去る8月の〈SUMMER SONIC 2026〉で待望の初来日を果たし、大勢のオーディエンスを前に圧巻のパフォーマンスを披露したアレックス・ウォーレン。ここにきて日本のリスナーの間でも話題を呼んでいるが、“Ordinary”(2025年)が世界各国でNo. 1を記録している彼はすでに本国USやUKでは押しも押されぬトップの存在である。〈サマソニ〉出演後という絶好のタイミングで届いたセカンド・アルバム『WILDCHILD』は、そうしたギャップを多少は埋めるものとなるだろう。
カリフォルニア州カールスバッド出身、2000年生まれの彼は、10歳の頃からYouTube動画を撮影して人気を博し、20歳になる前にTikTokのコレクティヴを創設して動画を投稿するSNSスター/インフルエンサーとして若くして名を売った存在でもあった。ただ、そんな派手な活躍の裏で、9歳の時に父を病で亡くしていた彼は、18歳の時にはアルコール依存症だった母から家を追い出されてホームレス状態になり、友人の車の中などで寝泊まりするなど、厳しい環境で過ごしていたようだ。そうした状況でアレックスはミュージシャンとしての活動を志すようになり、当時からジャスティン・ビーバーとショーン・メンデスにインスパイアされていたという(どちらもYouTubeなどをきっかけに世に出たアーティストである)。2021年6月に自主リリースしたデビュー曲“One More I Love You”は、父親の死について13歳の時に書いていた楽曲。なお、同じ2021年には母親も亡くなっているが、そこで彼は鬱に苦しんだそうだ。それでもコンスタントに発表する楽曲はいずれもSNSで話題となり、それらが彼をメジャー契約へと押し上げた。
そして誕生したのが2025年のシングル“Ordinary”だ。当初TikTokから人気となったこの曲は、彼自身の出演するリアリティ番組などを通じて広く浸透し、その結果として掴み取ったのは全米1位。オーストラリアやカナダなど海外でもチャートを制し、特にUKではエド・シーラン“Bad Habits”がそれまで保持していた記録を上回って、 2020年代の全英チャートで最長期間の首位を維持した曲となっている。同曲を収めた初のフル・アルバム『You’ll Be Alright, Kid』からはジェリー・ロールとコラボした“Bloodline”などもヒットし、アレックスは翌年のグラミーで最優秀新人賞にノミネートされるまでに至った。そうした破格の成功のなかで制作されていたのが今回の2作目『WILDCHILD』ということになるが、その曲作りの根幹にあったのは両親との思い出だった。〈やんちゃな子〉を意味するアルバム・タイトルは亡き父が彼を呼ぶ際の愛称だったという。
「この作品を書いている間、両親のことをよく考えていました。父は自分が亡くなることをわかっていたので、僕に向けて話すビデオを残してくれていたんです。前作が〈僕がどんな人間なのか〉を知ってもらう作品だったとすれば、今作は〈両親がどんな人たちだったのか〉、そして〈現在の僕がどんな人間なのか〉を伝えるアルバムです」。
制作は現在の拠点であるナッシュヴィルとLAで主に行われ、自宅スタジオなどさまざまな場所でじっくりと時間をかけて作り上げられた。先行シングル“FEVER DREAM”が現在の妻とのロマンスを歌うアリーナ仕様のアップビートな曲だったように、アレンジの幅は前作から広がっている。幕開けの“EMERALD EYES”はナイル・ロジャースがギターを弾いた疾走感のあるロック・チューンで、クワイアを迎えた壮大でエモーショナルな“CRY WOLF”なども壮大だ。もちろん重々しい歌声を切々と震わせる“RESCUE”や“FINE PLACE TO DIE”などカントリー〜フォーク・ポップ系の感傷的なミディアム〜スロウという持ち味も健在。アルバム半ばに置かれたノスタルジックなインタールードでは父親の声が息子に語りかけ、アルバムを締め括るタイトル曲でも父のヴォイス・メモが〈楽しんでいるかい、アレックス?〉と問いかける。そのラストの曲を彩るのは、ジョン・メイヤーの奏でる情熱的なギター・ソロだ。
「“WILDCHILD”は父の視点から書いた曲です。これは僕なりに心の区切りをつけ、父から〈誇りに思っている〉という言葉を聞くための方法でした。もし父との最後のお別れがあるとすれば、それがこの曲です。父はジョン・メイヤーの大ファンでもあったので、彼のギター・ソロでアルバムを締め括れたら素晴らしいと思いました」。
アルバムはすでに全米2位/全英1位という前作以上の好成績を記録済み。深い喪失や痛みの体験を親しみやすい音楽として多くの人に届ける本作をぜひ味わってみてほしい。
アレックス・ウォーレン
2000年生まれ、カリフォルニア州カールスバッド出身のシンガー・ソングライター。10歳で動画製作を始め、YouTubeとTikTokを中心に活動する。2021年に楽曲の自主リリースを開始して音楽活動を本格化し、翌年にアトランティックと契約。2025年にファースト・アルバム『You’ll Be Alright, Kid』からの先行曲“Ordinary”が全米1位を獲得する。今年8月に〈サマソニ〉で初来日を果たし、このたびセカンド・アルバム『WILDCHILD』(Atlantic/ワーナー)をリリースしたばかり。
