瞬時に売り切れた東京・原宿アストロホールでの初来日公演を2003年4月に行い、フロントマンのヨーナス・ビエーレみずから手掛けたシュールなアニメーションを伴った、マジカルな迷路のごときギター・ロックで我々を魅了してから、彼らが日本を訪れるのは何度目になるのだろうか? プロモーションも含めれば2ケタに達するんじゃないかと思うが、今年リリースの最新作『Visuals』を携えたミューのジャパン・ツアーが、そろそろ始まろうとしている。

幼馴染みのメンバーによって結成されたこのデンマーク随一のインディー・バンドが、自主制作アルバムでデビューしたのはちょうど20年前。通算3枚目の『Frengers』(2003年)で海外進出して以来、無二の非日常的世界に聴き手を誘い、独自のペースで厚い支持層を築き上げ、独自の美意識を貫きながら作品ごとにページを繰ってきた。

しかし『Visuals』では、昨今の世界情勢というリアリティー溢れる題材と向き合った彼ら。自分たちのエモーショナルなリアクションを、幼少期に聴き親しんだ80年代の音楽にインスパイアされたポップ感覚で、今までになく軽やかな曲に落とし込み、さらに新しい表現を開拓している。そんなミューのキャリアを、ライヴにまつわる話題に交えつつ、ヨーナスとヨハン・ウォーラート(ベース)に振り返ってもらった。

 

感性が変化していないから、過去の曲も古びない

――ミューのライヴのセットはいつもどんなふうに構成しているんですか?

ヨーナス・ビエーレ「やっぱり、最新アルバムの曲をどうするのか検討することから始めるよ。正直な気持ちを言えば、新しい曲を全部プレイしたい(笑)。でもそんなことをしたらオーディエンスが引いちゃうからね。長年聴き親しんだ曲をナマで体験する楽しさは、僕ら自身もよく知ってる。以前、一度だけ〈ロスキルド・フェスティバル〉で、当時まだリリースされていなかったアルバムの曲ばかりプレイしたんだけど、みんな〈ぽかーん〉としていたよ(笑)」

ヨハン・ウォーラート「どのバンドも一度はやるんだ。で、もう二度とやっちゃいけないと学ぶのさ(笑)。

僕らの場合、なんだかんだ言って『Frengers』時代の曲を今もかなりプレイしている。“Comforting Sounds”や“Am I Wry? No”や“156”とか、初来日のときにもプレイしたよね。我ながら未だ古びていないと思うし、ぶっちゃけ『Visuals』に入っていたとしてもおかしくないんじゃないかな」

ヨーナス「つまり、〈僕らは全然成長してない〉って言いたいんだね(笑)」

ヨハン「その通り! マジな話、古い曲と新しい曲をミックスするのは難しくない。アルバム単位で比較すると、それぞれ明らかに趣向が違うけど、ずっと変わらない独自の感性に貫かれていて、どの曲も聴いてすぐにミューだと分かる。20年以上前にバンドを始めた時、ヨーナスが最初に聴かせてくれたデモからして、すでにヘンテコだったからね」

ヨーナス「ひどいなあ!」

2003年作『Frengers』収録曲“Am I Wry? No”のライヴ映像

――ちなみにライヴのフィナーレも、今に至るまでほぼ一貫して“Comforting Sounds”で飾っていますよね。

ヨーナス「たまに“Louise Louisa”とかで締め括ることもあるし、“Comforting Sounds”のあとにアップテンポの曲をプレイしたこともあるけど、どうもしっくりこない。空高くそびえ立つあの曲に圧倒されるんだよ。それに“Comforting Sounds”を最後にプレイしないと、怒る人が結構いるんだ。〈金を返せ〉って言われたりもする(笑)」

2003年作『Frengers』収録曲“Comforting Sounds”

ヨハン「あの曲こそ僕らにとって定番中の定番だよ。ミューにはそもそも、決定的なヒット・シングルがない。そんななかで多くの人に愛されている曲だし、僕自身も大好きだし、毎晩プレイすることに不満はないよ」

ヨーナス「僕らはワン・ヒット・ワンダー(=一発屋)どころか、ノー・ヒット・ワンダーなのさ(笑)」