音楽の記事が中心のMikikiですが、作家や写真家、映像作家、漫画家、演劇関係者など関わってもらう方は多種多様。そこで、音楽関係以外の表現者のみなさんが好きな音楽は?という興味からスタートさせたのが連載〈My Favorite Songs〉です。毎回、1人の選曲者が設定したテーマと、それにもとづく3曲以上の選曲を記事化。〈あの人がこの音楽を好きだったんだ〉という発見や、音楽とほかのカルチャーのクロスオーバーを楽しんでもらえたら幸いです。第12回は、山猫軒演劇「天空のお屋敷」の上演を控える劇団・盛夏火の超監督である金内健樹さんが登場。 *Mikiki編集部
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選曲によせて
11月後半にラピュタ阿佐ヶ谷の3・4Fに位置する山猫軒というレストランで上演する演劇作品「天空のお屋敷」にちなんで、広義の〈天空〉を感じる5曲を選曲しました。
いずれ〈お屋敷〉をテーマにした選曲もしてみたいですが、それはまた……。
Radiohead “Daydreaming”
(2016年作『A Moon Shaped Pool』収録曲)
なぜ〈天空〉という言葉にここまで惹かれ続けるのか? それは、TVゲームなどに出てくる〈天空の神殿〉のような場所の神秘性がいつまで経っても薄れないからだと思います。「ICO」の霧の城、「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」の空島、もちろん「天空の城ラピュタ」……。空と密接な高所にあって、現在では人々の営みの気配が無く、自分だけがひとりぼっちでそこにいる寂しいような気持ちになる場所。それを〈天空の神殿〉と、私は大雑把にカテゴライズしています。(実際、そのような気持ちになれる楽曲を集めて〈天空神殿〉というプレイリストも作っています)
“Daydreaming”は、この〈天空神殿〉という概念のちょうど中央に位置する、完璧かつ最も平均的な〈天空神殿〉楽曲だと思います。余白の多い悲しげなピアノや控えめな電子音、そして逆再生されたボーカルがあると、そう感じやすいのでしょうか?
あらゆる人がいる場所/いない場所をトム・ヨークがドアを開けながらひとりぼっちで彷徨い歩く姿が印象的なミュージックビデオも素晴らしいです。しかも最後は雪山の穴ぐらで冬眠します。
宇多田ヒカル “虹色バス”
(2008年作『HEART STATION』収録曲)
2011年からの〈人間活動〉による活動休止前のアルバムの実質的なラストを飾るのがこの曲です。〈あぁ、虹色バスがみんなを乗せて遠くへ行ってしまう……〉と、切ないのか悲しいのか、はたまた怖いのか、とんでもない気持ちになります。
黒沢清監督の映画では、ある種の彼岸的な場所へ往くシーンで、窓の外の景色が合成された車なりバスなりに乗る主人公の姿がよく出てくるのですが、あれに近い怖さを感じます。ただ”虹色バス”では、どんよりと曇りがちなルックの黒沢清バスとは違い、窓の外は晴れ渡った天空なわけですが。
A Sunny Day In Glasgow “Close Chorus”
(2009年作『Ashes Grammar』収録曲)
エレクトロシューゲイザーともなると、浮遊感があったり空を想起させるような曲は沢山ある……というか半分くらいがそんな感じに捉えられるジャンルだとは思いますが、その中でも極め付きに天空なのがこの曲だと思います。
あまりにも眩しい虹彩の万華鏡ダンスが天空で繰り広げられています。
この曲を聴いている間は、地面に足を付いているというイメージが全く浮かびません。
ポルノグラフィティ “パレット”
(2002年作『雲をも掴む民』収録曲)
歌詞をよく読むと、失恋ソング/失恋吹っ切れソングとも受け取れるのですが、そんなことよりも〈パレットの上の青色じゃとても 描けそうにない この晴れた空を ただちゃんと見つめていて〉というサビの、大空を目にしてただただ圧倒された時の実際にある感覚がそのままストレートに表現されている部分が本当に好きです。
全然関係ないはずなのに「スーパーマリオ64」でマリオがはね帽子で一面の大空を飛び回る姿がなぜか浮かびます。
bliss3three “sunset express {to eternal bliss}”
(2020年作『C3L3STIAL天の』収録曲)
音楽ジャンルでいうとヴェイパーウェイヴということになるのでしょうか。アルバムタイトルにある通り、CELESTIAL=天空の、天上の、天のという意味なので、まさに天空アルバムです。
アルバム全編がフュージョンやシティポップ、「けいおん!」、綾波レイなどのサンプリングで構成され、デジタルノイズ加工を施されたメロディが断片的に、しかし切れ目なく続き、まるでインターネット空間に現れた低ビットのクリスタルの流星雨を見ているような陶酔感をもたらします。
私はこのアルバムはマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの『Loveless』と本質的に同じだと思っています。
“sunset express {to eternal bliss}”は終盤のハイライトであり、いよいよC3L3STIAL(=天空)へと至る過程の恍惚のようです。ちなみにサンプリングされているのは、ロジック・システム(松武秀樹)によるYMO”シムーン”のカバーです。
INFORMATION
盛夏火 山猫軒演劇『天空のお屋敷』


■クレジット
出演:金内健樹、倉里晴、掛橋浩美、関彩葉、鈴木啓佑(コンプソンズ)、三葉虫マーチ(劇団「地蔵中毒」)
制作:鈴木啓佑(コンプソンズ)
企画制作・主催:盛夏火
協力:ラピュタ阿佐ヶ谷
■公演スケジュール
2025年11月22日(土)-11月30日(日)
22日(土)19:00
23日(日)15:00/19:00
24日(月・祝)15:00/19:00[撮影あり]
25日(火)休演日
26日(水)休演日
27日(木)15:00/19:00
28日(金)15:00/19:00
29日(土)15:00/19:00
30日(日)15:00
*受付開始・開場30分前
*上演時間:90分前後を予定(開幕前にHP、SNSにて詳細をお知らせいたします)
■会場
旧・山猫軒(ラピュタ阿佐ヶ谷3・4F)
東京都杉並区阿佐谷北2-12-21(JR中央線・総武線 阿佐ヶ谷駅北口徒歩2分)
http://www.laputa-jp.com/
■チケット料金
一般:3,000円
当日:3,500円
■チケット予約
シバイエンジン
https://shibai-engine.net/prism/pc/webform.php?o=yunl2p2t
予約開始:2025年10月18日12:00〜各ステージの開演2時間前
Mail:seikabi.info@gmail.com
劇団Web:http://seikabi.wixsite.com/website
X:@seika_bi
PROFILE: 金内健樹
演劇団:盛夏火・超監督。自宅団地を舞台とした団地演劇シリーズや、劇場以外の特殊会場を舞台とした演劇作品を上演中。ホラー映画音楽家として「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ(短編版)」「〇〇式」などの劇伴を作曲。近年自主映画制作も始め、監督作「ワンダリング・メモリア」がぴあフィルムフェスティバル&うえだ城下町映画祭に入選。
オフィシャルサイト:https://takekikaneuchi.web.fc2.com/



