日本ジャズ界に新風を吹き込むギタリスト、竹内勝哉。ロックバンドでキャリアをスタートさせ、インプロビゼーションへの興味からイングヴェイ・マルムスティーンを経由してジャズの世界に飛び込んだユニークな経歴を持つジャンルの越境者だ。そんな彼の自由な感性がいかんなく発揮されたファーストアルバム『宵/Yoi』は、ジャズというフォーマット上にありつつも彼の歩みをギュッと凝縮して表現したような、常識に囚われない1枚となった。
「自分はどちらかというと陰りのあるサウンドが好き」という彼の内面を表現したタイトルとジャケットに包まれた楽曲の数々は、スタンダード然とした楽曲からヘヴィメタルからの影響を隠さない奔放なナンバーまで、振り幅の大きな内容でありつつ、雄弁に歌い、時には語る竹内のギターが全編を貫く。そのさまは、ジャズというのはそもそも越境者たちが創りあげてきた音楽なのだと改めて思い知らされるようだ。また、ポップスやロックと同様、日本のジャズもより広く世界に向けて発信されていきそうな予感を膨らませる。
自主制作として作られた本作は、発表以来じわじわと評判が広がり、この4月にはタワーレコード限定で全国的に発売されることになった。リリース記念のライブツアーを直前に控えた彼に、改めてアルバムについて話を聞いた。

ビバップの速いフレーズが弾けるのはメタルを通過したから
――デビューアルバムが発売された今の心境を教えてください。
「最初は配信だけのつもりで作って、後々CDを自主販売でやっていこうと考えていました。そこで、バンド時代に地元のタワーレコード名古屋パルコ店などにお世話になった縁もあり、扱っていただけたらいいな、と思ってお願いをしたところ、そこからいろいろなことが起こって結果的に全国的に展開できるようになり……自分でもビックリしていますし、本当にうれしいです」
――タワーレコードのCOO高橋聡志さんが作品を気に入ったのだとか。
「そうなんです。名古屋パルコ店店長の塚元(雄太)さんが紹介したところ、ハマってくださったみたいで、直接メッセージを頂いて驚きました」
――今回は、アルバムに収められた曲について伺っていこうと思います。まず、オープニングを飾る“Lift Off”から“Interstellar”への流れについて教えてください。ジャズアルバムとしては珍しい、作り込んだSEから始まるのが特徴ですね。
「“Interstellar”は2019年以前からライブで演奏し続けている曲で、アルバムの最初にもってきたいな、というのは制作を始めたときから考えていました。リフものの曲が好きなので、ベースラインのリフを軸に曲が展開していくように作ったものですね。
ライブでは、メンバーの誰かが即興を始めて、それをイントロにして入っていくことも結構あったので、今回もフリーな感じで録って“Interstellar”につなげようと思いました。ファーストアルバムの1曲目でもありますし、〈これから宇宙空間に発射する、飛んでいくぞ!〉というイメージで、パブリックドメインの音声や宇宙飛行士っぽいSEを重ねています」
――ピアノソロのバッキングでワウを使っているのも印象的です。よりスペース感が増したというか……。
「ピアノとギターは音がぶつかってしまうことが結構あるんですよね。わざとぶつけてその効果をねらうというやり方もあると思うのですが、この曲に関しては、ちょっと違うサウンドも欲しいな、と思ってワウを使いました。
あと、僕の好きなイングヴェイの影響もありますね。イングヴェイもワウを使うので」
――イングヴェイの影響についても聞きたいと思っていました。ワウもそうですし、“Interstellar”だけに限らず、ギターソロの後半で速弾きを効果的に使ってエモーショナルに盛り上がるのもイングヴェイからの影響の延長線上にあるのかな、と思いました。
「僕がギターを始めたときは、BUMP OF CHICKENやRADWIMPSなどのカバーから始めたのですが、確かRADWIMPSの曲に速いフレーズが入っているものがあったんですよね。それで速弾きの研究を始めてイングヴェイにたどり着いたんです。かなりハマって、イングヴェイ・モデルのストラトキャスターを使っていた時期もありました。バンドで閃光ライオットの決勝に出場したときは歯で弾いたり、邦ロックっぽい曲調でめっちゃスウィープ奏法をしたり。空気が読めないやつだったかもしれません(笑)。
