かつてダーティ・プロジェクターズに在籍し、昨年には初のソロ・アルバム『The Expanding Flower Planet』をリリースしたデラドゥーリアンが、4月20日(水)~22日(金)にかけて東京・京都・大阪の3都市でツアーを行う。才色兼備のマルチ・プレイヤーで、変幻自在のヴォーカルは同業者も魅了。華々しい客演歴を誇るUSインディー・ロックの名ヒロインは、ソロ転向後も神秘的なエクスペリメンタル・ポップで聴く者を虜にしている。

さらに、今回の来日ツアーは豪華な顔ぶれのサポート・アクトにも注目。4月20日(水)の東京公演にはD.A.N.Albino Sound、21日(木)の京都公演にはROTH BART BARONsébuhiroko、22日(金)の大阪公演にはTurntable FilmsOUTATBEROと、各地で実力派アーティストが登場し、ステージに華を添える。そこで今回は、エンジェル・デラドゥーリアンのキャリアを改めて振り返りつつ、記事の後編ではサポート・アクトのうちD.A.N.とsébuhiroko 、Turntable Films の3組から寄せられたコメントを紹介し、才媛の魅力を掘り下げていく。 *Mikiki編集部

 


トップ・アーティストも愛した天使の声、
視線を独り占めしたバンド・メンバー時代

あのデヴィッド・バーンにも絶賛されたカナダのシンガー・ソングライター、ニコラス・ケルゴヴィッチのジャパン・ツアー初日となった昨年4月1日、渋谷のライヴハウス・7th FLOORの客席には、シャムキャッツミツメ、ROTH BART BARONといった東京のインディー・バンドのメンバーたちが揃っていた。しかしニコラス以上に彼らの視線を集めていたのが、ツアーに帯同することになった一人の女性。ダーティ・プロジェクターズの元メンバーで、現在はソロとして活動するデラドゥーリアンことエンジェル・デラドゥーリアンだ。

ヘラテラ・メロスを輩出したマス・ロックのメッカ、カリフォルニア州サクラメントで生まれ育ったエンジェルは、高校を中退するとNYに向かい、20歳の時にダーティ・プロジェクターズのメンバーになっている。彼らの代表作となった2009年作『Bitte Orca』ではもう一人の女性メンバー、アンバー・コフマンと共にジャケットを飾っているが、エンジェルがリード・ヴォーカルを取った美しいフォーク・バラード“Two Doves”こそが、このアルバムを名盤たらしめていたと言ってもいいだろう。

ダーティ・プロジェクターズの2009年作『Bitte Orca』収録曲“Two Doves”(ジャケット右側に写るのがデラドゥーリアン)

 

ダーティ・プロジェクターズとビョークが共演した2009年のライヴ映像

 

『Bitte Orca』と同じ2009年には、ヴァンパイア・ウィークエンドのメンバーだった(2016年に脱退)ロスタム・バトマングリラ・ラ・ライオットウェス・マイルズによるエレポップ・プロジェクト、ディスカヴァリーの『LP』収録曲“I Wanna Be Your Boyfriend”にゲスト・ヴォーカルで参加。〈彼氏になりたい〉というフレーズを女性が歌うこの曲は当時さまざまな憶測を呼んだが、ロスタムはその後ゲイであることをカミングアウトしており、彼の背中を押した〈天使の声〉が、他ならぬエンジェルだったのかもしれない。

そんな彼女の歌声に魅了されてしまったのは、インディー・ロックのリスナーだけではない。かねてからダーティ・プロジェクターズのファンを公言していたプレフューズ73ことスコット・ヘレンを筆頭に、フライング・ロータスマトモスキラーズブランドン・フラワーズチャーリーXCX、さらにはあのU2までもが、みずからの作品にエンジェルをコーラスで起用しているのだ。そして驚くなかれ、カインドネスことアダム・ベインブリッジのファースト・アルバム(2012年作『World, You Need A Change Of Mind』)に収録された“That's Alright”にコーラス参加しているアン・クランベリーなる女性も、実はエンジェルの変名だったというのだから、どこかで必ず彼女の歌声を耳にしていると言っても過言ではないはずだ。

