後半の重厚なコーラスワークも素晴らしく、〈Close to you(あなたのそばに)〉という言葉をまるで祈りのように響かせている。

“Close To You”の作曲家でもあるバート・バカラックといえば、稀代のメロディメイカーとして数多くの名曲を書き上げ、人々を魅了し続けてきたアーティストだ。その楽曲群は洗練された気品を纏いながら、どこかチャーミングでユーモラス、何よりとびきりロマンティックな作品が多かった。それは様々な面において藤井 風との類似性を想起させる。

だからこそ、本作にバカラックの手掛けた楽曲がもう一つ収録されているのは、おそらく偶然ではないはず。1966年公開の映画「アルフィー」の主題歌として書き下ろされて以降、シェールのオリジナル版やシラ・ブラックによるバージョンを皮切りに、ディオンヌ・ワーウィック、スティーヴィー・ワンダー、ホイットニー・ヒューストン、最近ではシンシア・エリヴォなど数え切れないほどのスターが歌い続けてきた“Alfie”は、バカラックの魅力が凝縮された楽曲の一つだ。

バート・バカラックがセルフカバーした“Alfie”

映画「アルフィー」の主題歌として使用されたシェールが歌う“Alfie”

藤井によるカバーでは、丁寧に紡ぐ歌声やボーカルのメロディを演奏に織り交ぜるチャーミングなアレンジに引き込まれるが、特に白眉なのが曲中盤における〈As sure as I believe there’s a heaven above, Alfie/I know there’s something much more(僕は確かに空に天国があるって信じているよ、アルフィー/ただ、それよりも大きな存在があるって僕は知っている)〉のパートでグッと歌声を強める瞬間だ。後に続くラインが示すように、その〈存在〉とはすなわち愛であるわけだが、その歌声の確かな力強さは、藤井自身もまた、そのことを心の底から信じていると鮮やかに示しているように思える。