心に寄り添う奇跡のヴァイオリニスト 待望のメジャー・デビュー・アルバム

 「ヴァイオリンがなければここまでこれなかった」。鍛え上げた筋肉で快活に語るヴァイオリニストは、早産で生まれ、3歳の時、脳性麻痺と診断された。両上肢機能障害、視覚に難あり。だが、聴覚は鋭かった。4歳でヴァイオリンドクターの中澤宗幸とヴァイオリン教師の中澤きみ子に出会う。「たまたま偶然、第一回目のレッスンで音が出たんですね。大好きになりました!」歯を磨くように毎日弾いた。

 「もうひとりの師匠が中西俊博先生です。10歳の時に初めて聴いて感激した憧れの演奏家。初回レッスンは、脚だけステップを踏んで3時間、笑顔で優しく厳しく。こんにゃくや木綿豆腐を握り微細な感覚を身につける特訓もしました」

 小5の時、障がい者クラスから通常クラスへ。〈井の中の蛙、大海を知らず〉だった優等生はとまどう。小6で転校。いじめのターゲットに。失明宣告を受け、不安と孤独で心は荒れ、やさぐれた中学時代。それでもヴァイオリンは続けた。祖母から医療刑務所での慰問演奏をすすめられる。表題曲“孤独の戦士”はその頃に生まれた。マンモス校では車椅子を余儀なくされ、医師や先生を恨み、健常者を敵視する日々。脳性麻痺が進行する不安。中西先生に心をうちあけたら、〈つらいよね〉と励まされ大泣きした。そして気づいた。お世話になっている家族も先生も健常者。支えられながらすべてを敵にまわして戦っていた。自分のためでなく、人のために演奏していこうと思った。

 14歳の後半。2011年3月11日。東日本大震災が起こった。居ても立っても居られず、母と祖母と三人で被災地ボランティアへ。福島の二本松市を訪ね被災した人々と対話して気づく。「自分には家族がいる。生きていける。なんと幸せなことか」。被災地の方々ために演奏をしたいと思い、筋トレに励んだ。

 16歳、東北での支援コンサートが実現した。思いがけず、中澤宗幸が製作した津波ヴァイオリン(Tsunami Violin)の一本を託された。被災地の流木で製作され、〈魂柱(こんちゅう)〉の原木は陸前高田市の“奇跡の一本松”。収録曲“浜辺の歌”は、この津波ヴァイオリンで演奏している。

式町水晶 孤独の戦士 キング(2018)

 デビューアルバムには心づくしの選曲が並ぶ。6年間の努力の結晶というピアソラの“リベルタンゴ”のアドリブはのびやかで自由に。オリジナル曲に込められた逸話も深い。辛いときに支えてくれた恩人や恩師に感謝の気持ちを込めた曲。物語を紡ぐように奏でられた愛の曲etc.、聴く者の心を包みこむように響く。混沌の時代、〈水晶〉の名を持つ21歳のヴァイオリニストの音色に、濁りはない。

 


LIVE INFORMATION

式町水晶『孤独の戦士』発売記念 ミニライブ&撮影会
○5月12日(土) 15:00 川越モディ(1階イベントスペース)
○5月26日(土) 15:00 成田ユアエルム 1Fセンタープラザ
○6月2日(土) 15:00 上尾ショーサンプラザ 1Fセンターコート
○6月17日(日) 15:00 エルミこうのすショッピングモール 1Fセントラルコート

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