ベネズエラへの愛が、聴く人の心を打つ~微笑みのディーバが伝えたい大切なこと

 素敵な、笑顔の持ち主。凛としているのに、柔和で爽やか。そんな彼女と向かい合えば、誰もがその表情に魅了され、ここに素敵な人生を歩んでいる女性がいると思わずにはいられないのではないか。そういえば、彼女のアルバム・カヴァーは笑っている写真が多い。それを伝えると、彼女は「写真だけではなく、いつも笑っています」と笑みとともに答える。

 セシリア・トッドは、ベネズエラを代表するシンガーだ。1951年、首都カラカスの生まれ。子供の頃から自然に歌い始め、クアトロを演奏している。

 「いつも沢山の人が出入りしている家庭でしたね。兄弟も多かったし、音楽が溢れていました。昔はベネズエラの家庭には一家に1台、クアトロがありました。ピアノやギターも練習しましたが、続いたのはクアトロです。歌手になろうと思ったことはなく、いつも歌っていて、歌い続けているうちに歌手になっていました」

CECILIA TODD 緑の小鳥 Beans Records(2016)

 初レコーディングは、アルゼンチンに音楽留学していた1974年。その時吹き込んだ『緑の小鳥』が大ヒットし、彼女は幸先の良いスタートを切った。いや、その瑞々しい歌声に触れると、それは必然であったようにも思えるが。

 「歌唱の技術を学ぶためにアルゼンチンに行きましたが、全くの偶然でしたね。知人がレコーディングしようと言ってくれ、ある日スタジオに行って、その時に思いついたベネズエラの伝統曲を歌ったのがアルバムになったんです」

 その後、母国に戻り、トッドはベネスエラの音楽財産を俯瞰するスタンスとともに、輝きに満ちた歌姫として君臨する。彼女は8月に“スキヤキ”関連 公演出演のために自己バンドとともに来日したが、それを記念するベスト盤『愛する歌国ベネズエラ』はこれまで発表したものの中からトッド自身が選曲した。

 「まず一番大事なのはその曲に情感があることですが、曲と歌詞が密接に関与しあっていることも大事ですね」

CECILIA TODD 愛する歌国ベネズエラ Sukiyaki Meets The World(2016)

 トッドのキャリアを的確に括る同作には多様なリズムや情緒を抱えた曲が並んでおり、ベネズエラの音楽の豊かさや生理的な国の大きさに気付かされること請け合いだ。また、それらを悠々とつなぐ彼女の喉力や懐の深さにも唸らされよう。それは、そよ風を抱えるとも説明したくなる。

 「いつもベネズエラの様々な地方の曲、色々なジャンルの曲を混ぜて聴いていただくことを心掛けています。そして、このアルバムを通じて、ベネズエラのことに興味を持ってもらえたなら本望です」

 微笑みの大歌手、セシリア・トッドの思いはどこまでも真っ直ぐだ。