©Doors Property, LLC. photograph by Paul Ferrara

ドアーズはなぜ特別なのか? 新たなライヴ盤でその魅力を知ろう!

 ロックンロールが単なる〈若者の音楽〉であることを脱ぎ捨て、時代そのものを動かすロックへと変貌を遂げた1967年。新たな美学とカルチャーが確立され、音楽の可能性を信じるさまざまな才能が表舞台へと躍り出た。世界のルールも、ものの見方もオレたちの手で根こそぎ変えられる――そんな無敵の確信に覆われていた時代の昂揚を象徴するバンドのひとつが、ロック・シーンの嚆矢となるLAから出現したドアーズだ。彼らの登場は、ロックという表現がまだ見ぬ領域へと踏み込んでいく瞬間を告げるものでもあった。例えば、異例の大ヒットを記録し、最高傑作と目されるデビュー・アルバム『The Doors』(67年)は、それ以前のロック・アルバムのどれとも似ていない異形の個性を放つ作品であり、聴き手を未知の領域へと連れ去るその衝撃はいまなお少しも色褪せていない。

 

到達したひとつの極点

 その中心にいたのが、ジム・モリソンである。文学的な詩作と強烈なカリスマ性を備えた彼(UCLAのフィルムスクールで映画監督になるための勉強をしていたという経歴も持っている)。ヴォーカリストとしても稀有な存在で、囁くような呟きから地を這う低音、そして脳天を射抜くようなシャウトまで、声の表情を自在に変えながら楽曲に生々しいドラマと危険なセクシャリティーを吹き込んでいった。巧みに歌うことよりも、言葉と声でいったい何を表現するべきか。その一点において彼は圧倒的だったといえる。

 そんなモリソンの異能を受け止め、さらに増幅させたメンバーたちの演奏もまた尋常ではない。我々を普通のロックンロールとは異なる世界へと誘うキーボーディスト、レイ・マンザレクによるオルガンの響き。そこにブルースやフラメンコの色彩を持ち込むロビー・クリーガーのギター、ジャズ由来のしなやかさと緊張感を注ぎ込むジョン・デンズモアのドラムス。ベースレスの編成から生まれる独特の空間において4人の個性が衝突し合い、絡み合うサウンドには不穏な空気が常に渦巻いていた。

 前作から1年を待たずに登場した2作目『Strange Days』(67年)ではデビュー作に匹敵する名曲を揃えながら、その音楽世界をさらに拡張。キャッチーな全米No. 1ヒット“Hello, I Love You”を収録した『Waiting For The Sun』(68年)、ホーン・セクションやストリングスを大胆に導入し、ポップな表現へと踏み込んだ『The Soft Parade』(69年)と、彼らはアルバムごとに異なる顔を見せていく。そしてブルースの深い沼へと回帰した『Morrison Hotel』(70年)を経て、ファンクネスに満ちた“The Changeling”から嵐の夜を思わせる大作“Riders On The Storm”まで凄絶な演奏が並ぶ『L.A. Woman』(71年)へ。ジャズ、クラシック、カントリー、ブルースといった各自のルーツを反映させつつ、決して既存のジャンルには収まらないロック・ミュージックを勢いよくクリエイトし続ける。

 しかし、まるでみずからの音楽が到達したひとつの極点を見届けたかのように、モリソンは71年7月、パリで27年の生涯を閉じる。ランボーやボードレールら、彼が敬愛した詩人たちの足跡が残る街でのあまりにも突然の死。ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリンに続いて届けられたその訃報は、時代の熱気と共に拡張を続けてきた60年代ロックにとって、あまりにも象徴的な喪失となった。既成の価値観に抗い、音楽の可能性を押し広げた若き才能たちが相次いでこの世を去っていく。やがてモリソンもまた、27歳で世を去ったミュージシャンたちを括る〈27クラブ〉の一員として、破滅的なロック・スターの神話に組み込まれていくことになった。

 

剥き出しの妖気と興奮

 だが、伝説というベールを剥ぎ取り、ドアーズの音楽が持つ生々しい熱気とダイレクトに触れることができる機会がここにやってきた。新たなライヴ・アルバム『Unbound And Dangerous』の登場である。本作が焦点を当てるのは、モリソンが亡くなる前年、『Morrison Hotel』のリリースに伴うツアーでのライヴ・パフォーマンス。NYのフェルト・フォーラム、フィラデルフィアのスペクトラム、ピッツバーグのシビック・アリーナ、デトロイトのコボ・アリーナという4会場の公演から厳選された音源を、メンバーのクリーガーとデンズモア、そして長年バンドを支えてきたエンジニア/プロデューサーのブルース・ボトニックが監修。異なる場所や異なる日の演奏を巧みに接合することで、ひとつの巨大な危険なギグに立ち会っているかのようなライヴ体験を味わわせてくれる。

