ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。bounceが400号を迎えるタイミングに、おかげさまでこの連載も50回目に突入しました。まあ、そんなことは露知らず、部員たちはいつも通りロック談義に夢中なようで……。
【今月のレポート盤】
逗子 優「ユノ先輩、どうしたんですか~? もうすぐ卒業だというのに浮かない顔をしていますね~」
梅屋敷由乃「はい。ドアーズの『London Fog 1966』という作品を買ってきたのですが、何だか中身が違うみたいで……。交換してもらおうかしら!?」
逗子「いま流れているこれですか~? ガレージっぽいブルース・ロック・バンドですかね~」
キャス・アンジン「Hello! あら、ドアーズね。素敵だわ」
梅屋敷「え、では間違いないのですね!? それにしても、キャスさんはよくわかりましたわね」
アンジン「当然よ。私の地元LAが誇るレジェンドだし、それにこんなにもセクシーなヴォーカリストはジム・モリソンだけだもの」
逗子「言われてみれば、この歌声はジム以外の何者でもないですね~。だけど、サウンドは僕らがイメージするドアーズじゃないですよ~」
梅屋敷「これはアルバム・デビュー50周年を記念して蔵出しされたライヴ音源なんですって。結成の翌年、かつ初作『The Doors』の前年に録音されたものなので、言われてみれば、まだあのスタイルが確立されていなくても当然ですわね」
アンジン「タイトルの〈ロンドン・フォグ〉とはサンセット・ストリップにあったライヴハウスのことで、この後、彼らは数メートル先のウイスキー・ア・ゴー・ゴーに拠点を移して有名になっていくのよ。ちなみに、当時のステージはブルースのカヴァーが中心だったらしいわ」
逗子「この盤でもBB・キングやマディ・ウォーターズを取り上げていますね~。さらに、ウィルソン・ピケットやリトル・リチャードらソウル/ロックンロールの有名曲も披露しています~」
梅屋敷「ドアーズは哲学的/文学的な歌詞の評価も高いですが、私たち日本人からすると少し難しい部分もありますよね。それもあって、この初期の音源を聴いていると、良い意味でオーソドックスなロック・バンドみたいで親しみが持てますわ」
アンジン「でも山ほどいた当時のガレージ・バンドとは、やはり一線を画していると思うの。それがもっともわかるのは“Strange Days”かしら!?」
逗子「これって2作目『Strange Days』のタイトル・トラックじゃないですか~! まだ粗削りではあるけど、しっかり曲として完成されていますね~。強烈にサイケだな~」
梅屋敷「陰影のあるオルガンが前面に出ている感じといい、ジムさんの扇情的な歌い回しといい、これこそ私の考えるドアーズの音ですわ!」
アンジン「そうよね。ブルースやソウルのカヴァーに混ざって、“Strange Days”や“The End”など後の代表曲がすでに重要なレパートリーとなっていたことは注目に値するわね」
逗子「おっ、70年の『Morrison Hotel』に収録された“You Make Me Real”も披露していますね~。こっちもアレンジはあまり変わっていないな~」
梅屋敷「そう考えますと、このライヴ音源集はドアーズのルーツが知れるのと共に、彼らのオリジナリティーの萌芽も窺えるという点で、とても貴重で歴史的なドキュメントと言えますわね」
逗子「流石はロッ研の前会長らしいまとめですね~」
梅屋敷「友達の付き添いで何となく入部してしまった私も、気付けば卒業までここにいたわけですからね」
アンジン「あら、それは初耳だわ」
逗子「ユノ先輩が入部した頃のロッ研ってどんな感じだったんですか~?」
梅屋敷「じゃあ、お紅茶でも飲みながら話しましょうか。私が初めて部室に来た時は子安先輩というおもしろい方がいて……」
2012年の連載開始からの部員たちを見守ってきたと思うと、感慨もひとしおです。ところで、もう1人卒業を控える4年生がいたはずですが、彼はいったい!? 【つづく】