(左から)ササキハヤト(ヴォーカル/ギター)、ミヤシタヨウジ(ベース)、コウタロウ(ドラムス)、永田涼司(ギター/コーラス)、
 

メジャー・デビューが決まってなお、地元・札幌に留まることを選び、ニュー・アルバム『ターミナル』を完成させた4人組、The Floor(ザ・フロア)。彼らに拠点を東京へ移さない理由を尋ねると、考え込むことなく〈のびのびとやれるから〉という答えが返ってきた。確かに、ポスト・ロックやインディー・ロックからの影響を感じる〈痒いところに手が届く〉粋な展開と、底抜けにキャッチーなポップ・センスを併せ持つダンサブルなロック・サウンドが、緻密でありながらナチュラルで開放的なエネルギーに満ちているのは、北海道という雄大な土地からの影響なのかもしれない。

2012年に結成されたThe Floorは、これまでに2枚のミニ・アルバムと1枚のEPを発表。2月7日(水)にリリースを控えるメジャー進出作『ターミナル』は初のフル・アルバムとなる。同作は、ポップであることを前提に国内/国外問わず、インディーもヒットチャート系も分け隔てることなく採り入れた現代らしい感性で、The Floor流のポップ・ミュージックを創造してきた彼らの魅力を、余すことなく堪能できる決定盤だ。今回はそのサウンドに辿り着いたプロセスに迫るべく、メンバー全員に取材を敢行。作品さながらのオープンなマインドで屈託なく語ってくれる姿が印象的だった。

The Floor ターミナル Victor Entertainment(2017)

 

東京とかで起こっていることを気にせず、好きなものだけを採り入れて。のびのびとやれていいですよ

――京都や大阪など、その土地や街によって独自の音楽シーンがありますが、札幌にも独特の雰囲気がありますよね。

ササキハヤト(ヴォーカル/ギター)「確かに〈札幌っぽさ〉というのはあるかもしれないです。ちょっと前だとポスト・ロックみたいなのが流行ったり、THE BOYS&GIRLSとか最終少女ひかさのような青春パンクっぽいバンドが熱かったりして」

永田涼司(ギター/コーラス)「その時々でアツいジャンルがあったりするんですけど、それは時代とか関係なくみんなただやりたいことをやってるだけなんですよ。例えば、BPMの速い4つ打ちのロック・バンドがフェスを席巻したときも、そういうバンドは札幌にはほとんどいなかったですし。流行りに対してアンチなのか、ただ遅いだけなのか、自然なことなのかと言えば、たぶんごく自然にそうなってるんだと思います」

ミヤシタヨウジ(ベース/コーラス)「海を隔てて離れているからか、東京とかで起こっていることを気にせず、好きなものだけを採り入れてやる。そういう土壌なんだと思います。スタジオも広くてレンタル料も安いし、のびのびとやれていいですよ」

THE BOYS&GIRLSの2017年作『拝啓、エンドレス様』収録曲“札幌”
 

――今回の『ターミナル』の収録曲は、これまでよりさらに、音楽的な自由度が高くなっていると思いました。これは、東京で(所属レーベルの)ビクターのサポートを受けて作ったことでやりたいことを形にするためのツールが増えたのか、もしくは地元でのびのびとやれる、その感覚がより極まってきたのか、どちらなのか考えていたんですが。

ササキ「完全に後者です。レコーディングも札幌でやったんですよ。基本的にいつも永田が曲を作ってきて、みんなでスタジオに入ってアレンジを吟味していくんですけど、今回はメジャーから出すってどういうことなのか、どんな楽曲を作ればいいのか、けっこう悩んだんです。でもやっぱり僕たちはバンドだし、音を鳴らしたときにみんなで〈この感じだよね〉ってなる瞬間を大切にしたいなと、原点に立ち返ったというか。その積み重ねで曲の全体像が見えてきたら、次はより楽しくおもしろいものになるように掘り下げていく。そのプロセスが、これまでよりも〈いい感じ〉でした」

2017年のミニ作『ウェザー』収録曲“ノンフィクション”
 

――〈いい感じ〉になった理由をもう少し具体的に訊かせてもらえますか?

ササキ「〈青春性〉みたいなものを楽曲に盛り込もうという僕らのテーマが、悩んでいた時期を抜けて、よりはっきり形にできるようになったんです」

――その〈青春性〉とは、どういうことですか?

