いまや押しも押されもせぬ人気者となった3人組、ルーカス・グラハム。彼らの名前が広まったのは、“7 Years”の特大ヒットがきっかけだった。〈僕が7歳だった頃〉という歌詞で始まり、〈60歳になった時に自分の人生をどう振り返る?〉という誰もが抱くであろう命題を4分足らずの曲にしたため、全英1位/全米2位をはじめとする各国のシングル・チャートを席巻。グラミー賞では主要2部門を含む全3部門にノミネートされた。そう、このデンマーク生まれのソウル・ポップ・バンドは、一夜にしてスターの仲間入りを果たしたのだ。同曲のインパクトは現在も薄れることなく続いているが、前作『Lukas Graham: Blue Album』のリリースからちょうど3年、このたびサード・アルバム『3: The Purple Album』が届けられた。

LUKAS GRAHAM 3: The Purple Album Warner Bros./ワーナー(2018)

 “7 Years”を超えなければというプレッシャーも当然あっただろうし、突然の成功でグループの置かれる状況や、バンドの顔役であるルーカス・グラハムの私生活も大きく変化した。実際に彼は長年交際してきたガールフレンドと結婚し、娘も誕生。パパとなった30歳の目に映る世界は、3年前と大きく異なっているに違いない。〈子守り歌〉と題された“Lullaby”では、娘に対して〈自分が持ってなかったものをすべて与えたい〉と歌い、その一方で〈娘のいちばん大切な最初の言葉、最初の一歩に自分は立ち会えない〉と仕事と家庭の板挟みで悩む姿も投影されている。また、先行シングル“Love Someone”では〈かけがえのない家族をもし失ったら……〉と不吉な考えをよぎらせつつも、守りたい人がいる素晴らしさ、絶対的な人間愛をスウィートに表現。前作が主に亡くなった父親に捧げられているとすれば、今作は家族や娘に捧げたアルバムと言えそうだ。

 捧げたと言えば、オープニングを飾る“Not A Damn Thing Changed”は、今年1月に自殺した幼馴染みの友人ウィリアムへ宛てた曲。激しい怒りが込められたルーカスのヴォーカルに驚くリスナーも多いだろう。地元で撮影したMVには、故人を知る旧友たちも多く出演している。彼らが生まれ育ったコペンハーゲン市内のクリスチャニアは、反政府団体によって作られたユートピア地区であると同時に、常に当局から監視され、さまざまな迫害や抗争事件の舞台となってきたエリア。そんな特異なコミュニティーで育ったルーカスが書く、実体験をもとにしたリリックもユニークで、興味をそそられるポイントだ。もっと言うと、優しさのなかにも意志の強さを感じさせるソウルフルな彼の歌声は、そうした厳しい環境だからこそ磨かれたのかもしれない。

 本格的に曲作りを始める20歳頃までは、ドクター・ドレーなどヒップホップばかり聴いていたというルーカス。今作ではヒップホップの要素が後退しているが、代わりにムーディーでメランコリックなサウンドが全体を覆い、ゴスペル色やダイナミックなコーラスもあちらこちらに降り注ぐ。“Unhappy”なんてタイトルの曲が、とびきりドリーミーでハッピーだったりするのもおもしろい。

 アルバム全体のプロデュースを手掛けたのは、引き続きリッシことモーテン・リストープとピロことモーテン・ピレガードの2人。リッシはグループの元キーボード担当で、ピロは映画業界で音響の仕事をしていた人物だ。このバンドのサウンドがシンプルなのにドラマティックでメロディアスなのは、彼らの手腕によるところも大きいはず。

 〈自分たちが得意とすることにフォーカスして取り組んだ〉という『3: The Purple Album』。〈Violet〉を作品全体のイメージ・カラーにした理由は、ルーカスの2歳になる娘の名前が〈Viola(イタリア語で紫)〉だからだとか。そんな今作はとことん子煩悩なパパぶりを全開に、自身のいまを仲間と共にそのまま映し出した一枚である。

 


ルーカス・グラハム
ルーカス・グラハム(ヴォーカル)、マグナス・ラーソン(ベース)、マーク・ファルグレン(ドラムス)から成るデンマークの3人組。2011年の結成直後にSNSで公開した“Ordinary Things”などが評判となり、翌年3月に地元のレーベルからファースト・アルバム『Lukas Graham』を発表。その後、精力的にツアーを展開し、2013年にワーナーと契約を結ぶ。2015年に2作目『Lukas Graham: Blue Album』でワールドワイド・デビューを飾り、同作からのシングル“7 Years”が世界各国でヒット。グラミー賞や〈BBC Music Awards〉にもノミネートされたほか、2016年には日本デビューも果たす。このたびニュー・アルバム『3: The Purple Album』(Warner Bros./ワーナー)をリリースしたばかり。