ジャズと短歌の共存/融合を計ったという極めてレアな作品『Short Songs』が届けられた。しかも、ニューヨーク在住の日本人から。編成はラージアンサンブルだ。アルトサックス奏者の及川陽菜(読み:おいかわひな)は、日本の大学を卒業したのち、アメリカの音楽学校の修士課程でジャズを学んだ才人。コロナ禍に短歌に出逢った彼女はこの度、同作で、独創的なアイディアにより短歌をジャズのフォーマットに見事に落とし込んだ。及川の自作の短歌も曲中に織り交ぜられているし、五・七・五・七・七の言葉数を拍数に置き換えたような曲もある。しかも、これが安易な企画モノなどではない。及川の作・編曲家としての才能と実力が大々的に開花した秀逸なジャズ作品なのである。ジャズや短歌のどちらか、あるいはその両方に興味を持つ人に訴求する力をもったアルバムの記念すべき登場だ。ニューヨーク在住の及川に話を訊いた。

渡米後、本格的に学んだビッグバンド/ラージアンサンブル
――アルトサックスを始めたきっかけから教えてください。
「中学で吹奏楽部に所属していたのですが、高校ではクラシック以外の音楽もやってみたいという気持ちが出てきて。ジャズ研のある高校に部活目当てで入って、コンボ編成で演奏をしていました」
――資料によると、ベニー・ゴルソンが好きだったそうですね。
「先輩などから色々な音源を聴かせてもらったんですけど、その中でいちばん最初にジャズってかっこいいなと思ったのが、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの『Moanin’』という有名なアルバムで。特に2曲目のベニー・ゴルソン作の“Are You Real”という曲がすごく良くて、ジャズが好きになりましたね。
ジャズ研では私の3つ上に、ヴァーヴ・レコードからデビューした石川紅奈さんが卒業生でいたり、国立音大に進学した先輩もいたりして。活発な部活でした。あと、のちにプロデビューする平倉初音ちゃんや松原慎之介くんとは、住んでいる場所は違ったんですけど、高校生でジャズをやっているという繋がりで知り合って。彼らが東京に来た時に一緒に遊んだりしていました。ふたりは高校生の時にバークリー(音楽大学)のファイブウィーク(5週間の夏期講習)に行っていて、羨ましかったですね」
――その後しばらくしてから、ニューヨーク市立大学クイーンズ校の修士課程でジャズパフォーマンスを修了されていますね。ここを選ばれたのは?
「高校卒業後は尚美学園大学のポップス&ジャズ専攻に進学をしたんですけど、アメリカにはずっと憧れがありました。それで、20歳の時に成人式の振り袖代を全部旅費に突っ込んで、成人式には行かないでニューヨークに2~3週間滞在したんです。それがきっかけで、やっぱりこの街で勉強がしたいと思って色々調べ始めました。その中でサックス奏者のアントニオ・ハートが教鞭を執っているニューヨーク市立大学クイーンズ校の修士課程を見つけて、彼に習いたかったのでここに進学しました。
それと、尚美時代に〈Seiko Summer Jazz Camp〉に参加していて、アメリカで活躍するミュージシャンの講師陣から直接学ぶ機会があったので、ますますアメリカでジャズの勉強がしたいという思いが強くなりました」
――高校時代はコンボで演奏していたそうですが、今回のアルバムのようなラージアンサンブルに対する興味が湧いてきたのはいつ頃ですか?
「それが結構遅くて。山野(ビッグ・バンド・ジャズ・コンテスト)にも出たことがなかったので。ただ、尚美時代に小曽根真さんの学生選抜ビッグバンドに参加したことがあるんですけど、それがすごく楽しかったんですよね。
あと、ニューヨークの大学の修士課程で、私はパフォーマンス学科だったんですけど、ビッグバンドの曲を1曲完成させる授業を取らなきゃいけなくて。そこで色々なビッグバンドを聴いたり、自分で書いてみたりして。それまではカウント・ベイシーとマリア・シュナイダーくらいしか知らなかったので、アメリカに来てから本格的に興味が湧いたというのもありますね。
私が特に好きだったのは、ケニー・ホイーラーで、今回のアルバムでも彼の“The Sweet Time Suite, Part 1: Opening”(『Music For Large & Small Ensembles』収録)のアレンジを参考にした曲(“Summer Song”)があります。ケニー・ホイーラーのほかにも、ニューヨークで活動しているラージアンサンブルの作曲家からは影響を受けています。レミー・ル・ブーフのように、大きな編成でありながら一人ひとりの表現がちゃんと見えてくる書き方をする人たちの音楽は、今回のアルバムを作るうえでも参考になりました」