THE DOORS 『Unbound And Dangerous』 Rhino/ワーナー(2026)

 まず強調したいのは、ここに刻まれているドアーズが、演奏の切れ味や即興性、また4人の呼応ぶりなどすべてにおいて、ライヴ・バンドとしての充実を極めていること。テンポを加速させ、リズムをうねらせ、お互いの出方を窺うように緊張を高めながら火花を散らす。モリソンの奔放なヴォーカルとステージ上の存在感に3人も一歩も引かずに応戦し、予測不能なスリルと生々しい肉体性を浮かび上がらせているのだ。

 そんな魅力を端的に伝えるのが“Roadhouse Blues”。シャッフルするリズムに骨太なギターとマンザレクのオルガンが絡み、演奏はひたすら前へと突き進む。モリソンも言葉を叩きつけ、煽るようにバンドのグルーヴをさらに焚きつけていて、ブルースを演奏するというより、さながらその野性を丸ごと解き放つかのよう。これぞまさしくドアーズ。彼らの音楽に潜む妖気と危険な興奮が、剥き出しのまま溢れ出すかのような素晴らしいテイクだ。そして14分半に及ぶ“When The Music’s Over”。怒声を上げ、悶えるように言葉を紡ぎ、なにやら周囲を威嚇するようなモリソンとメンバーたちが繰り広げる息苦しいまでのドラマはとにかく聴き応え満点だ。

 そして終盤に置かれている“Soul Kitchen”と“The End”もまた強烈な余韻を残してくれる。“Soul Kitchen”のみ例外的に、69年7月にハリウッドのアクエリアス劇場における演奏となっているが、これはモリソンが不適切なステージ・パフォーマンスを行ったとして公然猥褻容疑で逮捕されたいわゆる〈マイアミ事件〉を経て、彼らがふたたび公衆の面前に立った公演からピックアップされたもの。世間に対する反発と自分たちの音楽を証明しようとする執念によって演奏は高い緊張感を保ち、解き放たれた者の怒りにも似たエネルギーが渦巻いている。そこから“The End”へと至る流れは、聴く者を深い闇へと誘うまさに呪術的な儀式だ。闇の底から響くモリソンの呟きと呪詛のような雄叫びが途切れず続く恍惚と戦慄の15分間。ただただ眩暈をおぼえるばかりだ。

 アリーナ・クラスの大会場と小規模な会場との音質的な違いを、最新テクノロジーを駆使して緻密に調整・補正しながら違和感なく馴染ませ、ひとつのライヴ・アルバムとして統一感ある世界を再構築したボトニックの巧みなミックスが大きな聴きどころだ。複数の音源をまとめて疑似的なフル・ライヴへと仕立てる手法は、かつての『Absolutely Live』(70年)の試みを現代的にアップデートしたものと捉えることも可能だが、それに加えて、ドアーズならではの異形のサウンドから圧倒的な迫力と生々しい臨場感を引き出し、現代のリスニング環境にも映えるような鮮烈で立体的な響きへと昇華させている点も見逃せない。この刺激的な爆音、この稀に見る生々しさ。往年のリスナーは改めてドアーズのライヴを体感する喜びに浸り、新たな聴き手たちはステージの前列でジム・モリソンの息遣いをモロに浴びつつ、思いっきりメンチを切られているかのような没入感にただただ圧倒されることだろう。なぜドアーズは特別なのか。その答えは歴史の向こう側ではなく、このデンジャラス極まりない音渦の只中にある。 *桑原シロー

 

改めて開くドアーズの危険な扉と、その危険な向こう側にあるもの

THE DOORS 『The Doors』 Elektra/Rhino/ワーナー(1967)

不穏の空気を放ちながら迫る衝撃のファースト・アルバム。全米No. 1ヒットの“Light My Fire”は言わずもがな、デビュー・シングル“Break On Through (To The Other Side)”の衝突ぶりから11分を超える重苦しいラストの“The End”まで圧倒的だ。

 

