チープ・トリックが大阪と東京で来日公演を開催した。今回の公演はフェアウェルツアーの一環で、現時点ではこれがバンドにとって最後の来日ライブになると言われている。

そんなチープ・トリックの最後の来日公演より、10月1日に行われた聖地・日本武道館でのライブの模様を綴った公式レポートが到着した。 *Mikiki編集部


 

冒頭から『At Budokan』の世界を再現

2022年に予定されていたジャパンツアーが延期→中止となり、そこから予想外に待たされて、ようやく実現したチープ・トリックの来日公演。さらに〈フェアウェルツアー〉と告知されたこともあり、10月1日の日本武道館は開場前からファンが集合、異様な熱気に包まれていた。物販エリアには長蛇の列ができ、Tシャツを購入できなかった人も少なくなかったと聞く。

人波をかき分けて入場すると、場内でBGMとして流れていたのはセンセーショナル・アレックス・ハーヴェイ・バンドの“Swampsnake”! リック・ニールセンが愛して止まない70sブリティッシュロックの濃ゆいところが聞こえてきて、ニヤリとさせられた。評論家顔負けのロックマニアが率いるバンドというチープ・トリックならではの側面を思い出し、俄然気持ちが引き締まる。

そして暗転。注目の1曲目は、いきなりフルスロットルの“Hello There”だ。そこから“Come On, Come On”、“Lookout”、“Big Eyes”、そして“Need Your Love”と、『At Budokan』のA面を曲順通りに演ってくれるからたまらない。現在のバンドを引っ張るのは、バンドに加わって10年になる2代目ドラマー、ダックス・ニールセンの一糸乱れぬビート。前任のバン・E・カルロスを見て育ち、チープ・トリック・サウンドを隅々まで知り尽くしたリックの息子が、彼らの命であるリズムの手綱をしっかり握っている。オリジナルバージョンの質感を守りながら、パワーをグッと底上げした感じのプレイに、父リックも身を委ねて余裕の表情でリズムを刻む。独特なグルーヴを持つ“Lookout”や、長尺曲“Need Your Love”での緩急をつけた叩きっぷりに、ダックス抜きのチープ・トリックなどもはやあり得ない……と、しみじみ実感させられた。

そして同じく『At Budokan』から“Clock Strikes Ten”と“Ain’t That A Shame”が続き、展開の速さに驚かされる。ロビン・ザンダーの声は序盤から絶好調、トム・ピーターソンの12弦ベースも、聴き慣れた豪快な鳴りにまったく変わりはない。最高齢のリック・ニールセンは御年76歳、ステージ上を歩く足取りこそさすがに重くなったものの、出音の切れ味は往時のままなのがうれしい。

近年のツアーに同行していたギタリストでロビンの息子、ロビン・テイラー・ザンダーは今回欠席。サポートキーボーディストも入れず、原点である4ピースの演奏に集中することにしたのは、『At Budokan』の世界をじっくり見せたいという狙いがあったのかもしれない……と、ふと思った。