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制約の中で創作すること

――確かに、ジャズとして、音楽として、素晴らしいアルバムだと思いました。これで音楽がつまらなかったら、企画倒れになってしまうかもしれない。音楽がいいのは大前提ですよね。ちなみに、短歌のリズムとか抑揚って音楽にしやすいかしづらいかで言えばどっちですか?

「短歌は散文よりはたくさん制約があると思います。制約がある分、短歌から曲を作った後に短歌のここの1文字を変えたいんだけど、変えると響きが全然違ってしまう、どうしよう、ということはありますね。あるいは、メロディは先にできたけど、そこにハマる短歌が全然ないとか。ハマってはいるけど、短歌として良くないという場合もあるし。そういう問題は結構出てくるんです。頑張ってうまくハマる言葉や音を見つけようと頑張りました」

――でも、音楽だって制約はたくさんあるわけですよね?

「そうですね。特にラージアンサンブルだと、しちゃいけないボイシングとか、制約が色々あるので。その中でやっていくという意味ではそんなに変わらないかもしれないです」

――ところで、結社(作品を投稿・添削し合ったり機関紙を作ったりする、歌人のグループ)には入っているんですか?

「ジャズと短歌を両立させようと思った時に、いい音楽といい短歌をつくりたいと思ったんですね。いい音楽の方向性は学んできたからある程度わかるけど、いい短歌というのはこのままだとわからないぞと思って。誰かに習ったこともないし、学生短歌会にいたわけでもないので。それで、〈塔〉という結社に入りました。結社では自作の短歌の締め切りがあるので、それに向けてとにかく詠むのが習慣になっています。機関誌もありがたいことにアメリカまで送ってきてくれるので、紙で色々な人の作品を読めるし、講評をしてもらえることもある。それはすごく良かったですね。

今回、日本盤CDのブックレットには〈塔〉の主宰である歌人の吉川宏志さんに特別寄稿いただいています」

 

ライフワークとして挑む『Short Songs』プロジェクトの未来

――あとは、どうやってジャズファンに短歌を知ってもらうかでしょうか?

「単純にライブの数を増やしていって知ってもらうとか、文化交流に関わる団体と協力して、レクチャーとライブをやるとか、そういうことも必要かなと思っていて。最初は、純粋に音楽の良さで観に来てもらおうというのが大きいですけどね」

プロジェクションマッピングを用いたHina Oikawa Short Songs Bandの初演時のライブ動画

――短歌とジャズの共通点があるとしたら、なんでしょうね?

「短歌自体、ちょっと考えないと意味がわからなかったりするじゃないですか。直感的にわかるものではないというか」

――詩的飛躍がありますからね。

「そうなんです。それに、見てすぐに面白いと感じられる、即効性のある娯楽もあるけど、短歌は色々考えたり調べたりするうちに、じわじわ効いてくる類のものだと思うんです。そういう楽しさを知っている人であれば、ジャズと同じく短歌も面白いと思ってもらえるんじゃないかなと思いますね。

あとは本歌取りとか、昔誰かがやったことを新しく解釈して出すところとか、批評や評論が活発なところも似ていますよね」

――短歌とジャズについて、今後の構想はありますか?

「実はこの『Short Songs』プロジェクトはあと3枚アルバムを出すことを自分の中で決めていて。自分の人生をかけて取り組むことができるなと思ったので、まず、2作目では百人一首をやろうと思っています。100曲も書けないですけど(笑)、邦楽器を入れるとか無理に和のニュアンスを出すことはせず、今回のような作品にしようと思ってます。3作目では近現代の歌人、もしくは今生きている人の短歌を使いたい。で、4作目でもう一回自分の作品に戻って、その時は歌集とアルバムを一緒に発売したいっていうビジョンがあります。もちろん、普通にジャズとしていいものを作るのは大前提なんですけど、短歌についてもチャレンジのしがいがたくさんありますね。

あと、これは作りながら感じていたことなんですけど、ニューヨークという場所にいたからこそ、自分の詠んだ短歌とジャズを結びつけることができたのかもしれません。日本にいたら、短歌には短歌の、ジャズにはジャズの文脈がすぐ隣にあって、もっと構えてしまっていた気がするんです。少し離れた場所にいるからこそ、自分にとって当たり前だった日本語や短歌を、あらためて音楽の素材として見つめ直すことができたんだと思います」

 


RELEASE INFORMATION

及川陽菜 『Short Songs』 Tiny Storage Music(2026)

リリース日:2026年8月9日(日)
品番:TSM-001
フォーマット:CD
価格:3,500円(税込)

TRACKLIST
1. Introduction (comp. by Hina Oikawa)
2. Manhattan (comp. by Hina Oikawa)
3. Broken Meter (comp. by Naoya Ogura)
4. 湯葉の国 (Yuba no Kuni) (Hina Oikawa: Lyrics / comp. by Naoya Ogura)
5. You Are Still Here (comp. by Hina Oikawa)
6. Beyond the Night, Swallowing the Morning (comp. by Hina Oikawa)
7. Summer Song (comp. by Dave Brubeck / Arr. by Hina Oikawa)
8. Short Songs (Comp by Hina Oikawa, Arr by Naoya Ogura)
9. Thirty-One Syllables (comp. by Hina Oikawa)