THE DOORS 『Strange Days』 Elektra/Rhino/ワーナー(1967)

初作から8か月というスパンで届け、さらにラディカルな姿勢を突き詰めた2作目。サイケデリックなヒット“People Are Strange”やブルージーな“Love Me Two Times”などの奇怪な名曲が揃い、ラストに控える11分の“When The Music’s Over”がまたも圧倒的。

 

THE DOORS 『Waiting For The Sun』 Elektra/Rhino/ワーナー(1968)

先行シングル“Hello, I Love You”が全米1位を獲得し、アルバムとしても初めて全米No. 1を記録したポップな3作目。アレンジの振り幅を広げて親しみやすさを増し、バロック調の“Love Street”やメロディアスな“Wintertime Love”など隅々まで佳曲が揃う。

 

THE DOORS 『The Soft Parade』 Elektra/Rhino/ワーナー(1969)

ホーンやストリングス、パーカッション、ベースなどの演奏に外部ミュージシャンも動員し、サウンド面での厚みとさらなる広がりを模索した通算4作目。ジャズやブルースに加えてソウルの色も加えている。キャッチーな突貫チューンの“Touch Me”が全米3位を記録。

 

THE DOORS 『Morrison Hotel』 Elektra/Rhino/ワーナー(1970)

アレンジに手をかけた前作への反動から原点回帰的なアプローチに辿り着き、バンド本来の衝動的な演奏が改めて剥き出しになった5作目。“You Make Me Real”や“Roadhouse Blues”などの人気曲を収め、ブルージーな円熟味とガレージーな荒々しさが共存する。

 

THE DOORS 『L.A. Woman』 Elektra/Rhino/ワーナー(1971)

エンジニアのブルース・ボトニックとバンドで共同プロデュースした6作目にして、ジム・モリソン時代の最終作。ベースやリズム・ギターも加えた編成で主体的にルーツを突き詰め、“Love Her Madly”や“Riders On The Storm”などのワイルドな人気曲が生まれた。

 

THE DOORS 『Live At The Matrix 1967: The Original Masters』 Rhino/ワーナー(2023)

67年10月にサンフランスシコのマトリックスというクラブで行われたパフォーマンスの録音で、2008年に孫コピー状態の音源で世に出た発掘ライヴ盤が、マスターテープの発見を受けてグレードアップしたもの。名声を得る前の野心が計37曲フル収録で確認できる!

 

THE DOORS 『Live In Copenhagen, 1968』 Rhino(2025)

かなり隅々まで掘り返されて公式のアーカイヴ化が進んでいるドアーズのライヴだが、こちらは68年9月17日にデンマークはコペンハーゲンのファルクナー・センターで行われたライヴの模様をフル収録した貴重な音源集。初期曲メインの威勢のいいセットが熱い。

 

THE DOORS 『Live In Bakersfield, August 21, 1970』 Rhino(2023)

こちらも公式のアーカイヴ・シリーズによって作品化されたドアーズのライヴ盤。表題通りカリフォルニアのベーカーズフィールド市民講堂で70年8月21日に行われたライヴがラフな状態で録音されている。キャリアにおける最後期のパフォーマンスとしても重要だ。

 

RAY MANZAREK 『The Whole Thing Started With Rock & Roll Now It’s Out Of Control』 Mercury(1974)

トリオでの奮闘を経てドアーズを解散したマンザレクのソロ2作目がちょうどリイシューされていたのでご紹介。メロやアレンジから何かが幻視できる“The Gambler”やジム・モリソンの詩を引用した“I Wake Up Screaming”など、裏ドアーズ的な聴きどころも多い。

 

ROBBY KRIEGER 『Robby Krieger And The Soul Savages』 Mercury(1974)

前作から4年ぶりとなったロビー・クリーガーの近作は、新たなクァルテットで臨んだインスト作品だ。ジャズ・ファンク、サイケデリック、フュージョン、ファンキー・ロックなど、総じてギターやハモンドが小気味良く、純粋に演奏を楽しむような空気も伝わる好盤!

 

CHUCK D, JOHN DENSMORE 『do+pe = no country for old men』 Org Music(2026)

ジョン・デンズモアの最近作はまさかのチャックDとタッグ・アルバム。ドアーズ+パブリック・エナミー=DOPEということで、デンズモア作のビートに乗せてチャックがマイクを握る。シリアスでコンシャスな内容ながらも聴き心地はイメージ以上にファンキーだ。 *出嶌孝次