世界に〈武道館〉を知らしめたバンドがこの秋、聖地へと帰還! ワイルドサイドを駆けるロックンロールの記録――絶頂期のライヴ盤を聴いて、来日に備えよ!!!!

新感覚のロックンロール

 2022年に予定されていたジャパン・ツアーの中止を経て、ファン待望、実に7年ぶりの来日公演が今秋開催されるチープ・トリック。〈フェアウェル・ツアー〉と銘打った本公演に先駆けて、貴重なライヴ音源が来日記念盤としてリリースされることになった。

CHEAP TRICK 『Are You Ready? Live 12/31/1979』 Epic/ソニー(2019)

 〈ライヴ1979〉と邦題が付けられた『Are You Ready? Live 12/31/1979』は、海外では2019年にLP及びデジタル・アルバムとしてリリース済みだが、フィジカル盤が日本で発表されるのは今回が初。CD化は世界初となる。

 イリノイ州ロックフォードで68年からフューズを結成して活動、唯一のアルバム『Fuse』(70年)でプログレッシヴなサウンドを聴かせたリック・ニールセン(当時はキーボード担当、のちにギター)とトム・ピーターソン(ベース)は、同バンド解散後、トッド・ラングレンが在籍していたナッズの元メンバーたちと合流してシック・マン・オブ・ヨーロッパとして活動。その後に結成されたチープ・トリックは、リック、トム、ロビン・ザンダー(ヴォーカル)、バン・E・カルロス(ドラムス)とお馴染みの4人が揃ってから、76年にエピックと契約した。

 そして、エアロスミスを手掛けたジャック・ダグラスのプロデュースでファースト・アルバム『Cheap Trick』(77年)を発表。マニアックなUKロックを聴き漁ってきたリック・ニールセンの奇抜な詞曲が光る、アングラ感とポップ性が絶妙なバランスで同居した新感覚のロックンロールを提示するも、好セールスとは言い難い結果に終わる。

 続くセカンド・アルバム『In Color』(77年)から、プロデューサーがトム・ワーマンにバトンタッチ。彼らのポップな面が強調され、いわゆるパワー・ポップ的なセンスを発揮した佳曲揃いの作品になった。しかし“I Want You To Want Me”にスタジオ・ミュージシャンを起用するなど、オーヴァープロデュース気味で甘口な仕上がりにメンバーは不満タラタラ。97年に彼らのファンだったスティーヴ・アルビニにプロデュースを依頼し、全曲を再録音したほどだ(しかしお蔵入り)。

 代表曲のひとつとなった“Surrender”を収録したサード・アルバム『Heaven Tonight』(78年:全米48位)が出る頃には、ロビンとトムのルックスに注目した売り出し戦略が日本で局地的に当たり、この国ではアイドル的な人気を獲得していた。同年の初来日公演を収録した『Cheap Trick At Budokan』(78年)は日本のみのリリースだったが、アメリカのラジオでオンエアされてから逆輸入された日本盤が売れはじめ、翌79年にアメリカでも正式に発表。アルバムは全米4位、シングル・カットされた“I Want You To Want Me”は全米7位まで上昇、一躍彼らの人気を決定付けた。

 しかし予想外の〈At Budokan〉フィーヴァーによって、すでに完成していた自信作『Dream Police』(79年:全米6位)はリリースを数か月延期することになった。〈ネクスト・ビートルズ〉との呼び声が高まった時期だが、同時に急激な成功によってバンド内に不和が生じはじめる。