バンドリーダー・アルトサックス・フルート・作曲・編曲・短歌:及川陽菜
テナーサックス・フルート:Sam Dillon
バリトンサックス・クラリネット・バスクラリネット:Skyler Hagner
トランペット:Summer Camargo
トランペット・フリューゲルホルン・作曲・編曲:Naoya Ogura
トロンボーン:Altin Sencalar
ピアノ:Ben Rosenblum
ベース:Marty Kenney
ドラムス:Alon Benjamini
ボーカル:Mỹ Tâm Huynh

アドバイザー:Ryan Keberle
アシスタントプロデューサー・指揮者:Joseph Herbst
録音:Todd Carder
ミックス・マスタリング:Dave Darlington
写真:平木希奈
デザイナー:伊藤健
ライナーノーツ:村井康司
短歌アドバイザー/特別寄稿:吉川宏志

2025年7月 The Bunker Studio, Brooklyn, NYにて録音

 

LIVE INFORMATION
Hina Oikawa Short Songs “Short Songs” リリースライブ

​2026年8月19日(水)東京・新宿 PIT INN
開場/開演:19:00/19:30
出演:及川陽菜(アルトサックス/短歌)、曽我部泰紀(テナーサックス)、陸悠(バリトンサックス)、大泊久栄(トランペット)、小倉直也(トランペット)、治田七海(トロンボーン)、David Berkman(ピアノ)、Evan Gregor(ベース)、Gene Jackson(ドラムス)、寝占友梨絵(ボーカル)、伊藤健(ビジュアル)
料金:4,950円(税込/1ドリンク付)

Hina Oikawa Short Songs “Short Songs” リリースライブ
2026年8月28日(金)兵庫・神戸 100BANホール
開場/開演:19:00/19:30
出演:及川陽菜(アルトサックス/短歌)、高橋知道(テナーサックス)、古山晶子(バリトンサックス)、広瀬未来(トランペット)、小倉直也(トランペット)、礒野展輝(トロンボーン)、李翔太(ピアノ)、坂井美保(ベース)、坪田英徳(ドラムス)、平野翔子(ボーカル)、伊藤健(ビジュアル)
予約/学生:4,500円/2,500円(いずれも税込/当日+500円)

2026年8月7日(金)埼玉・朝霞 停車場
出演:小沼奏絵トリオ

2026年8月9日(日)東京・南青山 BLUE NOTE TOKYO
出演:SUMMER JAZZ CAMP ALL STARS

2026年8月10 日(月)神奈川・横浜 関内 Apple
出演:David Bryant Trio

2026年8月11日(火)東京・江古田 そるとぴーなつ
出演:及川陽菜(アルトサックス)、平倉初音(ピアノ)

2026年8月12日(水)東京・御茶ノ水 NARU
出演:The Skillman

2026年8月13日(木)東京・渋谷 BODY & SOUL
出演:小倉直也ジャズオーケストラ

2026年8月14日(金)東京・小岩 COCHI
出演:及川陽菜(アルトサックス)、石井ひなた(ピアノ)

2026年8月16日(日)東京・有楽町 I’M A SHOW
出演:Seiko Summer Jazz Camp All Stars

2026年8月17日(月)東京・下北沢 No Room For Squares
出演:Hina Oikawa NY Quartet

2026年8月18日(火)東京・六本木 Alfie
出演:Hina Oikawa NY Quintet

 


PROFILE: 及川陽菜
米ニューヨークを拠点に活動するサックス奏者、作編曲家、バンドリーダー、歌人。2018年、若手アーティストの登竜門〈Seiko Summer Jazz Camp〉で優秀賞を受賞し、2021年に渡米。現在まで、自身のアンサンブルを率いるほか、ジャズ・アット・リンカーン・センター主催のプログラムへの出演や、The Jazz Gallery、Drom、Smalls、Dizzy’s、Ornithologyといった主要なジャズクラブでの演奏を通じ、ニューヨークの活気あるジャズシーンにおいて独自の地位を確立している。2025年2月には自身のグループ〈Hina Oikawa Short Songs Band〉を率い、Culture Lab LICにてプロジェクト『Short Songs』を発表。日本の詩的伝統とモダンジャズの表現を統合した革新的なプログラムを披露し、高い評価を得る。2026年には同プロジェクトの芸術性が認められ、クイーンズ・アーツ・ファンド(QAF)の助成対象に選出された。ニューヨーク市立大学クイーンズ校(CUNY Queens College)を極めて優れた成績で卒業し、最優秀編曲家に贈られる〈マービン・ハムリッシュ賞(Marvin Hamlisch Award)〉を受賞。現在は日米を跨いで、異なる芸術分野や文化的アイデンティティの架け橋となる活動に献身している。また、ダダリオ・ウッドウィンズ(D’Addario Woodwinds)の公式エンドーシングアーティストを務める。