永田「聴いてきた音楽を幼少期にまで遡ると、J-PopやJ-Rockから洋楽まで、メンバーそれぞればらばらなんですけど、その音楽に感動する気持ちのポイントは近くて。その気持ちを〈青春性〉と呼んでいます。それと、バンドを組んでからの近年に全員で共有して聴いてきた、海外のインディー音楽から受けた〈青春性〉を合わせて詰め込みたいと思っています。そういったテーマがよりしっかり共有できるようになったし、さらにそれを音で表現することもできるようになってきたんだと思います」

――それはすごく納得できますね。例えば海外のインディー音楽などにハマりだすと、人によってはそれまで聴いていたJ-Popが聴けなくなったり、ほんとうは今も好きなのに隠しちゃったりとか、ちょっと黒歴史的に扱うことってあるじゃないですか(笑)。でも、The Floorの音楽からは、そういう印象は受けない。

永田「そういうのはまったくないですね」

ミヤシタ「昔好きだったものも新しく好きになったものも、音楽性は違っても、感動するポイントで言えば地続きなものなので、僕らはすべて並列に捉えていて。そこをギュッとひとつにして楽曲にするのが僕らの目標であり、強みだと思います」

 

パッション・ピットを聴いて、変に凝り固まった〈バンドたるもの〉みたいな考えが吹き飛びましたね

――みなさんそれぞれが聴いてきた音楽ってどんなものですか?

ミヤシタ「僕は、〈泣けるのに楽しい〉とか、相反するものが一緒になっているものが好きな音楽の基準になってるんですけど、そういう意味ではストレイテナーの存在がもっとも大きいですね。“TONELESS TWILIGHT”(2010年作『CREATURES』)とかは本当によく聴きました」

コウタロウ(ドラムス/コーラス)「僕はTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTですね。小学生のときに姉から聴かせてもらって、それでドラムをやりたいと思ったんです。でもドラムを買える年齢じゃなかったんで、まずは形から入ろうと思って、髪型をモヒカンにしました(笑)」

――小学生でモヒカン? スゴイですね(笑)。でも、そこでなぜほかのパートではなくクハラ(カズユキ)さんに惹かれたんでしょう?

コウタロウ「自分でもわからないんです。どの曲がきっかけだったかも覚えてないけど、とにかく圧倒的に〈ドラムってかっこいい。やりたい〉って思ったんですよね」

ササキ「僕は小さな頃から歌うのが好きで、家族とカラオケに行って、ポルノグラフィティやBUMP OF CHICKENをよく歌ってました。〈バンドがやりたい〉と思ったきっかっけは、グリーン・デイですね。ミュージック・ビデオを観て、ギターを弾きながら歌っている姿がかっこいい!と。ギターを手に入れて、ストラップを長くして低めに持って」

――わかります。私も“Basket Case”のMVを観て同じことをしてました(笑)。永田さんはどうですか?

永田「僕は3歳からピアノをやってたので、クラシックを聴いたり、あとは両親にフォークのコンサートとかにも連れて行ってもらったりしてました。ふきのとうとか、あまり記憶にないんですけど、よく真似して歌ってたみたいです。で、中学に入ってバンプやASIAN KUNG-FU GENERATIONにハマって。しばらくしてヨウジに出会ってLITEを教えてもらったことがきっかけでポスト・ロックの世界に行って、有機的なものから、無機的じゃないですけどエネルギーが内燃しているような音楽にシフトしました。そこから2000年代前半ごろは、さらにエレクトロニカやアンビエント、ノイズ音楽に傾倒していって」

――その頃は、静かにエレクトロニカが盛り上がってましたよね。

ミヤシタ「札幌のTSUTAYAにもエレクトロニカのコーナーがありました。あの時期の永田は完全に内の世界に入ってたよね」

永田「そこから、2010年前後にドバッと出てきた、エレクトロニックとバンドサウンドを掛け合わせたような音楽にハマったのが次の転換期ですね」

ササキ「永田の影響で、その辺の音楽をメンバーみんなでシェアするようになったんです」

――確かに、そのあたりに登場したトゥー・ドア・シネマ・クラブや、エレクトロニックとは少し違いますけどヴァンパイア・ウィークエンドは、私がThe Floorの音を聴いた印象としては強いです。

永田「まさにそのあたりをみんなでガッツリ聴いてましたね」

ミヤシタ「僕はその中でもフォスター・ザ・ピープルが特に衝撃的でした。ほかにもウォーク・ザ・ムーン、パッション・ピット……」

コウタロウ「パッション・ピットを聴いて、変に凝り固まった〈バンドたるもの〉みたいな考えが吹き飛びましたね。〈音楽が良ければなんでもいいじゃん〉って」

パッション・ピットの2012年作『Gossamer』収録曲“Carried Away”
 

