ナイジェリア人の両親のもと、オーストリアのウィーンで生まれ育ち、ラスティやハドソン・モホークの影響を受けて10代前半からビートを作りはじめたというサルート。2015年にリリースされたシングル“Silver Tides”では早熟ながらも巧みなプロデュース・スキルでフューチャー・ベース・サウンドを披露していた。そこからマンチェスターに移り住んで以降は音楽性の進化を加速させていき、2019年に3部構成のミックステープをまとめたアルバム『Condition』をリリースした頃には現在のサウンドの礎を築いている。ハウスを基調にUKガラージやベース・ミュージックのエッセンスを加えた彼の持ち味は、フルサイズのファースト・アルバムとなる『TRUE MAGIC』で見事に結実した。
その制作は2023年初頭、長年の友人であるカルマ・キッドを共同プロデューサーに迎え、かつてマンチェスターで一緒にDJしたりスタジオを共有していた親しい友人たちと田舎に家を借りてスタート。これまでにリミックスを提供してきた縁のあるアーティストを含めて豪華なゲストが揃い、ほとんどの曲でフィーチャーされたヴォーカリストも華を添えている。
「このアルバムは僕の持つ音楽性のすべてを紹介するものにしたかったから、参加アーティストは僕がいちファンとしてずっと聴いてきた人たちばかりだよ。リナは2015年に出会って以来、彼女がスターダムへと駆け上がるのを見てきたから一緒に仕事をすることができたのはとても光栄だし、ディスクロージャーは10代の頃からずっとファンなんだ」。
先行シングル“saving flowers”にはいまや世界のポップ・アイコンへと成長したリナ・サワヤマが参加。同曲においてさらに注目すべきは、日本が誇るフュージョン・バンド、カシオペアの名曲“ASAYAKE”の印象的なギター・フレーズが大胆にサンプリングされていることだ。
「僕は日本のジャズ・フュージョンが大好きなんだ。前回、日本に来たときにカシオペアのLPを買って、家に戻って聴いたらギター・フレーズが最高でね。このサンプリングをフィーチャーすることができて嬉しいよ」。
一方、ディスクロージャーとコラボした“lift off!”はカットアップしたヴォイス・サンプルが初期ダフト・パンクや2000年代初頭にシーンを席巻したフレンチ・ハウスの影響を色濃く感じさせる。
「実はこのアルバムにもっとも大きな影響を与えているのがフレンチ・ハウスなんだ。いまでも当時のレコードをよく聴いているし、DJでもプレイしているんだよ」。
UKのゲスト・アーティストが多いなか、“go!”には日本からなかむらみなみが参加。近年はロスカをはじめとする海外勢からのラヴコールが続く彼女にとっても快挙と言っていいだろう。
「2年くらい前だったかな。彼女がイトアとコラボレーションした“Oh No”という曲を聴いたとき、彼女のヴォーカルの素晴らしさに魅かれて、いつからか自分のアルバムに入れたいと思うようになったんだ。それで、Instagramでメッセージを送ったら快諾してくれて、僕がビートを送って〈好きなことをしてくれ〉って依頼したら、この最高のヴォーカルを入れて送り返してくれたんだけど、驚きと感動で打ちのめされたよ。彼女は素晴らしいアーティストだ。この曲をアルバムに収録できることは本当に最高だね」。
本作のリリースによって、瞬く間に輝かしいキャリアを築き上げていきそうな彼だが、今後のプランについてはこのように語っている。
「とにかくライヴがしたいんだ。DJセットも好きだけど、キーボードとかピアノとかゲスト・ヴォーカルとかを入れたライヴをね。そのためにまずはこのアルバムを多くの人に聴いてもらいたい。ダンス・ミュージックを聴いたことがない人や普段聴かない人にも入門編として聴いてもらえたらと思っているよ」。
サルート
96年生まれ、オーストリアはウィーン出身のクリエイター。10代の頃からスパイラント名義でドラムンベースのトラックを発表し、18歳でマンチェスターへ移住する前後から現名義での活動を開始する。2015年に37アドヴェンチャーズと契約し、『Gold Rush EP』や『My Heart』などの作品をコンスタントにリリース。テクニカラーから発表した2023年のEP『Shield』で高評価を得る。ニンジャ・チューンと契約し、ファースト・アルバム『TRUE MAGIC』(Ninja Tune/BEAT)を7月12日にリリースする。