「いま25歳になって、もう周りの人たちに甘えていられないという気持ちが強くなって。音楽的に大先輩の人たちとやっているので、そこに追いつけるように加速していきたいし、自分の活動も加速していきたい。私はいろんな人をもっと巻き込んで、もっとすごいところに行きたいんです」。

 アレンジャーの中村タイチ(森山直太朗、chay他)と二人三脚でポップなラヴソングを生み出し、同世代を中心に共感を集めるシンガー・ソングライター、神田莉緒香。デビュー当初はやりたい音楽をどう形にすればいいかわからず、立ち止まった時期もあったそうだが、自身のダメな部分をさらけ出した“×”(2015年のミニ・アルバム 『TOKYO/OSAKA』収録)がファンにも受け入れられたことで、それまでの〈元気な神田莉緒香〉像に留まらない自由な表現を獲得。昨年のアルバム『大きくて小さい世界』は初めてデモ段階からアレンジを作り込むなどして、サウンド面でも自身の理想を追求した作品となった。

神田莉緒香 ACCELERATOR ユニバーサルGEAR(2017)

 その手法をさらに推し進めたのがメジャー移籍第1弾の『ACCELERATOR』だ。引き続き自身と中村が共同プロデュースにあたり、前作にも関わった種子田健(ベース)とあらきゆうこ(ドラムス)も全面参加したミニ・アルバム。弾き語りの“ゆりかご”を除き、自身のピアノと中村のギターも加えたバンド・サウンドで仕上げられている。

 「私はずっと弾き語りでやってきたんですけど、実はバンドの音が好きなんです。同じチームの人それぞれが色を出し合って、ひとつのものにすることにずっと憧れていて。だから今回は、やりたかったサウンドにより近づくことができました」。

 なかでも強力なのは、4人の演奏がまさにフルスロットルで躍動する“FULL-DRIVE”。がむしゃらで熱い歌詞も含め、〈加速装置〉を表題に冠した作品全体を象徴するような推進力のあるアップ・ナンバーだ。

 「前のアルバムを作って、その後の赤坂BLITZでのワンマンが終わった後に、〈出し切っちゃったな〉と感じてしまって。でも、まだ終われないと思って、その気持ちをストレートに書いた曲です。〈バンド!〉って感じで(笑)、これまでの自分の曲でいちばん激しい曲だと思います」。

 それと同様にライヴでの熱気が目に浮かぶのが、陰りのあるエモーショナル・チューン“MOONSHOT”。この曲はアニソンの〈熱さ〉と〈クールさ〉が同居する部分に着想を得たのだという。

 「これまではアップならアップ、バラードならバラードって、しっかりと分類できるような曲ばかり書いてきたんです。でもある時、もっといろんな解釈のできる曲があればいいなと思って。だからこの曲はタイトルや歌詞もまっすぐに語るだけじゃなくて、お客さんに考えるスペースを与えられるようにしました」。

 もちろんラヴソングの名手らしい部分も健在で、「大好物(笑)」だという〈友人以上恋人未満〉な関係をテーマにした“希望的観測”は、片思いの切なさがじんわりと沁みるスロウ。室内楽のような趣もある終曲“I'm home”では、別離の物語を前向きな言葉と慈愛に満ちた歌声で紡いでいく。

 「“I'm home”は〈物語の主人公を見守っている人〉の気持ちで歌ってます。失恋や悲しかった思い出が、ちゃんと消化できたらいいねって。それとこの2曲は、リズム隊をアナログテープで録ってるんですよ。特に“I'm home”はそれが素敵に作用して、セピアがかっているんだけど、きちんと色がある感じになって。ぼやけてるけど優しくて、お日様があたってるみたいな……」。

 そのように作品を振り返りつつ、「いまは作品が自分の思ってた形に近くなってきて楽しいです。昔はCDを作るのがけっこう苦行だったんですけど(笑)」と笑う彼女。その創作意欲を持ってすれば、開放感に溢れた歌声はさらに多くの人を巻き込み、どこまでも加速していくことだろう。

 


神田莉緒香
92年生まれ、千葉出身のシンガー・ソングライター。4歳でピアノを始め、高校2年生の時に出場したオーディションでグランプリを獲得して、シンガー・ソングライターとしての活動を開始する。2010年から〈PlayYou.House〉に参加し、その後身となるGoose houseにも2013年まで在籍。ソロでは2012年に楽曲集『I like it.』を自主制作し、2013年のファースト・シングル“boyfriend?”以降、2014年のファースト・フル・アルバム『Wonderful World』、2016年のセカンド・アルバム『大きくて小さい世界』など、コンスタントに作品を重ねていく。今年に入ってメジャー移籍を発表。その第1弾となるミニ・アルバム『ACCELERATOR』(ユニバーサルGEAR)を6月7日にリリースする。