ササキ「それでモヒカンやめたんだよね」

コウタロウ「いやいやいや……中学のときにはもうやめてたよ(笑)」

ササキ「コウタロウもそうだけど、僕はいわゆるバンド志向だったので、実はみんながいいって言ってる中で一人だけ抵抗があったんです。でも、ロイヤル・コンセプトに出会って完全に変わりましたね。デビュー・アルバム(2013年作『Goldrushed』)もわざわざ取り寄せました」

――『Goldrushed』は国内盤のリリースが遅かったですし、ユーロのインディー盤しかなかったから、当時手に入れにくかったですよね。でも、今挙がったいくつかのバンドとThe Floorのスタイルを比べてみて、これまた納得できるんです。ウォーク・ザ・ムーンやロイヤル・コンセプトって、インディーとポップの線引きがないというか、その中間的な要素がある。パッション・ピットも、そこからポップの世界にも飛べるし、フリークな世界への入り口にもなるようなバンドですよね。

ササキ「J-Rockもやりたいしポップもやりたいし、インディーもやりたい。そんな欲張りな僕らにはぴったりだったんだと思います」

『Goldrushed』収録曲“On Our Way”

 

〈もっと違うリズムで踊れる曲を作りたい〉っていう思いがずっとあった

――『ターミナル』全体の流れとしては、最初に引っ掛かりの強い曲が入り口としてあって、そこからだんだんと景色が広がっていくような、豊かなリスニング体験でした。

永田「そこは意識していたわけではないんですけど、こうやって曲目を見てみると、確かにそうですよね」

――1曲目の“18”は、これまでの人気曲の流れを汲みながらも、ソングライティングやアレンジのセンスがより際立ってますね。速い曲ですがちゃんとグルーヴしているというか、ギターの音色も、ハイハットの音やベースラインの流れ、歌の乗り具合も、ぐっと良くなってます。

永田「スピード感や突き抜けていくイメージのニュアンスにはこだわりました」

ササキ「曲のイメージが鮮明だったから、歌にも迷いがなくて。その感じが出ているのかもしれません」

永田「リズムにけっこうパワーがあるんで、あまり嫌らしく聴こえないように、ちょっと打ち込みっぽくというか、トゥー・ドア・シネマ・クラブのファースト(2010年作『Tourist History』)のようなグルーヴ感を出したいっていうのは、みんなで話してましたね」

――エレクトロニックとの親和性が高い部分もあれば、バンドとしてのダイナミズムを感じる部分もある。そのメリハリへのこだわりは“18”だけでなくアルバム全編を通して感じました。

コウタロウ「特にハイハットにはかなりこだわりましたね。全曲、そのテイストに合うように、細かいところまで意識しました」

――高音域で鳴らされる単音の空間的なリード・ギターも、The Floorの大きな特徴だと思うんですけど、参考にしているギタリストなどはいたりするんですか?

永田「僕は曲を作ることが芯にあるので、その曲のイメージに合う音にすることをまず第一に心掛けていて。だから、誰かのギターから影響を受けたわけではないし、むしろギター自体にもそこまでこだわりはなくて、極端に言うと別にギターじゃなくてもいいくらいなんです」

ミヤシタ「(ギターに限らず)シンセの話なんかもよくしてるもんね」

――そうなんですね。そして、ポップで突き抜けたThe Floorの音楽性を示す肝になっているのはササキさんの爽快で透明感のある声ですよね。

ササキ「自分としては自信がないわけではないんですけど、まだまだいろんなことを模索してる段階ですね。今回は“Wake Up!”みたいなポップで優しい歌の、今までにない曲もあって、そこで自分にしか出せないものをどう突き詰めていくかチャレンジできましたし、現段階では最大限のものが出せたとも思います」

――作曲担当の永田さんは、ササキさんのヴォーカルをどう捉えていますか?

