
自分はこの色でいいの? 葛藤が昇華された多彩な音楽性
──では最新作『色彩を持たないで』についても聞かせてください。まずジャケットに関して、どのような経緯でこのイラストになったんですか?
miho「アルバム全体を聴いて、各々が感じたイメージを全員で共有して方針を決めました」
su「前作までよりもエモーショナルな空気があったので、そこから何かを訴えかけるような人物画をイメージして、このジャケットになりました」
miho「この『色彩を持たないで』というタイトルは、人間が〈何者かになりたい〉って色を求めたり、逆に何にも染まりたくなくて色に抗ったり、葛藤しながら生きていく様から着想を得たんです。ジャケットの花束も、色とりどりの花が色彩を表しているけど、〈自分はこの色でいいんだろうか?〉っていう葛藤の表情を出したかったので、そういう表情を書いてもらいました。
それと、実は“ペーパー・ムーン”のMVとも関連性を持たせているというか、主人公の女の子をモチーフにイラストを描いてもらいました」
──楽曲はいつ頃から作り始めたのでしょうか?
miho「『ロマンと水色の街』を発表してから制作していました、表題曲も1年以上前には作っていましたね」
gouko「今回はmihoさんから送られてくるデモが弾き語りベースだったり、オケだけの状態だったり、これまでよりもシンプルな内容だったんです。それをスタジオの中でアレンジしていく形で制作を進めたので、よりそれぞれのプレイヤー性みたいなものが見える作品になっています」
hiroya「リズムもデモの状態から大きく変えてて、例えば“Zero Gravity Journey”はアレンジの段階でシャッフルビートにしました。そういう意味では前作よりも多彩で、その分挑戦が増えていると思います」
miho「1曲目の“Dance, Dance, Dance”も、これまでにはない踊れる感じだよね。ザ・ストーン・ローゼズとかザ・シャーラタンズとか、いわゆるマッドチェスターを参考にして、そのノリを出そうとしました」
──確かに多彩というか、次曲の“エンドロールが終わっても”は一転して爽やかな曲調です。シングルのジャケットもthe brilliant greenのオマージュで、ガラッと印象が変わりますよね。
miho「あれは好きなバンドの真似をしてみたかっただけで、全然ブリグリ感のある曲じゃないんですけどね(笑)。
“エンドロールが終わっても”は私が一番得意なギターポップなんですけど、今回はバンドの魅力としてよく挙げていただける〈幅の広さ〉を表現したくて、色んなアレンジに挑戦するようにしたんです。本当はこういうポップな歌が一番得意なんですけど」
──中でも挑戦したのはどの楽曲ですか?
miho「“Echo Sound Syndrome”とか“踊る魔物”とかは頑張りましたね。というか、頑張らなきゃ作れないような曲を意図的に増やしました」
su「“Echo Sound Syndrome”のデモが送られてきた時、〈mihoさんからこんな曲が出てくるなんて!〉ってすごいワクワクしたんです」
──“Echo Sound Syndrome”終盤のノイズパートは強烈ですよね。
su「あれはmihoさんがデモの段階で音を提示してくれたんです。ギターをピックでギュンギュン擦って、〈ここにノイズ、入れるんだぞ?〉っていう感じで」
gouko「それと間奏のフィードバックノイズは、エンジニアの岩田(純也)さんに勧められて凶暴な音に仕上げました。僕らのギターからさらに歪みを足して、かなり攻撃的な音になっています」
miho「エンジニアさんのアイデアってすごいよね。音楽用語を使わずに、抽象的な表現で伝えても、それを音楽語に翻訳してくれる」
gouko「今作はそういうやり取りの中から作った曲が多くて、例えば“エンドロールが終わっても”と“ペーパー・ムーン”はアンプを通さずにギターからミキサーに直接刺して録音したんです。コクトー・ツインズとか、80年代の4ADに関わっていたプロデューサーの手法らしいんですけど、それをエンジニアの方に提案していただきました」
hiroya「ドラムもEQを変えたり、曲によってはクラウトロックっぽさを出すためにミュートしてみたりして、色々足しながら作りましたね」
──ただ、それでもバンドとして歌モノの軸は崩さないようにしていますよね。
miho「そうですね。シューゲイズを自称しなくなった理由の一つとして、Moon In Juneは私の歌を中心に聴かせるというか、歌がメインのバンドだという意識があるんです。歌をしっかり聴かせられるようなライブをした時の方がお客さんの評判も良いですし、そのための音作りを今回のアルバムでも目指しています」