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コロナ禍とニューヨークの風土が結びつけた短歌 × ジャズ

――短歌を好きになったのはいつ頃ですか?

「2020年頃ですね。その年の3月に尚美を卒業して、9月に渡米予定だったんですけど、コロナで1年間延期になったんです。その時期って仕事もないし、留学もできないから暇で。作曲をしようにも、うまく自分の気持ちが消化できないし……。

そんな時に文章を書くのが表現の方法のひとつとしてあるなと思い始めて。元々詩を書いたり小説を書いたりするのが好きだったんですけど、SNSなどで短歌がけっこう流れてきたんですよね」

――何度目かの短歌ブームが喧伝され始めた頃ですね。

「そうですね。だから、本当に軽い気持ちでいいなと思って。最初に気になった歌人は王道なんですけど、俵万智さんとか穂村弘さんとか。今は吉川宏志さんや大森静佳さんの作品が好きです。自分で詠んでもいましたけど、その時々の気持ちを消化するのにいっぱいいっぱいで、訳も分からずとにかくめちゃめちゃ詠んでいたっていう時期がありましたね」

――その時は、ジャズと短歌がつながるとか、つなげたいとかっていうことは特に意識せずに?

「そうですね。短歌は音楽とは別で、単なる趣味としてやっていたという感じで。でも、ニューヨークに来てから短歌は1日1首くらいは詠んでいて、そこからですね。

夫でジャズミュージシャンの小倉直也さんとはニューヨークの大学で知り合ったんですけど、彼が、私が短歌研究新人賞に送った初めての連作を見て、それを元に曲を作ってきてくれたんです。それも、手書きのアニメーションと一緒にプレゼントしてくれて。きっかけといえばそれがきっかけですね」

――いい話ですね。

「ちょっと恥ずかしいんですけど(笑)。あとは、ペドロ・ジラウド・ジャズ・オーケストラで演奏させてもらったり、今回アルバムのアドバイザーをしてくれているライアン・ケバリーや、サックス奏者のミゲル・ゼノンの演奏を見に行ったりしたんですけど、皆、自分のルーツとジャズを結びつけていて。この街(ニューヨーク)だったらそういうことができるかもしれない、という思いがありました」

 

歌詞やリズム、音で短歌とジャズを融合させたアルバム

――1曲目の“Introduction”は五・七・五・七・七という短歌の音数そのものを拍子にあてはめていますね。面白いリズムだなと思って聴いていたんですが、そういう仕掛けになっていたのかとライナーを読んで知って。一粒で二度おいしい(笑)。

「そうだと嬉しいです(笑)。色々なやり方で短歌がジャズと結びついたアルバムだと思います。歌詞に短歌が入っていて、ボーカリストに歌ってもらっている曲もあるけれど、そうじゃなくても、ある短歌を元に曲を書いている場合もあるし。短歌は31字だから31音で曲を作ってみました、ということもある。あとは、ブックレットでそういう情報を補完してもらえればいいかなと。

『Short Songs』というアルバムタイトルは、〈短歌〉を英語に直訳したものなんです。9曲目の“Thirty-One Syllables”(31音)というタイトルも、短歌の音数をそのまま示しています」

――短歌を歌っているボーカリストのミー・タム・フインがベトナム系アメリカ人の女性だと知って、驚きました。日本語の発音がとてもナチュラルなので。

「日本人じゃないけど、日本語が歌える人を探したんです。短歌を歌うにしても、日本語の歌詞から一歩距離を置いてやってくれる人がいいなと思って。というのも、情感をあまり乗せないで欲しかったんですよね。

メンバーは、技術が高いというだけでなく、その人自身の音を持っている人にお願いしました。ビッグバンドよりは人数が少ない編成なので、誰が吹いているのかが聞こえてくる音にしたかったんです。ミックス/マスタリングは、グラミー賞を4度受賞されているデイヴ・ダーリントンさんに担当していただいています」

――「そもそも短歌とは?」みたいなことはニューヨークで外国人に説明したりもするんですか?

「しますけど、外国では短歌より俳句のほうがずっと有名なんですよね。なので、〈短歌の方が俳句よりずっと歴史が古いんです。短歌は1000年以上の歴史があるもので、俳句は、時代を経て、短歌から派生して生まれたものなんです〉などと言うと、割と皆さん納得もしてくれますね。

あとは短歌との融合という以前に、まずアルバムとしていいものにしたい、ラージアンサンブルとして完成度の高い音楽をつくりたい、という思いがありましたね」