アナーキーなまでに笑いを追求した天才
その波瀾万丈の人生を追いかけたドキュメンタリー
テレビアニメ『おそ松さん』が社会現象を巻き起こすなか、生誕80周年を記念して赤塚不二夫のドキュメンタリーが公開される。その名も『マンガをはみだした男 赤塚不二夫』。監督は、これまで倉地久美夫、大野松雄といった赤塚に負けない天才についてのドキュメンタリーを手掛けてきた冨永昌敬。冨永は生い立ちから時系列に、赤塚の人生を追いかけていく。
第二次世界大戦中に満州に生まれた赤塚。子供の時に見た満州の夕焼けが、赤塚の原風景として何度も本編にインサートされる。真っ赤に染まった大空を、鳥の大群が飛んで行く。そんなこの世の終わりのような風景を映画ではアニメーションで処理していて、まるで赤塚の脳内を覗き見るようだ。本編では2Dアニメを室井オレンジ、3Dアニメをアニマロイドが制作する二段構えでアニメを効果的に使用。赤塚の代表作『レッツラゴン』のキャラクターが赤塚の人生をチャプターごとに“演じる”という趣向で、アニメを補足する形で関係者へのインタヴューやアーカイヴ映像が加えられる。なかでも、漫画関係者にとどまらず、荒木経惟、坂田明、足立正生など、赤塚の交遊関係の広さが伺えるインタヴューの人選も興味深い。
マンガ家としての夢を抱いて上京したトキワ荘時代のエピソードの数々は、まさに青春そのもの。そして、ギャグマンガ家として成功を収めた赤塚はプロダクション・システムを取り入れ、その後、次々と独立していく古谷三敏、北見けんいちなど才能溢れる仲間達と共にギャグを生み出した。そして、“笑いを極める”という情熱に取り憑かれた時、赤塚の人生はさらに波瀾万丈になっていく。放送作家の喰始ほか、証言者の多くが最高傑作として挙げる『レッツラゴン』でギャグマンガを極めてしまった赤塚は、さらにその先に進むため映画を制作し、テレビタレントとしても活動する。文化人や芸能人との交流が増え、アルコールが手放せないパーティーのような日々。この頃、タモリという逸材と出会う。その結果、赤塚はどんどんマンガからはみ出していくが、「(赤塚は)笑わせたいのではなく笑われたかった」という祖父江慎の言葉が印象的だ。
映画から浮かび上がってくるのは、ストイックなまでに笑いを追求した繊細で寂しがりやの男。そんな男が波乱の人生を送るなかで辿り着いたひとつの境地が「これでいいのだ」だった。そして、その思想を音楽にしたような曲がタモリとU-zhaanが共演した主題歌「ラーガ・バガヴァット」だ。この曲をタモリはハナモゲラ語を使って即興で歌い上げたとか。マンガからはみ出し、タモリらと影響を与え合ってきた赤塚。アナーキーなまでに笑いを追い求めたマンガのような人生がここにある。
映画『マンガをはみだした男 赤塚不二夫』
監督:冨永昌敬
企画・プロデュース:坂本雅司
主題歌:タモリ「ラーガ・バガヴァット」
音楽:U-zhaan、蓮沼執太
ナレーション:青葉市子
出演:赤塚不二夫/赤塚りえ子/五十嵐隆夫/石ノ森章太郎/北見けんいち/他
配給:シネグリーオ(2016年 日本 96分)
(C) 2016 マンガをはみだした男 製作委員会
◎4/30(土)よりポレポレ東中野、下北沢トリウッド 他全国ロードショー
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