幼少期に、その多幸感溢れるサウンドと、それとは裏腹な切なく物悲しい歌詞の組み合わせに惹かれて以来、ずっと小西康陽という人の動向(あるいは氏がどう老いていくのか)が気になって追いかけている。渋谷という街を中心に発信された音楽は、まるで爆発するかのように東京に広がり、日本に広がり、世界に広がり、そして弾けきってピチカートは解散した。その10年後、ピチカートはファイヴからONEになった。ONEになったピチカートにはかつてのような多幸感はなく、どこか物悲しい歌詞と美しいメロディーだけが残った。あれから大人になった後も、小西康陽という人がこれからどのように老いるのか、相変わらず気になっている。
本作は、オールディーズ復刻レーベルの〈オールデイズ・レコード〉から5か月連続でリリースされる、小西選曲・監修のコンピレーション・アルバムとブックレットからなる〈レディメイド未来の音楽シリーズ CDブック篇〉の第1弾。第1弾のタイトルは『夜遊びに疲れてしまった』だ。
コンピレーション・アルバムの中身は、2019年9月から12か月連続でリリースされた、小西によるオールタイムDJクラシックを7インチ・アナログ化した〈レディメイド未来の音楽シリーズ 7インチ編〉の全音源26曲をまとめたもの。〈DJとしてのミックスCDはリリースしない〉と公言していた小西だが、絶妙に気持ちのいい曲順に並べられ、絶妙に気持ちのいい曲間調整や整音が施され、まるでシームレスに氏のDJを聴いているかのような気分が味わえるのが素晴らしい。これはストリーミング・サーヴィスのプレイリストでは味わえない快感だろう。かつて存在した〈古き良き〉踊るための音楽が、夜遊びに疲れたどころか夜遊びができなくなってしまった昨今でも、あの心地良さを味わうためにとても有効なことがよく分かる選曲だ。
60ページに及ぶブックレットには、小西による収録曲解説(1曲1曲との出会いやエピソードがまた面白い)を始め、大江田信、小梶嗣、新井裕尚によるエッセイ、〈われら小バコDJ〉と題したDJへのアンケート特集などをみっちり掲載。これまた〈古き良き〉写真やヴィジュアルも満載で、小西が音楽面だけでなく誌面においても優れた書き手・編集者であることが再確認できる。
ちなみに、続くシリーズ第2弾のタイトルは『猫も杓子もツイスト』、第3弾のタイトルは『わたくしのサン=ジェルマン=デ=プレ』(第3弾のみ選曲・監修・解説:三浦信)と、どことなく内容が推測できるのはよいとして、気になるのは第4弾・5弾のタイトルだ。
『恋愛に倦きてしまった』(第4弾)、そして『なにもかも飽きてしまった』(第5弾)。
あれだけ聴衆を躍らせてハッピーな気分にさせ、時にはフィクションともノンフィクションともつかない(ちょっぴりアダルトな)恋愛に関する文章を書き、華やかな世界を生きていた(ように少なくとも幼少期の自分には思えた)氏が、今や夜遊びに疲れ、恋愛に倦き、そしていよいよ、なにもかもに飽きてしまったという。老いるとはそういうことなんでしょうか。僕もいずれそうなってしまうのでしょうか。どうしても気になって、これからも貴方の背中と作品を追い続けてしまうことでしょう。