「デビューする前のkojikojiさんの動画を観て、私もアコギの弾き語りを始めたんです。kojikojiさんとは仲良くなって、ギターを教えてもらったり。その後に彼女はブレイクしますが、身近な人が有名になっていく姿を見て、憧れを感じました。そういうなかで、地元・茨城の居酒屋のマスターから言われた〈本当は本気でミュージシャンをめざしたいんじゃない?〉って言葉が後押しになって、次の日には仕事を辞め、上京を決めたんです」。
一念発起した彼女=iiichanman(いーちゃんまん)は、東京に引っ越した直後の2023年1月に“寝返り”を発表し、以降はコンスタントに配信リリースを継続。すでに、シングル11曲とEP『偽物の天使』を発表している。特筆すべきは、Panorama Panama Townの浪越康平、THIS IS JAPANの杉森ジャック、Mellow Youthの伊佐奨といった名だたるバンドマンたちが編曲者として参加している点だ。
「東京に知り合いもいなかったので、音楽関係者が通うと噂のバーやお店に通いまくったんです。いま手伝ってくれている方やライヴのメンバーも、飲みの場で仲良くなった人が多いですね」。
これまで発表した楽曲で転機となったのは2024年6月に配信した“スーパーカー”。浪越がドラムスを思わせるサーフ・ポップに仕上げた同曲は、MVの再生回数が64,000回を超えるなど、多くのリスナーに彼女の存在を知らしめた。
「これは、わりとすぐに出来た曲で、(注目されたのには)わからないもんだなと。東京に来てから、いっそう感じた〈歩いて迎えに来てくれるのって嬉しいな〉という気持ちをサビに詰めました。地元は車社会だったので」。
そんな“スーパーカー”を含む14曲入りのファースト・アルバムが、このたびKOGAからリリースされた『可愛いのろい』だ。杉森が手掛けた2曲――〈オルタナ〉がテーマだという“健忘症の彼”、「銀杏BOYZみたいにうるさくてポップなパンク」の“死んだらどうするの!!”、伊佐がメロウなバラードに仕上げた“バーゼルの恋人”、Yavin作のキュートなピアノ・ポップ“ぐっばいねー”などの既発曲を中心に、アルバムの冒頭を飾った4つ打ちのダンス・ロック“star arrow”など新曲も収録している。
「“star arrow”はライヴで盛り上がる曲をめざして、浪越さんといろんなアーティストのライヴ映像を観たりしながら作りました。曲名のイメージから、ファンタジックな音になって」。
別れをモチーフにしたものが多いiiichanmanの楽曲。歌詞にたびたび出てくる地名や駅名が、それらに瑞々しいリアリティーを付与している。
「私の歌詞は、ほぼノンフィクション。それを曲にすることが復讐だと思っています(笑)。自分語りになりすぎないように注意はしていますけどね……」。
こちらも新曲のシューゲイザー“13日の金曜日”では、ダイナミックで浮遊感に溢れたサウンドのなか、かつての恋人を思い出す様を描いた。とはいえ、ドロドロとした情念を聴き手に押し付けるのではなく、あくまで軽やかでチャーミングなポップソングとして鳴らされている。その風通しの良さこそが、iiichanmanの最大の魅力なのかもしれない。
「歌詞にはするけれど、過去に好きだった人に恨みとかはまったくなくて、〈いい思い出だったな〉で終わる性格なんです。そういう自分がそのまま曲に出ていると思いますね」。
なお、最終曲“絶対希望”はCDのみの収録。息遣いや弦の震えまでを収めた音、逞しく生き抜いていこうとする人の背中を押す言葉にハッとさせられる。
「恋愛系じゃないし、重い内容なんですけど、だからこそCDを買ってくれる、私の音楽を本当に好きな人だけに届けばいいと思えるものなんです。〈自分たちだけが持っている〉と感じてくれるといいなと思い、この曲を収録しました」。
iiichanman
茨城出身、現在は東京を拠点に活動するシンガー・ソングライター。2023年1月に発表した“寝返り”を皮切りに、コンスタントに楽曲配信を行い、2024年6月の“スーパーカー”がYouTubeで6万回以上再生されるなど知名度を高める。2025年2月にファーストEP『偽物の天使』を発表。以降も“戦争をはじめよう”、sadpartyとコラボした楽曲“たぬきみたいな猫”などが話題を集めるなか、このたびファースト・アルバム『可愛いのろい』(KOGA)をリリースしたばかり。
