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騒々しいパフォーマンスで混沌と熱狂を巻き起こしたサウス・ロンドンの秘密兵器が帰ってきた。音楽性の雑多な広がりとパーソナルな深度を増して、疲れ果てた異端児はふたたび咆吼する!

 イギリスのサウス・ロンドンで結成されたファット・ドッグは、2024年にデビュー・アルバム『WOOF.』を発表して以降、UKロック・シーンの中でも特に注目を浴びる存在となった。ポスト・パンク、レイヴ、インダストリアルなどの要素で彩られたこのアルバムは多くのメディアで高く評価され、商業的にも全英チャートTOP 20入りという成功を収めた。アングラ臭漂う騒々しいライヴ・パフォーマンスによって台頭したことを踏まえると、ここまでメインストリームに食い込んできたのは予想外だった。

 『WOOF.』発表後の大規模なツアーでも、ファット・ドッグは混沌に塗れたライヴを繰り広げ、観客はモッシュやダンスで熱狂した。〈グラストンベリー〉など多くの有名フェスに出演し、2024年12月にはリキッドルームでの来日公演を実現させた。その忙しさのなかでも、“Peace Song”“Pray To That”という2つのシングルを発表するなど、創作も欠かさなかった。さらにサックス/キーボード担当のモーガン・ウォレスは、モーガン・ノイズという自身のバンドでの作品をコンスタントに発表した。

  この時期のファット・ドッグには、バンドの編成でも大きな変化があった。『WOOF.』発表時はフロントマンのジョー・ラヴ(ヴォーカル/ギター)、クリス・ヒューズ(キーボード)、モーガン・ウォレス、ベン・ハリス(ベース)、ジョニー・ハッチ(ドラムス)の5人組だったが、2024〜25年にかけてジョニーとベンが脱退。現在はジョー、クリス、モーガンの3名にエリス・ディクソン(ドラムス)、マイケル・ダンロップ(ベース)、ディロン・ハリスン(パーカッション)、ジェッド・ベヴィングトン(ストリングス)を加えた7人編成のバンドになっている。

 そうした道程を経て生まれたセカンド・アルバム『Cancel Me (I’m Tired)』は、ファット・ドッグの魅力を深化させた作品と評することができる。ワイルドかつ性急なビートは聴き手を踊らせる享楽的なグルーヴで溢れ、一度聴いたら耳から離れないキャッチーなメロディーも保たれている。

FAT DOG 『Cancel Me (I’m Tired)』 Domino/BEAT(2026)

 あらゆる音楽を食べ尽くしたような雑食性というファット・ドッグの持ち味も深度を増した。オープニングを飾る“Smile And Wave”ではメタル・ロック的な激しいギター・サウンドが鳴り響き、続く“Go Fuck Urself”はインダストリアルのスパイスを纏ったイタロ・ハウスといった趣だ。こうした楽曲群のなかでもひときわ挑戦的に聴こえるのは“Aliens”である。アルバムを締めくくるこの曲はカントリーやフォークの色合いが濃く、ストリングスを基調とした壮大でたおやかな音像が印象的だ。これらの曲群に触れると、ファット・ドッグなりにアルバムとしての起伏を作り上げようという明確な意図が窺える。狂乱のダンス・パンクで押しきる瞬間もあれば、言葉をしっかり伝えようとする落ちついたテンションも見られる。終始全力投球の勢いで突っ走る初期衝動が目立った『WOOF.』と比べて、本作でのファット・ドッグはサウンドや歌詞に込められた情動をより幅広く表現できている。

 そのような変化は歌詞でも顕著だ。『WOOF.』では、言葉の語感やサウンドとの相性を重視しているように聞こえた。しかし本作にはジョーの語りたいことが鮮明に表れている。依存症、愛、AI、地球外生命体など多くのトピックを通して、ジョーの心情が描かれる。結婚がもたらした変化や新たな人との繋がりといった、より多くの人が親しみを抱きやすいテーマが目立つ。そこには享楽性で満ち満ちていた『WOOF.』とは違い、苦味や不安も時折顔を覗かせる。

 『Cancel Me (I’m Tired)』は、バンドとしても人としても成長したファット・ドッグの生々しい姿が刻まれた作品だ。ネガティヴな情動に苛まれても、ビートに合わせて踊りながら、人生という名の道を進まなきゃいけない。そのような大人の滋味と哀愁が、カオティックなサウンドと歌詞に滲んでいる。

左から、ファット・ドッグの2024年作『WOOF.』(Domino)、モーガン・ノイズのニュー・アルバム『Something built, Something remembered』(Morgan Noise)、エリス・Dの2025年作『Spill』(Crafting Room)