中村元信が著した書籍「YMOと、その時代。 疾走する先鋭的ポップカルチャーたち」が刊行された。本書は、〈YMOの軌跡を縦糸に、同時代の先鋭的な文化現象を横糸に織り込みながら、芳醇で濃密な文化の土壌があった時代を多角的に描き出した〉一冊だ(帯より)。そこで今回は、本作品を中心に、書籍内に登場する関連アイテムなどを併せて紹介していこう。

中村元信 『YMOと、その時代。 疾走する先鋭的ポップカルチャーたち』 幻冬舎(2026)

〈YMO バイオグラフィー〉〈都市、アート、ファッション、映画〉〈ニューウェイヴ・ポップカルチャーの時代性とコンテクスト〉という3章にわたって、80年代特有のポップカルチャーの本質を分析、検証していく本書。まずは、YMOの誕生から散開に至るまでの軌跡を振り返っていくのだが、メンバーの細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏というメンバー以外の関係者にもフォーカスを当てていく試みが興味深い。YMOを輩出したアルファレコードを立ち上げた村井邦彦&川添象郎、さらには川添の父にまで遡る。川添の両親である川添浩史&梶子夫妻が経営していたイタリアンレストラン〈キャンティ〉は、三島由紀夫や加賀まりこ、かまやつひろし、荒井由実、黒澤明ら錚々たる面々が常連客であり、国際文化交流のサロンとしても存在していた。そのキャンティが、その後のYMO誕生にどのような影響を与えたのか紐解いていく。これまで数多くの〈YMO本〉が発表されているが、ここまで掘り下げているのは珍しいのではないだろうか。なお、キャンティに関する物語は野地秩嘉によるノンフィクション「キャンティ物語」でも描かれているので、こちらもぜひ。

松木直也 『[アルファの伝説] 音楽家 村井邦彦の時代』 河出書房新社(2016)

VARIOUS ARTISTS 『象の音楽 世界に衝撃を与えた川添象郎プロデュース作品集』 ソニー(2023)

川添象郎 『象の記憶 日本のポップ音楽で世界に衝撃を与えたプロデューサー』 DU BOOKS(2022)

野地秩嘉 『キャンティ物語』 幻冬舎(1997)

さらに、ファーストアルバム『YELLOW MAGIC ORCHESTRA』をはじめとする各オリジナル作の紹介やワールドツアーの開催やその反響、ソロ活動などについて綴られていくが、合間にはメンバーや近田春夫、佐久間正英など当時を知る著名人たちの発言も数多く引用されており、より詳細な背景を知ることができるだろう。個人的には、YMOらしいナンセンスさが伝わらず怒号が飛び交うことになった伝説のイベント〈写楽祭〉の様子や、1982年にリリースされた坂本と忌野清志郎によるシングル“い・け・な・いルージュマジック”の考察などを興味深く読むことができた。なかでも、前者のイベントにおける騒動は昨今の〈炎上〉にも通じる発信側と受容側の認識の乖離によって発生してしまったもので、40年近くを経ても変わらない〈ある種の難しさ〉を感じてしまった。

YMO 『YELLOW MAGIC ORCHESTRA』 アルファ(1978)

忌野清志郎 『ベストヒット清志郎』 ユニバーサル(2018)

続く〈都市、アート、ファッション、映画〉の章では、YMOが活動していた時期に登場した音楽以外の〈ニューウェイヴ・ポップカルチャー〉の数々を検証。その発信の中心地となった渋谷は、1964年に開催された東京五輪の再開発から変容していく。シュガー・ベイブがデビュー作『SONGS』をリリースしたときにライブを行なったというヤマハ渋谷店(デビュー前の竹内まりやが観に行っていた)や、数多くの音楽関係者が通っていた青山学院、『BGM』のジャケットをデザインした奥村靫正が在籍していたことでも知られる専門学校、桑沢デザイン研究所、糸井重里が司会を務めたサブカル要素満載の番組「YOU」を放送していたNHK教育テレビなどの名前が登場するなか、80年代の若者ファッションのアイコンとして確たる地位を得た渋谷パルコやその最上階にできた西武劇場、サブカル雑誌「ビックリハウス」を発刊したパルコ出版など、渋谷に存在した重要拠点を有する西武セゾングループの席巻ぶりに多くページが割かれ、〈セゾン文化〉の醸成に果たした大きな役割が紹介される。

シュガー・ベイブ 『SONGS』 ナイアガラ/ワーナー(1975)

YMO 『BGM』 アルファ(1981)