ジャズに興味をもつようになってからは、チャーリー・パーカーやクリフォード・ブラウン、ブッカー・リトルなどのレジェンドから、新しいところではアーロン・パークスやウィル・ヴィンソンなど様々なアーティストの演奏をコピーするのですが、そのときに速弾きで培ったテクニックが役立っていますね。ビバップのフレーズも速いですし、それに追いついていけるのはメタルを通過したことが大きいです」

J-POPを咀嚼したキャッチーさ
――“Timeline”はキャッチーなメロディと、徐々に盛りあがっていく感じがじんわりと効いてきますね。
「キャッチーさは意識しました。この曲は、まず最初にテーマのメロディが頭に浮かんで、それをどう構築していこうかと考えながら作った曲です。小節数はちょっとイレギュラーなのですが、うまくまとめられたかな、と思います」
――続く“Maze”はソウルフルでシティポップの香りもする軽快なナンバーで、リズムも独特なので、アルバムの中でもいいスパイスになっていると思います。
「わりと昔からある曲なんですが、こういうビートの曲もアルバムに入れたいなと思いました。僕は最初からジャズをやっていたエリートではないし、ジャズシーンに横からすっと入ってきたプレイヤーなんです。それで、日本のインストものとかもよく聴いていたので、こういうジャズファンでなくとも聴きやすい曲も1曲入れておきたいな、と思って収録しました」
――ピアノの平手裕紀さんがエレピを弾いているのも印象的です。
「彼はジャズピアニストとして日々演奏しているのですがJ-POPも好きで、車に乗せてもらうと山下達郎さんのアルバムがかかっていたりするんです。音楽性もものすごく幅広くて柔軟なので、僕の音楽にとてもマッチしていると思います」
――この曲でもギターソロの盛り上がりが気持ちいいです。特に、さりげなく入ってくるブルージーなフレーズがグッときますね。
「オスカー・ピーターソンなどのコピーをすると、そういうブルージーなフレーズがよく出てくるんですよね。それも、本当に気持ちいいところで入ってくる。それがカッコいいな、と思って、自分もそうできるよう心がけています」
メタルのギターリフ文化をジャズに持ち込む
――杉山寛さんのドラムソロによるイントロに導かれる“Play is Work”はストレートアヘッドなジャズで、再び空気がガラッと変わります。
「ジャズの世界では、みんなでパッとやれるようなスタンダードナンバーがあるじゃないですか。そんな曲が欲しくて作りました。しかも、たとえばテンポが速かったりとか、コルトレーンの“26-2”みたいにコルトレーン・チェンジ※が入っていたりとか、そんなチャレンジングな曲にしたかったんですよね」
――軽快なリズムの上で朗々と歌うギターソロも印象的ですね。
「ただ速く弾けばいいかというと決してそうではなくて、そこがアドリブの難しいところですよね。〈スペースを大事にしろ〉とはジャズの演奏についてよく言われますが、僕はビル・フリゼールのような空間を大事にするプレイヤーも大好きなので、トータルな構成を大事にしつつ、行くときは行ったれ!という思い切りの良さを大事にしたいと思っています(笑)」
――“Iriai”は竹内さんならではの幅広い音楽性がひとつの形に結実したような、メロディアスな曲だと思いました。リズムも凝っていますし、歌うような荒川悟志さんのベースソロも素敵です。
「僕の場合、リズムは楽譜に書き込まないこともあるので、ライブをしていく中で意見しつつ、レコーディングでは自然と固まっていった流れで演奏しています。
ソロに関しては、ライブではみんなで回すようにしている曲もあるのですが、アルバムではなるべくコンパクトに収めたかったので、基本的にギターとピアノだけにして、ここぞというときにベースとドラムのソロも入れました。ベースはこの“Iriai”で、ドラムソロは先の“Play is Work”で楽しめます」
――続く“Erupt”は、メタルライクなリフが竹内さんならではの注目曲ですね。そして中間部がフリーなセッションになっているのもインパクトがありました。
