撒いた種は、大観衆の熱狂や歓声を養分に育ち、いま色鮮やかな実を結んだ――熟した個性と瑞々しさを放つ挑戦心が濃密に詰まった新作『果実』をご賞味あれ!!

掻き立てられる生存本能

 種は眠り、水に目覚め、果実となって響き始める――13枚目のアルバムに向けて、ポルノグラフィティはこのキャッチコピーの下、〈種水果実〉プロジェクトを始動させた。2026年2月にアルバム収録曲を収めた配信EP『種』を発表し、同月から『種』の収録曲や未発表の新曲を軸とした全国ツアー〈20thライヴサーキット“水”〉を開催。そのツアーを経て、このたび完成したアルバム『果実』を9月にリリースする、という3段階の展開だ。

ポルノグラフィティ 『果実』 SME(2026)

 ライヴの手応えを制作に還元するこのやり方は、「聴いてくれる人がいるから制作意欲が湧く」と語ってきた彼ららしい試みと言えるだろう。なお、アルバムの同日にはライヴ映像作品「20thライヴサーキット“水” Live at SGC HALL ARIAKE 2026」もリリースされ、そちらは『果実』の完全生産限定盤にも封入。〈種水果実〉の物語を、パッケージでも体感できる仕様だ。

 昨年12月のプロジェクト発表時に、『果実』は〈これまでとこれからが凝縮された、ベストアルバムのような作品になる〉と予告されていた。いざ蓋を開けてみれば、その言葉に違わぬ作品になっている。“THE REVO”“ヴィヴァーチェ”“言伝 ―ことづて―”“はみだし御免”という既発のシングルも強力だが、新曲群もそれに匹敵する強度を持つ。

 一曲一曲がここまで濃密なのは、岡野昭仁と新藤晴一が持ち味を発揮しているからだろう。たとえクレジットを伏せられても、どちらが書いた曲かを判別できるほど、両者の個性が際立っている。バンドを長くやってきて、ポルノグラフィティにしかできないことは何かを心得ている2人が、それでもなお持ち味を磨き直し、最大出力を更新している。いわば、自分という人間の最大値を叩き出す戦い。その好戦的な姿勢こそが、『果実』を瑞々しくも強靭な作品にしている。

 〈20thライヴサーキット“水”〉のライヴでも、客席へ熱量の高い歌声を届けた岡野。その姿と地続きにあるのが、彼が単独で詞曲を手掛けた“Plastic viper”と“土竜”だ。歌詞から伝わってくるのは、熱く泥臭いイメージ。感情や生理感覚をそのまま叩き付ける言葉選びは、〈表現とは結局、自分の生き様そのものでしかない〉という潔さを感じさせる。

 そんな岡野のパッションに呼ばれるように、その2曲は骨太なロック・サウンドに貫かれている。打ち付けるようなドラムで幕を開ける“Plastic viper”は、〈パンを焼くトースター〉というフレーズから始まるも、そうした生活の描写は一瞬で終わり、〈ジリジリと〉という擬音を起点に精神世界へと接続する。さらに途中にはデスヴォイスが挿し込まれ、アウトロではツービートが刻まれる。最後まで熱量を落とすことなく突っ走るロックだ。

 そして“土竜”は、派手なブラスとギターがせめぎ合う痛快なナンバー。トランペットのフラッターやリップトリルが耳を引くが、それと同等にギターも激しく鳴っている。歌詞には煮えたぎるような感情が迸り、なかでも〈泥を搔き分けて空を望む まなこを開いて今こそ竜となれ〉というフレーズは強烈な余韻を残す。以前、岡野は数年前にスペインへ長期滞在したことについて、価値観を変えたかったことや、生存本能が掻き立てられる感覚を得たことを語っていた。その経験による人生観の変化は、今作で聴かせる果敢なヴォーカル・スタイルにも滲んでいるように思う。

 