デラドゥーリアンが参加したディスカヴァリーの2009年作『EP』収録曲“I Wanna Be Your Boyfriend”

 

デラドゥーリアンが参加したフライング・ロータスの2014年作『You're Dead!』収録曲“Siren Song”

 

ルーツを辿り、エキゾティックな新境地へ
実姉を迎えたソロ・パフォーマンスに注目

2009年には、『Bitte Orca』とほぼ同じメンバーでレコーディングされた5曲入りのEP『Mind Raft』でソロ・デビューも飾っているエンジェル。しかし、そこで展開されていたエキゾティックで呪術的なサウンドには驚いた人も多かったことだろう。それもそのはず、彼女はアルメニア系の血筋で、デラドゥーリアンという名字も、アルメニア語で〈司祭の息子〉を意味しているのだ。もっとも、エンジェル本人はアルメニア系のコミュニティーで育ったわけではないそうだが、自身のルーツを辿っていくうちに中近東の音階や旋律に興味を持ち、楽曲にも採り入れるようになったのだという。 

2011年にはレーベルメイトであるアニマル・コレクティヴエイヴィ・テアがプロデュースしたシングルをリリースし、ボルティモアで行われた彼らのアルバム『Centipede Hz』のレコーディングにも参加。その様子に刺激を受けたというエンジェルはダーティ・プロジェクターズを離れ、エイヴィと共にLAに移住すると、彼のプロジェクトであるスラッシャー・フリックスのメンバーとして活動を共にすることになる。

2009年のEP『Mind Raft』収録曲“You Carry The Deed”

 

エイヴィ・テアズ・スラッシャー・フリックスの2014年作『Enter The Slasher House』収録曲“Strange Colores”

 

その合間を縫って彼女が作り上げていたのが、西海岸のアンダーグラウンド・ヒップホップ・レーベル、アンチコンから初の女性アーティストとしてリリースされたファースト・アルバム『The Expanding Flower Planet』だ。先の来日公演で披露されていた楽曲も数多く含む本作は、アリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティのメンバーであり、 ジュリア・ホルターなどの作品でも知られるケニー・ギルモアが共同プロデュースを担当。スラッシャー・フリックスのドラマーでもある元ポニーテイルジェレミー・ハイマンや、フライング・ロータス作品の常連であるニキ・ランダといったゲストが参加しているものの、フルートやバンジョーを含むほぼすべての楽器をエンジェル本人が演奏し、彼女の内的宇宙を探求した作品となっている。アルバムの制作にあたってエンジェルは、フライング・ロータスの大叔母であり、東洋思想に傾倒していたアリス・コルトレーンや、日本人ヴォーカリストのダモ鈴木が在籍したカンのミニマリズムからの影響を公言しているが、ここではそんな彼女の才能が(ラングフィッシュダニエル・ヒッグスが手掛けたアートワークさながら)毒々しいまでに美しい花を咲かせているのだ。

そんなエンジェルは、『The Expanding Flower Planet』のリリース後初となる、1年ぶりの再来日ツアーを行う。前回のツアーではYankaNoiユミコ嬢から借りたというヴァイオリン・ベースを弾きつつ、ループ・ペダルを駆使したソロ・パフォーマンスを披露していた彼女だが、今回のツアーには実姉であり、フライング・ロータスの『You're Dead!』にも揃って参加していたアーリン・デラドゥーリアンが帯同。姉妹ならではな息の合ったハーモニーを聴かせてくれるに違いない。

そしてもちろん、多くのファンを虜にしてきたその美貌にも注目。天使という名前と、呪いの言葉のような名字を持った彼女の二面性を、ぜひその目に焼きつけてほしい。