「僕はせっかくメタルがルーツのひとつにあるので、ロックの文化であるギターリフを活かして、そこから始まる曲を作りたかったんですよね。
パワーコードっぽいリフを使ったテーマなのですが、ライブでは曲のコード進行を使ってソロを回していた時期もあれば、杉山のドラムソロだった時期もあります。現在はもう中間部は完全にフリーのほうが面白いのでそうしてしまって、再び僕がリフを弾き出したら戻ってきてもらうようにしています。
重たいギターリフから始まるので、ライブで演奏すると驚かれますね(笑)」
――この曲では平手さんがピアノに加えてシンセも使っているのもポイントだと思います。
「先ほど触れたとおり、彼は音楽性が広くて、ライブではいつもピアノとキーボードとシンセ、3台並べて曲によって使い分けてくれています」

多彩な音楽を通過しジャズに辿り着いたギタリストの集大成
――“886”はバンド時代に作った曲だそうですね。
「もう10年ぐらい前、22、23歳の頃に作った曲です。実は、曲名には公にできない由来があるのですが(笑)。嫌なことがあっても、時間が経つと良い思い出になるので、それを曲に残そうと考えて書いたんです。
バンドをやっていたことは先ほどお話ししましたが、ゴリゴリのロックバンドをやっていると、ギタリストであることよりもバンドのメンバーとして一心同体であることのほうがどうしても優先されるんですよね。だけど自分はギタリストでありたいという気持ちもあり……そんなふうに迷っていた葛藤の時期に書きました」
――リズムはワルツで、コードの展開の仕方がとてもおしゃれだと思いました。
「サビのコード進行は、ユーミンさんや桑田佳祐さん、宇多田ヒカルさん、羊文学の曲などJ-POPやボカロでもよく使われている定番の456進行なんです。それを、コソっと入れています。
普通だったらメジャーコードで落ち着くようなところで同主短調のマイナーコードに向かわせてちょっぴり切ない感じを出してみたりとか、意識して定番から少し外れるような曲想にしました」
――最後の“Tears of Rainbow”はアルバムの熱気を静めてくれるような、美しいメロディをもったバラードです。
「“Play is Work”のバラード版というか、これもスタンダード的な曲が欲しくて作った曲です。
レコーディングではソロを入れたテイクも録ってみたのですが、結局はいちばんシンプルなテイクを選びました。バラードって結構難しくて、ともするとソロや演奏時間が長くなってしまいがちなので、ライブだったらいいかもしれませんが、レコーディングではできるだけコンパクトにまとめたかったんです」
――これまで全曲について聞いてきましたが、すべてがオリジナルで、竹内さんのキャリアの集大成的なアルバムと考えていいですか?
「はい。ファーストアルバムでは、まさにこれまでの活動の集大成的な意味を込めて、僕がジャズの世界を知ってから作りためてきた曲で構成しました。
これから始まるアルバムリリース記念のライブツアーでもこれらの曲を中心にお届けしようと思っていますので、アルバムとライブの違いをぜひ楽しみにしていてください」
40歳でスタンダード集を――ギタリストとして進化を続けたい
――現在使用しているギターについても教えてください。
「ずっとTokaiのES-335を使っていたのですが、トップがメイプルの合板で、音が硬く重かったので、スプルーストップのセミアコをずっと探していたんですよ。それで、渋谷のギターショップ〈ウォーキン〉がプロデュースしているWestvilleシリーズのVanguardというセミアコを使っています。もとはカート・ローゼンウィンケルが開発に参加していたモデルです。結構重たくて生鳴りはあまりしないのですが、アンプを通すとめちゃくちゃ良い音が鳴るんです。セッティングをとことん詰められるうえに、僕は握力が低くて手も小さいのですが、Westvilleのギターはいくら弾いても疲れないのが気に入っています。ネックの幅は少しありますが、反らないし軽く押さえられてピッチも良い。
現在はこれがメインですが、将来的にはフルアコも使ってみたいですね。とんでもない円安でギターも弦も高騰しているので、我慢していますが(笑)」
――フルアコも弾くとなると、どんどんジャズの王道に近づいていきますね。