永田「ハヤトと一緒にやりたいと思ったのは、まさに声なんです。自分の書いた曲をよりスケールの大きいところに連れて行ってくれるんですね。だから彼の声を意識して作ることもあるくらいなんですけど、最近はもうどんな曲でも安心して任せています。彼の声のおかげでThe Floorのサウンドの幅を広げられている部分もあるので、歌ってもらえて感謝、みたいな気持ちですかね(笑)」

――いまササキさんがおっしゃった“Wake Up!”はおもしろい曲ですよね。テイラー・スウィフトの“Shake It Off”やファレル・ウィリアムスの“Happy”を思わせる曲調なんですけど、アコースティック・ギターと生ドラムを使っていて。

永田「まさにファレルへのオマージュなんです。もともとは個人的な趣味で書いた弾き語りの曲で、ヴォーカルにはそれこそテイラーとか、女性アーティストの姿が浮かんでたので、〈バンドで使う曲じゃないな〉って思ってたんです。でも“Happy”みたいに、男が歌ってもはまる感じもある気がして、スタジオに持っていきました。で、ドラムをループさせてみようと」

ミヤシタ「それで言うと、今作はリズムが多彩になったこともポイントだと思いますね。今までは4つ打ちが多かったんですが、〈もっと違うリズムで踊れる曲を作りたい〉っていうのはずっとあって。“煙”や“POOL”も、その思いの表れですね」

――“POOL”の展開もかなり刺激的でした。基本的には軽快なギター・ロックなんですけど、サビ前はずっしりとしたオルタナティヴなサウンドに、間奏はなんとサンバですもんね。

永田「デモの段階ではインディー・ギター・ロックっぽいイメージだったんですが、スタジオで合わせたときにサビのウキウキ感がすごく良かったんで、じゃあもっとウキウキしようぜって、パーカッションを入れたんです」

ミヤシタ「僕ははじめ〈それどうなの?〉と思ったんですけど、みんなで探りながらセッションできたのは良かったですね」

――“イージーエンターテインメント”は昨年リリースしたミニ・アルバム『ウェザー』に収録されていた“Cheers With You”に連なる曲ですね。1975とウォーク・ザ・ムーンのおいしいところを掛け合わせたようなキャッチーさが光ります。ハンズ・クラップやみんなで合唱できるコーラスも入ってきますが、そこはさらにライヴなどでの共有性を高めたかったからですか?

ササキ「単純におもしろいと思ったからですね。嫌らしくなく自然にできたんじゃないかと思います」

永田「無理にキャッチーにしようとするとわざとらしくなるんですけど、曲のアレンジとしてうまくハマったので使ってみました」

2017年のライヴ映像。2016年のEP『Re Kids』収録曲“Wannabe”、2017年のミニ作『ウェザー』収録曲“Cheers With You”を演奏
 

――ほかにも、The Floorの音楽性を示す一筋縄ではいかない楽曲が並んだ、現在の名刺代わりの一枚になっていますね。今後のThe Floorはどうなっていくんでしょう?

ミヤシタ「『ターミナル』というタイトルには、いろんな人に聴いてもらいたいという思いと、僕らの音楽的な拠点という意味があるんです。この作品を軸に楽曲のヴァリエーションを増やしていって、個人的には二面性が内在してる曲をもっと作っていきたいですね」

永田「自分たちのやりたいことを突き進めてきた結果、今回バンドの基盤となる作品が出来て、良い形で新しいスタートを切れたので、まずはこのまま継続していきたいですね。それに加えて、最近は海外のフェスのラインナップを見ても普段音楽を聴いていても、バンド全盛の頃からはポップ・シーンの音楽が変わってきているのを感じていて。迎合するわけではないけど、今後はそういう時代感ももっと意識したものができればと思ってます」

 


『ターミナル』リリース・ツアー
〈The Floor Presents 「In Train Tour」〉

2018年3月9日(金)北海道・札幌Sound Lab mole
2018年3月20日(火)大阪・心斎橋Music Club JANUS
2018年3月23日(金)東京・渋谷WWW

その他のライヴ情報

コンセプト体感イベント『♯roll ♯roll ♯roll 2018 』
2018年2月9日(金)大阪福島LIVE SQUARE 2nd LINE
共演:CRAZY VODKA TONIC、THE BOY MEETS GIRLS、アンテナ
MC : やっさん(超能力戦士ドリアン)

第69回さっぽろ雪まつり
2018年2月12日(月)北海道・大通西8丁目 雪のHTB広場

SHELTER presents. “BATTLE60×60” 〜feat. THE REAL THINGS〜
2018年2月13日(火)東京・下北沢SHELTER
共演:Cloque.

フィッシュライフ presents 1st album 「未来世紀エキスポ」 リリースツアー “極東パビリオン”
2018年2月16日(金)愛知・名古屋ell.SIZE
共演:フィッシュライフ、the quiet room
2018年3月2日(金)神奈川・横浜BAYSIS
共演:フィッシュライフ、KAKASHI

JFL presents「LIVE FOR THE NEXT」supported by 日本セーフティー
2018年3月25日(日)北海道・ZEPP SAPPORO
共演:MAN WITH A MISSION

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