1986年10月24日に放送がスタートしたテレビ朝日の音楽番組「ミュージックステーション」。タモリによる司会のもと、長年にわたって日本の音楽シーンの今を〈生放送〉で伝え続けてきた稀有な番組だ。今回、その放送開始40周年を記念して、「タモリ学」「1989年のテレビっ子」などテレビに関する数多くの著作やコラムで知られるライター、てれびのスキマに番組の歴史と真価を紐解いてもらった。 *Mikiki編集部
タモリと「Mステ」が打ち立てたギネス世界記録
「久しぶりの歌番組です。しかもテレビ朝日でございますから、どうなることか心配ですけども」
1987年4月3日、「ミュージックステーション」の新司会者に就任した際にタモリは、そう挨拶した。
2026年10月、「ミュージックステーション」が放送40周年を迎えたが、実はタモリは〈2代目〉。番組開始から約半年間は関口宏が担当していた。
この発言からわかるように、タモリがテレビ朝日の歌番組の司会を担当するのは2度目。1度目は1982年の「夢のビッグスタジオ」。しかし、この番組は低視聴率に苦しみ、すぐにプロデューサーの皇達也が更迭されてしまう。これにタモリは「プロデューサーだけが更迭されるのはおかしい」と、自らも〈引責辞任〉をする形で、なんとわずか6回で降板したのだ。それが、皇プロデューサーに再び声をかけられ「Mステ」の司会に就任すると、やがて〈同一司会者による生放送音楽番組の最長放送〉としてギネス世界記録を打ち立てる結果になるのだから、わからないものだ。
〈t.A.T.u.ドタキャン事件〉への本音
その長い歴史の中でもいまだに〈伝説〉として語り継がれているのは、何と言っても〈t.A.T.u.ドタキャン事件〉だろう。タモリ自身も「あれは忘れられないですし、あれを超える出来事はないでしょうね」と番組35周年時に寄せたコメントで振り返っている。
ロシアの女性デュオ、t.A.T.u.がオープニングには登場したものの、いざ歌う段になりドタキャンしたのだ。時間になっても控室から出てこず、周りのスタッフがあわてる中、タモリはむしろ「このまま出てくるな」と内心思っていたという。
「t.A.T.u.が出たくねぇ、と」
CMが明けるとタモリはどこか楽しげに半笑いで事情を説明。THEE MICHELLE GUN ELEPHANTが急遽、もう1曲披露することになった。実は、リハ中にも「もしドタキャンされたら2曲やるよ」と冗談を言い合っていたのだが、それが現実となったのだ。しかも彼らは、残り時間を聞くと、即興でいつものテンポと変え、時間ぴったりに曲を終わらせた。
これには、RIP SLYMEやV6らも大興奮。一方、この騒動でt.A.T.u.の人気は凋落し、その後の東京ドーム公演の客席はガラガラ。プロデューサーのイワン・シャポワロフの話題作りが裏目に出た形となった。タモリはこれを評して「イワンのバカ」と笑って振り返っている。
このハプニングに対し、「むしろありがたい」と語るタモリには、「生放送はそういうハプニングがないとダメ」という信念がある。そして、「私はかねがね、『音楽が創られる現場を、テレビを通じて目撃してもらいたい』という思いでいます。それには生じゃないと無理」(「MANTANWEB」2015年9月13日)と「ミュージックステーション」が生放送にこだわる理由を語るのだ。
向井秀徳らが「Mステ」に出演する理由
2026年7月24日に番組に出演した向井秀徳は、「タモリさんと話したいことがあるんですよね?」と振られ、タモリが出演しているカルト的な映画「ジャズ大名」について話し始めた。
「最後30分ぐらいかけてですね、城の中で大ジャムセッションを行うんですね。もう、むちゃくちゃなことになって、最後の最後にタモリさんがラーメン屋台を引いて、チャルメラを吹いてそのジャムセッションに参加する。そして文明開化が訪れるっていうね。何でもありみたいな狂乱状態。そういう音楽を私、ZAZEN BOYSで目指しているんです」
そんな向井秀徳のように、普段は滅多にテレビの音楽番組に出演しないミュージシャンが、タモリを〈ジャズメン〉としてリスペクトし、〈タモリと会いたいから・話したいから〉という理由で番組に出演することも少なくない。
星野源は自著「蘇える変態」でタモリを〈日本で最もポピュラーなアナーキスト〉と称賛し、今ではほぼなくなった、ゴールデンタイムに、あくまで楽曲中心の生放送を続ける「ミュージックステーション」を〈普通に見えるけど実は攻めている〉と評している。

大御所、レアなミュージシャン、アイドル、芸人、刀剣男士、初音ミク、クレヨンしんちゃん……と、どんな出演者が登場しようとも、タモリは常に〈平熱〉でフラットだ。だからこそ、彼らは楽曲に集中できる。一見、タモリがいなくても番組は成立してしまうように見えるかもしれない。だが、タモリでなければ、もはや「Mステ」は「Mステ」と呼べないだろう。そのフラットの姿勢こそが、番組の精神を体現しているのだ。
2017年2月24日、約20年ぶりに番組に出演した小沢健二は言った。
「音楽の火をずっと灯し続けてたことに感動してます」
その言葉通り、「ミュージックステーション」は、日本のポピュラーミュージックが〈創られる現場〉であり続けているのだ。
TV INFORMATION
ミュージックステーション 40周年SP
2026年10月23日(金)20:00~21:48
MC:タモリ
サブMC:谷胡桃(テレビ朝日アナウンサー)
ゲスト:INI/aiko/adieu/生田斗真/Aぇ! group/KEY TO LIT/GLAY/郷ひろみ/湘南乃風/スガ シカオ/Travis Japan