日本ジャズ界に新風を吹き込むギタリスト、竹内勝哉。ロックバンドでキャリアをスタートさせ、インプロビゼーションへの興味からイングヴェイ・マルムスティーンを経由してジャズの世界に飛び込んだユニークな経歴を持つジャンルの越境者だ。そんな彼の自由な感性がいかんなく発揮されたファーストアルバム『宵/Yoi』は、ジャズというフォーマット上にありつつも彼の歩みをギュッと凝縮して表現したような、常識に囚われない1枚となった。

「自分はどちらかというと陰りのあるサウンドが好き」という彼の内面を表現したタイトルとジャケットに包まれた楽曲の数々は、スタンダード然とした楽曲からヘヴィメタルからの影響を隠さない奔放なナンバーまで、振り幅の大きな内容でありつつ、雄弁に歌い、時には語る竹内のギターが全編を貫く。そのさまは、ジャズというのはそもそも越境者たちが創りあげてきた音楽なのだと改めて思い知らされるようだ。また、ポップスやロックと同様、日本のジャズもより広く世界に向けて発信されていきそうな予感を膨らませる。

自主制作として作られた本作は、発表以来じわじわと評判が広がり、この4月にはタワーレコード限定で全国的に発売されることになった。リリース記念のライブツアーを直前に控えた彼に、改めてアルバムについて話を聞いた。

竹内勝哉 『宵/Yoi』 FUKULO.(2024)

 

ビバップの速いフレーズが弾けるのはメタルを通過したから

――デビューアルバムが発売された今の心境を教えてください。

「最初は配信だけのつもりで作って、後々CDを自主販売でやっていこうと考えていました。そこで、バンド時代に地元のタワーレコード名古屋パルコ店などにお世話になった縁もあり、扱っていただけたらいいな、と思ってお願いをしたところ、そこからいろいろなことが起こって結果的に全国的に展開できるようになり……自分でもビックリしていますし、本当にうれしいです」

――タワーレコードのCOO高橋聡志さんが作品を気に入ったのだとか。

「そうなんです。名古屋パルコ店店長の塚元(雄太)さんが紹介したところ、ハマってくださったみたいで、直接メッセージを頂いて驚きました」

――今回は、アルバムに収められた曲について伺っていこうと思います。まず、オープニングを飾る“Lift Off”から“Interstellar”への流れについて教えてください。ジャズアルバムとしては珍しい、作り込んだSEから始まるのが特徴ですね。

「“Interstellar”は2019年以前からライブで演奏し続けている曲で、アルバムの最初にもってきたいな、というのは制作を始めたときから考えていました。リフものの曲が好きなので、ベースラインのリフを軸に曲が展開していくように作ったものですね。

ライブでは、メンバーの誰かが即興を始めて、それをイントロにして入っていくことも結構あったので、今回もフリーな感じで録って“Interstellar”につなげようと思いました。ファーストアルバムの1曲目でもありますし、〈これから宇宙空間に発射する、飛んでいくぞ!〉というイメージで、パブリックドメインの音声や宇宙飛行士っぽいSEを重ねています」

――ピアノソロのバッキングでワウを使っているのも印象的です。よりスペース感が増したというか……。

「ピアノとギターは音がぶつかってしまうことが結構あるんですよね。わざとぶつけてその効果をねらうというやり方もあると思うのですが、この曲に関しては、ちょっと違うサウンドも欲しいな、と思ってワウを使いました。

あと、僕の好きなイングヴェイの影響もありますね。イングヴェイもワウを使うので」

――イングヴェイの影響についても聞きたいと思っていました。ワウもそうですし、“Interstellar”だけに限らず、ギターソロの後半で速弾きを効果的に使ってエモーショナルに盛り上がるのもイングヴェイからの影響の延長線上にあるのかな、と思いました。

「僕がギターを始めたときは、BUMP OF CHICKENやRADWIMPSなどのカバーから始めたのですが、確かRADWIMPSの曲に速いフレーズが入っているものがあったんですよね。それで速弾きの研究を始めてイングヴェイにたどり着いたんです。かなりハマって、イングヴェイ・モデルのストラトキャスターを使っていた時期もありました。バンドで閃光ライオットの決勝に出場したときは歯で弾いたり、邦ロックっぽい曲調でめっちゃスウィープ奏法をしたり。空気が読めないやつだったかもしれません(笑)。

ジャズに興味をもつようになってからは、チャーリー・パーカーやクリフォード・ブラウン、ブッカー・リトルなどのレジェンドから、新しいところではアーロン・パークスやウィル・ヴィンソンなど様々なアーティストの演奏をコピーするのですが、そのときに速弾きで培ったテクニックが役立っていますね。ビバップのフレーズも速いですし、それに追いついていけるのはメタルを通過したことが大きいです」