「今後オリジナル作品をベースに活動しながら、40歳ぐらいの良いタイミングでスタンダード中心のアルバムを出せたらいいな、と考えているんです。そして、そのときにはやはりフルアコを弾いて録りたいんですよね。
僕は現在32歳で、25歳までロックバンドをやっていて、2017~2018年頃にジャズクラブで初めてライブをやりました。同世代のジャズプレイヤーより遅くこの世界に足を踏み入れて、ロックとはまったく違う文化圏だと感じているけど、そんな自分だからこそできる、届けられる音楽があると思っています。
ギタートリオの作品にもチャレンジしたいですし、やりたいことが沢山ありますが、今しか作れないオリジナルもあると思うので、ギタリストとして進化を続けていきたいと思います」
――そういえば、盟友Qaijffとの対談で、内田旭彦さんが「シーンとかに縛られず、シンプルにカッコいい音楽であればなんでもいいよね」とパワーのある言葉をおっしゃっていましたね。
「内田さんは僕を理解してくれる性格かつイケイケドンドンなタイプで、いろいろな方に繋げてくださったり、内向的で疲弊しがちな僕を奮い立たせてくれるんです。僕は自分が納得できるものが作れたら一人で満足しちゃうタイプで、些細なことを気にしてしまうところもあるし、ネジが外れたイングヴェイのようにぶっ飛べていないんですよね(笑)。学生時代にイングヴェイのぶっ飛んだインタビュー集をシワシワになるくらい読み込んでいたのですが、ああいうマインドは音楽家にとって大事だと思っていて、そういった部分を内田さんに補完していただいているような感じです。
ジャンルの定義についての議論も好きな音楽にたどり着く道標として必要性は理解しつつ、自分自身でそこに拘るつもりはないので、シンプルに〈ギタリスト竹内勝哉〉として僕の音楽を聴いてもらいたいですね。イングヴェイのような俺様マインドも、時には必要かもしれません(笑)」
RELEASE INFORMATION

リリース日:2024年4月23日(火)
品番:FUK001
タワレコ特典:ギターピック(先着)
価格:3,300円(税込)
TRACKLIST
1. Lift Off
2. Interstellar
3. Timeline
4. Maze
5. Play is Work
6. Iriai
7. Erupt
8. 886
9. Tears of Rainbow
■RECORDING MEMBER
Guitar 竹内勝哉
Piano / Syn. 平手裕紀
Bass 荒川悟志
Drums 杉山寛
LIVE INFORMATION
アルバムリリースツアー
2024年5月24日(金)愛知・名古屋 Mr. Kenny’s
2024年5月25日(土)三重・四日市 HOLYHOUSE STUDIOS
2024年5月26日(金)東京・荻窪 velvetsun
PROFILE: 竹内勝哉
愛知県名古屋市出身。15歳でギターを始めロックに傾倒。高校進学と同時に音楽活動を始め、SCHOOL OF LOCK!、Sony Music、auが主催する全国10代のアーティストを対象にしたロックフェス型オーディション〈閃光ライオット2009〉にエントリーし、ファイナリストに選出された。東京ビッグサイトにて演奏、コンピレーションアルバムに参加。音楽専門学校を卒業後、所属バンドにて全国流通盤を複数枚リリース。ラジオ・TV等メディアへの出演、各地での演奏活動を精力的に行うほか、ギタリストとしてQaijff、ベイビーレイズJAPAN等のレコーディングに参加しプレイヤーとしての活動を開始。同時期に以前より興味のあったジャズギタリストのサウンドに惹かれ、ジャズギターを清水行人に師事。自身の変化と共に音楽活動を移行させた。現在はギタリストとして東海地方のジャズクラブを中心に自身のオリジナルカルテットやサイドメンバーとして演奏活動を行うほか、プロサッカークラブ名古屋グランパスのスタジアムBGM、劇伴、バンドサポート等ポップス・ロック系のレコーディング参加や演奏も行っている。2022年には豊田スタジアムにて明治安田生命J1リーグキックオフ前に名古屋フィルハーモニー交響楽団との生演奏を行う等ジャンルに囚われない活動を行っている。
オフィシャルサイト:https://k-takeuchi.net/