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元祖オルタナティヴバンドとしての一面も見せたセットリスト

見事にてっぺんまで場内を埋め尽くしたファンの多くは、“I Want You to Want Me”や“The Flame”といった代表的なヒット曲を持つ彼らのポップサイドに魅了され、ここへ来たはず。大衆に支持され続けてきたアメリカンバンドであることは間違いないのだが、初期のアルバムではむしろコマーシャリズムに背を向けた、クセの強い詞・曲で強烈な個性を発揮していた。この二面性こそが、チープ・トリックならではの妙味とも言える。

ゲイリー・グリッターのビートを拝借した“Elo Kiddies”は、退屈な学校生活に飽き飽きしたキッズを煽り、宗教(テレビ伝道師)をおちょくるティーン賛歌。享楽的な歌詞の“High Roller”は、実在するドラッグディーラーにヒントを得て生まれた曲だ。この2曲に続いて、大量殺人事件の犯人であるリチャード・スペックについて歌った“The Ballad Of TV Violence (I’m Not The Only Boy)”まで演ってしまう。〈表の顔〉ばかりでなく、本来の持ち味であった元祖オルタナティヴな側面まできっちり見せてくれるセットリストなのだ。

チープ・トリックはロイ・ウッド率いるザ・ムーヴの熱烈なファンとしても知られる。この日も“Brontosaurus”のヘヴィなリフから始まるアレンジで“California Man”をカバー。クラブ回りを続けていた時代から変わらぬ、〈永遠のバー・バンド〉的な気質を武道館で再確認させてくれるなんて、粋ではないか。

フェアウェルツアーと言いながらも、11月には会心の新作『All Washed Up』が控えている彼ら。佳曲揃いのアルバムからリードトラックに選ばれた“Twelve Gates”を、本国に先駆けて9月29日の大阪公演と武道館で披露してくれたのはうれしい驚きだった。ミドルテンポで少しサイケデリックなムードをまとった同曲は、聖書に出てくる〈十二の門〉に触れながら、未来への希望を示唆する歌詞が新鮮。ほぼ半世紀のキャリアを持つ大ベテランが、今も新しい試みを見せようとする姿勢につくづく惚れ直した。

もちろん、トムの見せ場もハズさない。12弦ベースの強烈なサウンドが唸りを上げるイントロを経て、トムが歌う“I Know What I Want”に突入。リックのバックコーラスとのコンビネーションは鉄壁で、ロビンとは異なるワイルドなボーカルが危険な色気を振りまいていた。75歳にしてこのかっこよさ、いったいどうなっているのか。

『Heaven Tonight』の人気曲“On Top Of The World”で忘れられないのは、トム復帰後、1988年の武道館公演。一度は辛酸を舐めたバンドが、“The Flame”の全米No. 1ヒットによって文字通りトップに立ってからの来日で、この曲を演ってくれた時の感動が今も胸の中にある。その曲を再び、同じ武道館で聴けるとは。きっと自分と同じような心境で見守っていたファンは多いのではないか。