ほろ苦さと酸味

 一方、新藤は、数分間の歌の中で鮮やかな物語を紡ぐ。小説の執筆やミュージカルのプロデュースも手掛ける彼だからこそ、舞台設定や背景をいちいち説明しなくてもいい、ポップソングの歌詞ならではのおもしろさを熟知しているのだろう。

 新藤の紡ぐ物語は、ときにシニカルでありながら、芯にはロマンティックな眼差しがある。そんな歌詞が導く世界に応じて、サウンドが多彩な表情を見せているのも魅力だ。オープニング・ナンバー“スペース・ヴァンガード”は、〈人類最後の少年が宇宙船で地球から飛び立つ〉というSF冒険譚。宇宙空間を思わせるシンセとバンド・サウンドが一体となって描き出す昂揚感は、アルバムの幕開けに相応しい。

 “マスク・ド・カメロ”は、悪役レスラーとして生きることになった男の悲哀をマリアッチ調のサウンドに乗せた一曲。また“内緒のしょ”は、死というテーマをコケティッシュで飄々とした語り口に落とし込んでいるのがおもしろい。ウッドベースと打ち込みのビートが存在感を放つサウンドは、ジャジーかつセクシーなムードを漂わせながら、ときにダンス・ミュージックの表情も覗かせる。

 さらに“峠の鬼”では、童話では退治されがちな〈鬼〉を物語の主人公に据えた。曲が進むごとに、物語が皮肉を孕みながら思わぬ方向へと姿を変えていくのが聴きどころで、歪んだギターがその世界を鮮烈に彩っている。

 そのほか、メンバーの実体験に基づくデッサン・シリーズの約23年ぶりの新作“デッサン#4”、ツアーで収録した観客とのコール&レスポンスを入れ込んだインスト・ナンバー“SETOUCHI BOYS (“watered” ver.)”など、多彩な楽曲が並ぶ。終盤の12曲目には、シングル・リリース時から話題を呼んだ“はみだし御免”を配置。ハード・ロック的なサウンドの中で力強く〈我はゆく ただ〉と宣言するこの曲は、自分たちにしか鳴らせない音楽を貫いてきた2人の意志表明そのものだ。

 そして、アルバムは最後の“残響”へと辿り着く。ツアーを終えたあと、ライヴ・サポートでもお馴染みの玉田豊夢(ドラムス)、山口寛雄(ベース)、皆川真人(ピアノ)を迎えて録音された“残響”は、〈種水果実〉を象徴する一曲だ。飛行機の窓から街の灯りを眺め、過ぎ去った日々への未練を静かに整理していく――そんな男の心情を歌ったラヴ・バラードは、聴き手の中に静かな余熱を残す。噛み締めるたびにほろ苦さと酸味が広がる果実のように、このアルバムもまた、味わった人の心に長く住み続けるだろう。

ポルノグラフィティのベスト盤『ポルノグラフィティ全書 ~ALL TIME SINGLES~』(SME Records)

 

『果実』をもぎ取るまでの歩みを振り返る3枚!!

ポルノグラフィティ 『暁』 SME(2022)

時代のムードを意識し、前向きな気持ちを喚起したいとの願いを込めた12作目。トロピカル・ハウス調のトラックが彼ら特有の哀愁にハマった“カメレオン・レンズ”、往時のマニックス~ヴァーブ的な抒情性を湛えた“ナンバー”などが新鮮に響く。

 

ポルノグラフィティ 『解放区』 SME(2024)

25周年イヤーの第1弾リリースとして発表された53枚目のシングル。同年のベスト盤に収められた表題曲は今回の『果実』には未収録だが、エピックなロック・アンセムだ。そのほか広島サミット応援ソング“アビが鳴く”などの5曲を収録。

 

ポルノグラフィティ 『THE REVO』 SME(2025)

56枚目のシングルはTVアニメ〈ヒロアカ〉最終シーズンのOP主題歌になった。ライヴ・メンバーの皆川真人を編曲に迎えたピアノ・バラード“風波”、ホーンが躍動するディスコ・ロック“Shake hands”と『果実』未収録のカップリングも名曲!