痛みや悲しみから目を背けず、切なさを募らせながら歌い続けるのは、あなたのそばにいるため――ベイサイドの歌姫が2年ぶりの帰還!

 「自分のなかでは〈あえていま、このタイトルを〉という気持ちなんです。胸を張って、これが〈BAYSIDE DIVA〉が作ったアルバム、というのを見せられる作品になったんじゃないかと思います」。

詩音 BAYSIDE DIVA BAYSIDE DIVA/Village Again(2015 )

 切ない歌声がトレードマークのR&B系シンガー、詩音が2年ぶりのアルバムを完成させた。タイトルは、デビュー当時から使っている自身を表すキーワードを冠した『BAYSIDE DIVA』。ファースト・トラックもDJ☆GOを迎えた“BAYSIDE DIVA”だ。

 「GOさんはいつも私が他の曲で出せてない部分を引き出してくれるんです。今回も、私が表現しきれない部分を埋めてくれた。この曲のリリックは、ずっと書きたいと思っていたことなんです。あれこれ言われたりして悔しい思いをすることも多くて。人前に出る仕事をしているからしょうがない、言いたい人には言わせておけばいいとは思っています。ただ、私はこういう気持ちだよっていうのは、音楽できちんと伝えたかった。この曲で私の芯の部分をわかってもらえるはず」と、思い入れの強さを話す。

 前作『AFTER THE RAIN』、そして初のベスト盤をリリースしたこの2年の間にも、精力的にライヴ活動を行ってきた詩音。グッと艶っぽさや存在感を増した歌声にもその片鱗が窺える。

 「今作と昔のアルバムを聴き比べてみたんですけど、自分でも歌い方や声の質感が良くなったなって思えるくらい(笑)。2年前と比べると、プロ意識も強くなったんじゃないかな。自分の行動のひとつひとつが、すべて音楽に繋がっていくんだということに気付くきっかけがあったんです。それでライフスタイルを変えたら、自然と〈詩音というアーティスト〉をベースに人生が進んでいく感じになった。あと、この2年は〈歌う〉ということを強く意識していたんです。ステージで歌うことや、自分の歌をより伝えるにはどうしたらいいのかをすごく考えていたので、そういうことが結果的に歌に表れたのかもしれないですね」。

 そのクォリティーをもっとも感じられるのがリード曲“サヨナラ<アイシテタ”。愛を手放す苦しさと共に忘れられない思いを昇華する美しいバラードだ。不等号記号が切なさを煽る。

 「〈別れてしまったけど、本当に愛していたよ〉とも、〈まだ愛してる気持ちが強いんだよ〉ともとれるんですが、それは聴いてくれた人がそれぞれ感じてくれれば」。

 曲を書くと同時に画が浮かんできたと話すPVでは、喪服をイメージさせる漆黒の衣装に身を包み、気持ちを葬るように歌い上げる姿が印象的だ。言葉と音楽と映像、すべてが絡み合って世界観を築く。

 「すごく悲しい曲が書きたかったんです。ファンの方に支持してもらうのは、やっぱり痛みや切なさについての曲が多いので」。

 曲作りはほぼ実体験に基づいているというが、苦しい曲を書くのは苦しくはないのだろうか。

 「苦しいです、本当に辛いです。私自身いろいろ辛い恋愛もしてきて、いつもはその思いが入った〈悲しみの箱〉は蓋を閉じてるんですが、制作期間は曲を作るためにその蓋を開けるんです。開けたくないんですよ、本当は(笑)。だけどこの蓋を開けると、絶対に切ない曲が書けるんです」。

 悲しみの記憶をフラッシュバックさせ、辛い過去に立ち戻ってでも、悲しい曲を書き続けるのには意味がある。

 「痛みって、いまこの瞬間に失恋して痛みを感じてる最中じゃないとしても、誰しもが必ず経験してると思うんです。私の曲を聴いたときに、ふとその痛みを思い出して懐かしんでもらえたらいいなと思います。苦しい、辛い、でも泣けない。そんなときに、私の曲や詩音というアーティストが、その人たちと一緒に寄り添えるパートナーのような存在になってくれたら嬉しいです」。